第67話 初めて
今現在は、そのSランクの魔物は飽きたのか何処かに行ってしまって開通になったとのこと。
飽きたのかどうかは定かではない。
だが、今は開通していて商人が行き来している。それは事実。
「で? どんな話だったんだ?」
「あぁ。ムルガ王国は今治安が悪くて護衛を付けないと行けないほどらしい。そこで護衛についてくれた男の身なりがそうだったようだ」
「名は?」
「名は名乗らなかったらしいが、【大地の大剣】という名で活動しているらしい」
男性も商人伝手の話だから詳しくは知らなかった。
ただ、その身なりはガイさんの特徴と一致するそうな。
アリーも覚えているらしい。
「もっと情報が欲しいが……」
ジンさんは自分が直ぐにでも行きたいのだろう。
しかし、今の立場上長期でギルドを空けるわけにはいかない。
サナさんも同じくだろう。
そうなってくると行ける人は限られる。
それ程の実力があって遠出できる人、つまり……。
「テツ? また遠出になっちまうが、頼めるか?」
「はい。俺は構いませんが、実際にガイさんを見たことがないもので……」
「そうだよな。何か策を────」
「私が行きます!」
名乗りを上げたのは……アリーであった。
たしかにガイさんを見つけるには適任かもしれないが。
「アリーよ。おめぇは戦えねぇだろ?」
「はい。でも、時間はありますよね? 別に一月くらい鍛錬に費やしてもお父さんは逃げないと思います」
そう進言したアリーの目には覚悟が見て取れた。
自分が父親を捜しに行くんだと。
鍛錬くらい苦でもないと。
「はぁぁ。お前達親子は本当に言い出したらきかねぇからなぁ。テツ。面倒見てやれ」
「はい。そこらへんの冒険者より強くしてみせます。あと、言ってませんでしたが、勇者と共に魔王を討伐した時に固有能力に目覚めました。その名を絶対防御」
「なんだそりゃぁ? 完全に守ってくれるのか?」
「はい。だから、安心してください。何者にも指一本触れさせません」
そう。俺の固有能力は自分以外にも展開可能だった。それは、この前の王女様の一件でわかっている。
しかし、それを複数同時に出せるのかまでは分からない。
使いこなす為には色々と試す必要がある。
アリーを鍛えながら、俺も能力を使いこなせるようにしよう。
魔法もまだまだだからな。
色々と出来るだろうから更に磨いていこう。
こう考えるとやる事が山ほどある。
「なんだとぉ? テツも勇者になったってことかぁ?」
「たぶん……称号として手に入れたんじゃないかと、ヒロには言われました。だから、固有能力を発現したと」
王様に聞いたのだが、今まで後天的に勇者になったものは居ないそうな。
それはそうだ。
勇者に任せるのを他の人がついて行ったりはしないだろうからな。
「そうか。テツぁデタラメだな。勇者にもなったか……この街の英雄でもあるし……あっ。そういえばテツのランク上げねぇとな?」
「そんなの後でいいですよ」
「おめぇ、そうはいかねぇよ? 魔王を倒したのにBランクにしたままとあっちゃ俺の顔が潰れるわ」
「そうですか? じゃあ、明日お願いします」
こんなにみんな飲んでるのに今やるという選択肢は無いだろうと思い、そう進言した。
だが、ジンさん的には今だったらしい。
「テツ! カード貸せ!」
「はい。ホントに、後でいいですよ?」
そう言ってもジンさんはどうしても、今ランクアップさせたいらしい。
「サナ!」
楽しくアリー達と飲んでいたサナさんを呼びつける。
明らかに不機嫌になる。
ブスっとした顔でこちらに歩いてくる。
「何よ!? 楽しんでたのに!?」
「話ぃきぃてなかったのかぁ? テツのランクアップだよ!」
「いや、聞いてたけど、明日でいいんじゃない!?」
「今だ! この皆が居る所で、Aランクの誕生を祝うんだよ!」
「あぁーもう分かったわよ!」
苛立ちを隠さずに怒鳴るとギルドに向かった。
なんだか、こちらとしてはいたたまれない気分である。
申し訳ないような、気恥しいような。
「テツ! お前のランクアップ祝いも兼ねるぞぉー! みんなぁー! コイツは今日! Aランクだ!」
「「「おぉぉぉー!」」」
歓声が上がった。
Aランクとはそれ程までに凄いことなのだ。
魔王を倒したからSランク、ともいかないようだ。
俺としてはSランクなんて大層なランクは要らないので、Aランクで満足している。
他の国でもAランクとなると無下にはできない。小国一つくらいの発言権があるのだ。
エールを飲み、気恥しさを酒の酔いで紛らわせようとするが、酔える身体では無い。
本当に酔える人を羨ましく感じる。
「あっ! そこにいたらぁ? テツしゃん!?」
呂律が回っていないアリーはこちらにフラフラと歩いてくる。
こんなに飲ませたのは誰だ?
全く。こうなる前に帰らないと。
無理やり隣にドカッと座る。
そして抱きついてきた。
柔らかい感触が腕を包む。
触れているもののことは考えないようにしている。だが、必要以上にくっついて来るのだ。
「アリー? そんなにくっ付いたらきゅうく──」
唇が触れていた。
柔らかい感触が唇にあたり。
離れた後に光る帯を引く。
「ふふっ」
そう笑うと、目を瞑り、寝た。
俺の唇が初めて奪われた瞬間だった。
アリーも……初めてだっただろうか?
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