第71話 北へ

「皆、準備はいいな?」


「「「はい!」」」


 ギルド前に集まって最終確認を終えたので、ムルガ王国に出発だ。


 今回暁の三人は遠出の遠征は初めてだ。

 だが、野営などはしっかりと経験している。

 さほど、問題にはならないだろう。


「テツ! 頼んだぞ!」


「頼んだわよ! みんな!」


 ジンさん、サナさんがお見送りをしてくれた。

 ミリーさんも来てくれるかと思ったのだが、フルルとアリーまで行ってしまうという事態に寂しさから見送りには来られなかったようだ。


 手を振って北に歩みを進めていく。

 東には森が広がっていて抜けると聖ドルフ国がある。

 北には草原を抜けると荒野が続くのだ。

 そこを抜けると山があり、山を切り開いて作った国がムルガ王国。


 そして、あと二ヶ月程経つと、時期的にムルガ王国には雪が降るのだ。

 その雪が降る前に着きたいという計画で今回は遠征に行く。


 見送られて進む旅路は、新鮮な空気だった。


 草原には街道と言うより、人が歩いたせいで草が禿げていると言った方がいいような道が出来ている。


 見通しがいいため、魔物が来ても分かりやすいが、あっちも見つけやすい。

 慎重になりすぎてもしょうがないので気楽に進む。


「ここは自分が前に出ます!」


 先頭を歩くのはウィン。

 大盾を片手・・に歩く。


 その後ろにはダンとフルル。

 緊張した面持ちのアリーが続く。

 殿は俺だ。


「アリー、緊張するか?」


「うっ。緊張しないといえば嘘になりますね。何せ北方面には初めて来ましたし、こんな遠征なんて初めてですから……」


「大丈夫か? 何かあったら言うんだぞ?」


「ありがとうございます!」


 俺とアリーのやり取りを見ていたダンとウィンは頬が引き攣っている。


「なぁ、俺達はこのラブラブムードの中遠征しなきゃいけないのか? 辛いぞ?」


「自分もそう思うけど、取り敢えず黙れよ。聞こえたらどうすんだ?」


 聞こえてるけどな。

 一々言うことでも無いだろう。

 そんなにラブラブムードだろうか?


 まぁ、コイツらには女っ気がないからそう思うのかもな。

 フルルは兄妹みたいなもんだろうしな。


「あんた達……慣れないと……辛いよ……」


 フルルよ。なぜそんなことを言う?

 そんなに俺とアリーはラブラブしてるか!?


「そん────」


 俺がその言葉を否定しようとした時。

 黒い群れが現れた。


「みんな外を向いて輪になるぞ」


 北の方に出る魔物は念の為資料を集めて確認はしてきている。

 これはブラックウルフ。

 影移動を駆使して戦うウルフ系モンスター。


 いきなりCランクのお出ましである。

 暁には少し厳しいかもしれないが、まぁ、何とかなるだろう。


 輪になったのには理由がある。

 この魔物は囲んで攻撃してくる習性がある。

 群れをつくる魔物はほぼそういうものだろうとは思うが。


「前だけ注意しろ! 確実に攻撃してくるタイミングで得物を突き出せ!」


「「「はい!」」」


 ちなみに、フルルも杖持ちという事でアリーと同じように杖術を教えている。

 実力は……フルルが悔しがっていた姿が思い出される。


「グルルル!」


 全体で十五体くらいの群れだ。

 正面には三体程が間合いにいる。

 俺は、リーチの長い刀を鞘に入れたまま構える。


 皆で輪になっている為に横には振れない。

 縦に振ることで対処する。


「ガァァ!」


 群れ全体が一斉に飛びかかってきた。


「ふっ!」

「オラァ!」

「せい!」

「やぁ!」

「!……」


 それぞれでタイミングを合わせて対応する。

 三分の一は一撃で仕留めた。

 残りはガードしたり受け流してやり過ごす。


「自分が前に出ます!」


 盾を出して前に出る。

 そして、盾を叩いて気を引く。

 これは盾師の技術がなせる技である。


「かかって来るがいい!」


 咆哮は敵の気を引くと同時に萎縮させる効果がある。ブラックウルフの中でも萎縮する個体もいる。


「「ガァァァ」」


 五体が一気に駆けてくる。

 正面から突進する気である。

 ウィンは盾を体の前に構え右足を引き、衝撃に備える。


 迫る直前、盾を一歩引いた。

 あれをやる気だな。


 盾にはガードするだけではない戦い方がある。これだけデカくて硬いものをガードのみに使うのは勿体ないのである。


 叩きつけて使うのだ。

 シールドバッシュである。


「おおぉぉぉ!」


 タイミングを合わせてブラックウルフに盾を叩きつける。

 ドガッという手応えのある鈍い音をさせて四体・・を吹き飛ばす。


「ふぅ」


「ガァァ!」


 ドスッという音と共に、ブラックウルフの首にナイフが突き刺さる。


 ギョッとした顔でブラックウルフを見るウィン。後ろから迫っていた事に気づいていなかったようだ。

 まだまだである。


 先程の攻撃は四体を捨て身にして一体が影移動で後ろに移動し、油断したウィンを仕留めようとしたのだろう。


「ウィン! まだ後五体いる! 気を引き締めろよ!」


「おす!」


 盾を再び構える。

 残りの五体は「グルルル」と言いながらこちらの様子を見ている。


 油断はできない。

 俺は一歩前に出た。

 一回り大きな身体のブラックウルフも一歩前に出る。


「ガァァ!」


 大きな身体を影に沈めた。

 何処に来る?

 周りの影を見渡すが出てこない。


「ガァァ!」


 見事に背後を取られてしまった。

 俺もまだまだだな。


「テツさん!」


 心配させてすまない。

 アリー。大丈夫だ。


 刀を構えたままクルッと前宙する。

 後ろにいたブラックウルフを縦に真っ二つに切り裂いた。


 残りのブラックウルフがリーダー格がやられた事を悟ると一気に攻撃してきた。

 一体はナイフで首を落とし一体は蹴り飛ばす。

 残りはしゃがんで避けて、次の攻撃で最後の二体を仕留めた。


「テツさん! 大丈夫?」


「あぁ。心配かけたな。ちょっと予想が外れてしまった。まだまだだな」


「ふふふっ。でも、最後はキチッと仕留めて凄いです!」


 これは、もう新婚のような雰囲気である。

 ダンとウィンは呆れている。

 もう慣れるしかないと諦めることにしたのであった。


「テツさん……行くよ……」


 フルルは笑顔で先を歩く。

 この光景は見慣れたものだから。

 テツとアリーの二人の仲の良さはフルルには心地よかった。

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