第97話 王城にて
「ぐっ! マリア王女を狙うのはやめろ!」
「何でやぁ? 弱い所を狙うのは定石やろぉ?」
「コイツ!」
ギィィィンッ
何とか攻撃をはじき返す。
王城の中ではヒロが王女様を守って苦戦していた。防戦一方とはこの事だろう。
ヒロほどの男が何故苦戦しているのか。
それは、転移魔法の使い手で、死角から王女への攻撃をされている。それを必死で止めている所のようだ。
「ぐぅぅ! これじゃ、ジリ貧だね」
何とか守りながら反撃しようと試みているのだが、それがなかなか難しいのだ。
出てきたところを攻撃しようとするとすぐに引っ込んでしまい。モグラ叩きより難しい状況となっていた。
攻撃してくるタイミングか分かればいいのだが、それを見切るのは不可能だと思われた。
ヒロの目の動きを見ると普段と違う。異常にキョロキョロしているのだ。
出てくるタイミングをうかがっているのだろう。右、左、右、上、下、左、上。
「ここだ!」
「おぉ。当たり! でもざーんねんやったなぁ。あんさんの攻撃は当たらんのよぉ」
ヒロの放った攻撃は避けられ、そして、虚しくもまたどこかへ転移してしまった。
これがどれ程続いていることだろうか。
「くそ……救援はまだかな?」
「あははは! 助けを待ってんの? 無駄無駄。なんたってうちの国の国家戦力投入してるんやで? 今頃外は火の海やって!」
だが、ヒロは少しも臆していない様子であった。それには相手も怪訝な顔をしている。
「なんや、希望がありそうな顔やな?」
「いや、そんな事は無いさ。ただ、僕の親友は必ず駆けつけてくれる。そう信じているだけさ」
「はっ。親友なんてそんなもん当てにならんならん! 容易く裏切るんやからな! あきらめぇ!」
転移が先程より早くなった。
目で追えないほどになっている。
焦りの見えるヒロ。
「はっはぁ!」
突如横から現れた男。
完全にヒロの不意を付いている。
ヒロの視線がそいつを追うが、身体が動かない。
ゆっくりと王女へ剣が振り下ろされる。
間に合わないか。
「絶対防御!」
ガキンッという音が響き。
転移男の剣は防がれた。
「はぁぁ。遅刻だよ? 待たせすぎ」
そこに現れたのは、親友のテツだった。
「おう。すまん。待たせた。ちょっと敵の多さに手こずってしまってな」
「なっ!? あんさん、なにもん!?」
関西弁の男を見る。
やはり、あの男あの時の。
「お前は組織に居たやつだろう? この世界に召喚されたのか?」
「ん?…………よく見たら、見たことある顔や! あっ! 養成所で一緒やったよなぁ!? ワイはこっちには召喚されたんよ! 懐かしいわぁ」
テツのことを覚えていたようだ。
やはり、あの男か。
という事は、かなり厳しい戦いになるな。
「テツ、知ってる人?」
「ヒロも知ってるはずだ。何せ、あの組織ではトップの成績だったからな」
「えっ!?……あっ! 見た事あると思ったら表彰式見たいなので見た事あるのか! 一番……」
「「人を殺した殺し屋」」
俺とヒロの声が重なる。
そう。躊躇なく人を殺すこの男は前世の組織ではかなり重宝されていた。その男が目の前に。
「この人、強いなぁと思ったんだよね」
「にしても、ヒロなら戦いようがあるだろう?」
「王女様を守るので手一杯だったよ。弱点を狙うっていう容赦のない攻撃だったからね」
「あぁ。まぁ、マニュアル通りだな」
「だねぇ」
あの時のマニュアルには弱点は積極的に狙っていくことという非常に効率重視のことが書かれていて。
非人道的なことが沢山書かれていたマニュアルだったのだ。俺とヒロも当初はその通りにしてた訳だが。
「ははは! 楽しくなってきたやないか! ワイのこの能力は最強や! 捉えられんやろ?」
パパパパッと色んなところに転移するその男を捉えるのは確かに難しいだろうが。奴も人だ。狙うところはだいたい分かる。
「ふっ!」
後ろにナイフを突き刺す。
そこに丁度現れた男。
肩口にナイフが突き刺さっている。
「なんやねん! なんで!? クソォ! 空間エレメント!」
この男もエレメント化ができるようだ。
六芒星と言ったか。
そいつらは皆使えるようだが。
街の方は凄まじい音がしていたが、戦闘音だった。誰かが、この国を守るために戦ってくれているという事だろう。
「何あれ!?」
「あぁ。アイツらは属性化できるらしい。物理攻撃は効かない。魔法攻撃は効くが、あれはどうなんだろうな?」
「なにそれ? 属性化? 僕、そんなのできないよ?」
「だろうな。俺はさっきできるようになったけど……」
「はぁ。マウント取らないでくれる?」
「お前もできるようになればいい」
「簡単に言わないでよね……」
俺の言ったことに何やら呆れた様だ。
しかし、できるようになったのは事実だし。
ヒロもできるようになると思っているのでな。
「まぁ、ちょっと行ってくる」
そう言うと身体を真っ黒に染め上げ。
ナイフも黒で覆い駆ける。
転移と言うよりその空間そのものになってその場に居るようだが……。
「はっ! はっ!」
ナイフを叩きつけて空中にバッテンに黒い軌跡を残す。
「はははは! そんなの効かないよ? こっちは空間自体になってるんだからね。無敵だよ」
あぁ。そういう事か。
空間になっているから無敵だと。
だから転移すらする必要は無いということか。
「それって、攻撃できないんじゃ……」
ヒロの言葉に反応したように、ビッと目の前にナイフが投げられる。
咄嗟に頭をズラして避ける。
「こんな事ができるんよ? 最強やろ?」
なるほど、何処からでも攻撃をできると。
確かにそれは考えようによっては無敵かもしれないな。けど、うちには天敵が居るみたいだ。
「ふふふっ。今ので大体のいる空間の場所は特定できたよ?」
「まぁた。強がりはよしとき?」
「僕も、強くなる為に足掻いてたんだから……」
ヒロは剣を抜いて力を抜き。
腰を落として虚空を見る。
何かイメージができているんだろう。
「ヒロ……やってやれ。お前の力……見せてやれ」
俺の小さく言い放った言葉は誰にも聞こえていない。しかし、聞こえたかのようにヒロの目は明らかに先程と違う色を宿していた。
「セヤァァァ! 絶対切断!」
剣を縦横、斜めに幾重にも切りつける。
その剣は虚空を切り裂いたように見えるが、それは違っていたようだ。
「ガァァァァァァ!」
全身から血を吹き出して倒れたその男は。
地面に倒れ込み、こちらを見つめる。
「ぐふっ! くそぉ。最強やと思ったんやけどなぁ」
「ふんっ。コイツはお前の天敵だったな?」
俺の言い放った言葉に鼻で笑い。
そして、虚空を見つめたまま息を引き取った。
こうして、聖ドルフ国への襲撃事件は幕を閉じた。
国王が後から正式な文書で抗議した時に発覚したそうなのだが、王子が勝手に暴走して国家戦力を投入して攻めてきたらしい。
相手の国からは謝罪されて、友好関係を築きたいと提案があったそうだ。
心の広い国王はそれを受け入れた。
それにより、多額の倍賞金も支払われたそうだ。
今は復興に励んでいる。
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