第83話 驚きの事実
「それは本当なんです」
テントからでてきたティアは言った。
いきなりの事で俺も内心動揺している。
顔には出さない。
「証明出来るものは?」
少し逡巡したフィアはおもむろに胸に手を当てる。
手を服の中に突っ込み。
取り出したものは。
何やら刻印の入ったペンダントだった。
シーダ達三人は剣の柄を見せる。
同じ刻印が施されていた。
「それが証拠か?」
「えぇ。これが国の王族に関わるものを示す印よ」
そう言われて気づく。
俺にはムルガ王国の刻印など分からない。
「動くな。皆を起こす」
各テントを回ってそれぞれに起きてもらう。
ダンとウィンは眠そう。
フルルなんぞ立ちながら寝ている。
アリーとルリーだけがしっかりと起きてくれた。
「起こしてすまない。ちょっと見てほしいんだが……」
皆に刻印を見るように促す。
前に出たダンとウィンは重そうな瞼を持ち上げてジッと見ている。
「ん? これは、ムルガ王国の王族関係者が持っている刻印です」
ウィンが答えてくれた。
ダンが横で頷いている。
間違いないのだろう。
「本当みたいだな」
フィアとシーダと後ろの二人組を見ると胸を撫で下ろしていた。
どうなるか心配だったのだろう。
俺が納得して一安心といったところか。
元々敵対する気はなかったそうだ。
ただ、俺達の行動を監視して判断し、必要とあらばフィアを救わないといけない。
寝てる間に縛ってフィアを救出しようとしていた所だったそうな。
シーダはその必要はないと感じていた為口論になってしまったと。
「やはりシーダさんの言っていた通り、我らに敵対する人達ではなかったようだな」
今まで口を開いていなかった男がしゃべりだした。
シーダは笑いながら説明し出した。
「いきなりしゃべったから、驚いただろ? コイツ嘘が下手でな。しゃべるなと指示していたんだ」
「そうだったのか。ただ無口なだけだと思っていた」
「ははは。狙い通りで良かった。改めて、ムルガ王国、王国騎士団近衛師団師団長のシーダだ。ソフィア姫を救ってくれて有難う。礼を言わせてくれ」
驚きの余り目を見開いて固まってしまった。
所作が上品な所があるなとは思っていたが。
まさかお姫様だったとは。
それに近衛師団師団長とは。
よくわからないが偉いんだろうなという想像はついた。
「驚いた。師団長様にお姫様だったとは。俺は冒険者のテツだ。冒険者カードも見せるか?」
「あぁ。一応頼む」
冒険者カードを渡すと今度はあちらが目を見開いて驚く番だった。
少しの硬直を経て。
冒険者カードを返してきた。
「こっちも驚いた。まさか数少ないA級冒険者とは……。俺が敵わないわけだ」
「いやいや、不意打ちだっただろうしな。さっきのは無効だ」
「ははは。そうしておいてくれたら嬉しいよ」
頭に手を置きながら笑っている。
チラッとソフィアを見ると。
「ソフィア姫。ご無事で何よりです。我々の不始末で申し訳ありませんでした」
フィアの前に膝立ちになり、深々と頭を下げた。
何やら騎士団のせいで攫われたようだ。
「あれは仕方がありません。まさか使用人が手引きしていたとは。正直、私も驚きましたから」
話を聞いたところ。
城を出て外出途中の用を足す時に一緒に付いて行った女性の使用人が賊とグルだったようなのだ。
それでまんまと攫われてしまったという訳らしい。
「それでなぜこちら側に追ってきたんだ?」
「馬車が高速で駆けて行ったという目撃証言があったのだ。しかし、こちらに来ても中々手掛かりが得られず困っていたところで、テツさん達に出くわしたというところだ。なぜテツさん達とソフィア姫が?」
「ここから一日程離れた町に運ばれていくのを偶々見かけて助けたんだ。このルリーと一緒だったんだけどな」
シーダは不思議そうな顔をする。
この子の事は知らないようだ。
「この子はなぜ攫われていたんだろうか? 危害も加えられていたようだし。酷い扱いを受けたんだな」
「それは俺にもわからない。フィアも自分が攫われた時にはもういたらしい」
二人でフィアを見ると肯定を表すようにコクリと頷いた。
「私にはなぜこの子が攫われたかはわかりません。この子自身もわからないようです」
ルリーに注目が集まるが話している間に寝てしまったようだ。
アリーの腕の中で寝息をたてている。
「俺はこの子を元いた所に送っていくと約束したんだ。フィアは任せていいのか?」
「あぁ。でも、行先は同じだ。一緒に向かおう。国に入る時も我々と一緒だと入りやすいだろう」
それもそうか。
ただ他国の人間が入国したいというよりは、元々ムルガ王国の人間に案内してもらっている方が入りやすいだろう。
お言葉に甘えることにしようか。
「それなら頼む。アリーもシーダを気に入ったようだしな」
笑いながらチラリと見ると。
少し顔を赤くしながら慌てている。
「そ、そういうんじゃないですよ!? ただ……テツさんはそういう冗談みたいなことあまり言わないじゃないですか? なんだか慣れてないから必要以上に笑ってしまって」
「はっはっはっ! それは嬉しいな。もう騎士団とかお姫様は笑ってもくれないんだ」
「そりゃそうですよ。一日に何回も言われたら笑えなくなります」
シーダが冷たくあしらわれている。
笑い声が木霊する。
警戒していたここ最近の気持ちが晴れやかになり。
この先の旅路に少し光が見えて来たのであった。
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