第63話 俺の太陽
「ヒロさんは魔王討伐が終わったんですから、ずっと私といれますよね?」
「ん? んーそうだねぇ。テツとベルンで暮らそうかと……」
「えぇ!?」
「んー。困ったなぁ」
ヒロは頬をポリポリと掻きながらため息を吐いている。
どうするつもりだろうか。
たしかにヒロはベルンに用事はない。
聖都に居てもいいと思うが。
ヒロの気持ち次第といった所だろう。
「んー。しばらくは聖都に居ようか」
ヒロは聖都を選んだようだ。
まぁ、こっちの世界で暮らさないといけないわけだしな。
王女となら明るい未来が待っているだろう。
「あぁ。俺は明日には立つから」
俺はそうする。
アリーを早く起こしてあげたいしな。
薬は一緒に作ってもらったのが余ってる。
それを使う。
ミリーさんもフルルも、何気にジンさんも待っていると思うから。
「うん。行ってあげて!」
「俺は師匠について行きます!」
「アケミは聖都にいようかなぁー。好きな服屋さんとかあるしぃー」
「ワタクシはショウについて行こうかと思います。あっちの街も肌に合いますし、お友達も出来ましたしね」
見事に真っ二つになった。
俺は困らないが、勇者組が良ければ。
「うん。ボク達のやらなきゃいけないことは終わったから。自由にしよう」
ヒロがそう言うならいいか。
それより、ショウが感激しているようだ。
レイが付いてきてくれると言うからだろう。
「レイねぇさん! 付いてきてくれるんですか!?」
「別にショウについて行くわけではないですわよ? ベルンの街がワタクシに合ってるのですわ」
「俺、嬉しいっす!」
シッポを振る犬の如く。
レイをキラキラした目で見ている。
「私はこの聖都を出ることは中々できません。ヒロ様、私といて下さいませ」
こちらは腕に絡みついて積極的だ。
ヒロも無下にはできないだろう。
王女様の目はウルウルとしている。
「うん。しばらくは聖都に居ることにするから、そんな目で見ないでよ」
ヒロは積極的な王女にタジタジである。
「ヒロは、ゆっくりしてろ。俺は俺の成すべきことをする」
「……うん」
◇◆◇
「俺達は行く」
「うん。何かあったら言ってね? 仲間外れは嫌だよ?」
「あぁ。分かった。何も無いとは思うがな。ゆっくりしてろ」
「うん。また」
「あぁ」
また会うことを誓い別れる。
聖都に来た時と同じように二層を遠回りしてベルンへ向かう。
「師匠! 俺が前に出ます!」
ショウが前に出る。
レイに良い所を見せたいのだろう。
そんな下心は見えてるが、仕事はきっちりとこなしている。
出てくる魔物の強さは魔王を倒す前より弱体化している。
出てくる魔物を次々と拳でたたきのめす。
ゴブリンもいたが秒殺だった。
村は潰したばかりなのでできてはいなかった。
特に何事もなくベルンへと戻ってきた。
一目散にアリーの元へ行く。
「師匠! 俺はここで!」
「ワタクシも自由にさせてもらいますわ」
「あぁ。じゃあな」
ショウとレイと別れる。
家に行くと感慨深かった。
戻ってきたんだと。
これでアリーを助けられる。
そう思うと居てもたってもいられなかった。
ガチャッと扉を開ける。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
「テツくん今日戻ったの!? 無事に戻ってよかったわ!」
ミリーさんが変わらず迎え入れてくれた。
その感じが懐かしい。
それに、アリーが寝たきりになっているのに、俺の心配をしてくれていたなんて。
「薬、持ってきました」
「有難う。アリーのために魔王に立ち向かってくれて」
「飲ませていいですか?」
「聞く必要は無いわ。飲ませてあげて」
ミリーさんがそう言ってくれたので、部屋へと入る。
アリーの元へ行き。
口元に瓶を持っていく。
「アリー。目を覚ましてもう一度、俺に笑顔を見せてくれ」
口の中へ薬を流し込んでいく。
コクリとアリーが飲んだ。
少しすると……。
「あ……テツさん?」
「アリー……目を覚ましたか……」
目を覚ましてくれたアリーに思わず涙目になってしまう。
「テツさんどうしたんですか!?」
アリーが起き上がって焦って聞いてくる。
俺は言葉を発せられずにいた。
「アリー。あなたね、一月以上も眠ったままだったのよ?」
「えっ!? そんなに寝てたの?」
「そうよ。あなたを目覚めさせるために、テツくんは……魔王の討伐を果たしてきたのよ」
ミリーさんが話せない俺の代わりに話をしてくれた。
俺は、嬉しさのあまり声が出せず。
涙を流していた。
「テツさん! 怪我は無いですか!?」
「あ……あぁ……大丈夫……だ」
俺は言葉を詰まらせながら返事をする。
「アリーあなたは魔物の毒にやられて寝たきりになってしまったのよ。それで、魔王の血が必要だとわかったの」
「それで、私の為に……」
「あぁ。世界の為でもあるからな」
俺は照れ隠しでそんな事を言ってしまう。
照れ隠しだと分かったのであろう。
アリーはクスッと笑って黙っている。
「俺は……世界の平和より、アリーが大事だ。俺が今回魔王の討伐に行ったのは世界の平和の為では無い。アリーの目を覚まさせるためだ」
俺は正直に自分の気持ちを口にした。
目を見開いて驚いている。
そんな事を素直に言われるとは思っていなかったのか。
「ふふふっ。テツさん、そんな事言ったらダメですよ?」
ようやく、アリーの笑った顔が見れた。
俺は、この笑顔のために、戦ったんだ。
再び俺の太陽が戻ってきた。
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