第24話 初の訓練
フルルが家に来てから夜が明け、次の日の朝。
朝ご飯を四人で食べていると玄関先で何やら声が聞こえる。
「いきなり来ていいんすか?」
「だって、弟子っていったらお出迎えだろ?」
「そうなんすか? 何も知らないっす」
「弟子は身の回りの世話もするもんなんだぞ?」
会話が聞こえる。
たしかに身の回りの世話も弟子がするイメージはある。しかし、それは泊まり込みの場合じゃないだろうか?
今回みたいに離れている場合は特にそういうのはいらないと思うが……。
まぁ、今日、その様に伝えればいいか。
少し急いで朝食を食べる。
「どうしたの? テツさん。そんなに慌てて?」
アリーが不思議そうに聞いてくる。
「あぁ。さっそく弟子達が来たみたいなんだ」
「えっ!?」
「私……食べた……」
フルルはもう食べたようだ。
初日の訓練はどうしようか。
俺は何をやっていたんだったか。
いや、思い出すのはやめよう。
俺がやっていたのは殺し合いだった。
「ご馳走様でした。よし。じゃあ行くか」
皿をキッチンに置くと出ていく。
「行ってくる」
「……きます」
「「行ってらっしゃい」」
なんか、家族みたいだな。
何気なくそう思った。
心做しかフルルも口元の口角が上がってるように感じる。
玄関を出るとダンとウィンがいた。
「「おはようございます!」」
「おはよう。別に家まで来る必要ないんだぞ? どうせギルド行くんだから、明日からはギルドで待ち合わせな」
「「分かりました!」」
「うん。じゃあ、行こう」
三人を引き連れてギルドに向かう。
ギルドに入ると「なんだ?」「誰だあいつ?」といった言葉が聞こえてくる。
俺は、それを無視してサナさんの元へ行く。
「サナさん、訓練所頼む」
「はいはぁい」
訓練所を開けてくれて使用中の札をかけた。
訓練所は地下に何部屋かの個室になっており、魔法も武器も両方訓練ができるくらいの広さがある。
部屋に入るとストレッチを始めた。
三人はキョトンとしている。
「それは、何をしてるんですか?」
ダンが手を挙げてきいてきた。
あぁ。そうだよな。何も説明されなければ分からんか。いかんな。
「皆これを真似してやってみろ。どこまで出来る?」
見様見真似で股を開いていく。
そして上体を床に付ける。
三人ともある程度開いて上体を沈めたら止まってしまう。
「ぐぅぅ」や、「おぉぉ」等と声を上げている。
まぁ、最初はそんなものだろうな。
柔軟は大切だ。
それを分からせる必要があるだろう。
「これが何の意味があるんですか?」
「これは毎日やるんだ。日々やっていれば開けるようになる。意味は、今教えよう」
立ち上がって構える。
「ダン、拳を俺に向かって突いてみろ」
「はい! オラァ!」
上体を傾けて避け、勢いよく開いた足は横から見たら直線になっている。
首元でピタリと足を止める。
「分かったか? 普通はこんな攻撃来るの思うか?」
「思わないです! こんな攻撃無理ですよ!」
「でも、俺はできた。思いつく攻撃は意表をつけない。それでは決定打にかける。そこで死角からの意表を突く攻撃を持っておくと、いざと言う時に助かる」
「なるほど! 体が柔らかくなれば出来るんですね?」
「あぁ。こんな事も出来る」
フワリと後ろに上体を倒し、足を上げてムーサルトキックを見せる。
「すげぇ」
「戦闘の幅が広がるってことっすね」
そういう事だ。なんだろうかこの感じは。
正解した事が自分の事のように嬉しい。
「そうだ。後、体が柔らかいと怪我をしにくくなる」
「それは……大事……怪我したら……稼げない」
怪我の事より稼ぎのことの方を気にするのか。
そのくらい生活が切迫してるということか。
そういえば昨日の稼ぎ精算してなかったな。
ストレッチを入念にしたら、動く。
「基本的な立ち回りの話をするか」
一体が相手の時の立ち回りは特に問題なかった。問題なのは対複数の場合の経験が足りないのと、立ち回りが分かっていないということ。
「三人で並んで立ってみてくれ」
三人で並んで立ち、正面に俺が立つ。
「例えば一対三の場合、正面にいると一斉に攻撃されてしまう。そうした場合、立ち位置を考えれば一対一にできる。どうすればいいか分かるか?」
しばらく沈黙の時間が過ぎる。
今の位置関係を俯瞰すれば分かるだろうが。
「あっ……わかったかも……」
声を上げたのはフルルだ。
ダンとウィンの横に俺も並ぶ。
「こう動けば……一対一になる……後ろの敵は……前の敵が……邪魔……攻撃できない」
魔法を使うだけあって俯瞰する能力が長けているのかもしれないな。
きちんと理解している。
「正解だ。その隙に一体を確実に始末する。それを繰り返すことでずっと、一対一を保てる」
「なるほど! フルルすげぇ!」
「……えっへん」
フルルが胸を張って偉そうにしている。
フルル、意外に大きいから目線がいってしまう。やめて欲しいんだが。視線に気づかれたらアリーに睨まれそうだ。
「皆で立ち回りを練習してみるか。鞘に入れたままの武器でやるぞ。フルルは杖な」
「「「はい!」」」
午前中は休み休み立ち回りの練習をした。
皆、動きが様になって来た。
「よしっ! 今日は俺の訓練は終わりにする。三人とも動きが様になってきていいぞ。午後は好きに過ごしてくれ。俺は狩りに行く」
三人の目がキラリと光った気がした。
「見学させてもらっても良いですか!?」
「いいが、またゴブリンだぞ?」
「かまいません!」
「ならいいぞ」
「「「やった!」」」
さぁ、狩りの時間だ。
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