第50話 騎士団長との一戦
「ここでやるのか?」
俺が聞くと騎士団長が歩み寄ってきた。
騎士団長もいい人そうではある。
にこやかに寄ってきた。
「皆が良ければここで少し手合わせしようか。誰か! 刃引きした剣を二振り持ってきてくれ!」
「あっ、俺は素手でいいです」
「そうか? 剣は慣れてないのかな?」
「そうですね」
騎士団長は刃引きした剣を受け取ると構えた。
俺も軽く構える。
対峙した感じで分かるのは、洗練されているという気配がする。
隙がない。
隙はないが、負けるということではない。
隙は、無ければ作ればいい。
こうやって。
ピーンッと張り詰めた空気の中。
少し脇に隙をわざと作る。
「ハッ!」
脇に向けて剣が横に振るわれてくる。
スッと懐に入る。
腕を取り相手の力を利用して投げる。
ズダンッ
背中から落ちた騎士団長の首元に拳を当て。
これで終わりだということを示す。
「「ハッハッハッハッ!」」
騎士団長と王様が急に大笑いしだした。
騎士団長は倒れたまま。
王様は立って手を叩いて笑っている。
何をそんなに笑っているのだろうか。
そんなに面白いことがあったか?
謎だ。
「どうですか? まだ文句がおありで?」
ヒロが大臣に向かって言うと。
「ぐぐぐぅ! 八百長だ! こんなもの! 王よ! 人が悪いですぞ! 騎士団長に負けるように仕向けておくなんて!」
あぁ。そういう風に思ったのか。
コイツはどうしようも無いやつだな。
「ほう? 俺が人を騙したと申すのか? あまり我を愚弄すると不敬罪とするぞ?」
「ひぃっ! で、ですが……」
王様と大臣が話をしていると、騎士団長が起き上がった。
「いやいや、テツ殿。気分を悪くするようなことをうちの者が言ってしまい申し訳ない。私が弱いばかりに八百長を疑われてしまった」
「なっ!? 騎士団長の方が弱い!?」
騎士団長の言葉に目をひん剥いて大臣は驚いている。
いやいや、騎士団長も強いと思う。
さっきのは紙一重だった。
タイミングを間違っていたら抜けられて後ろからやられていただろう。まぁ、それならそれでやりようはあるが。
「いえ。そちらの方に分かってもらえればそれで……」
「ぐぐっ! き、騎士団長がそう言うなら、そうなんでしょうな! 勝手にしたら宜しい! 私は知りません! 失礼する!」
ブンブンと腕を振りながら玉座から出ていく。
あの大臣は何をしたかったのだろうか。
バタンッと扉が閉まる。
「「「ハッハッハッ!」」」
ヒロも含めて三人が笑いだした。
あぁ。そういう事か。
みんなグルだったんだな。
「いやー。しかし強いな。もう少し粘れると思ったんだが」
「いやいや、騎士団長は強いと思います。紙一重でした」
「ふふっ。気を使ってくれて有難う。しかしな、私には分かる。テツ殿の強さはまだまだ上だ。もちろん私はヒロ殿にも及ばぬだろう。以前は勝てていたのだが……相当鍛えてきたとみえる」
ヒロが無駄にドヤ顔をしている。
その顔はやめた方がいいぞ?
なんか腹が立つ。
「ヒロ、なんかその顔やめろ」
「えっ? 酷くない?」
「ヒロのその顔いやー」
「その顔はわたくしもどうかと思いますわ」
アケミとレイに批判される。
やっぱりその顔はみんな嫌なんだな。
ショウはそれを見て笑っている。
「酷いなぁ」
「ハッハッハッ! 親友というのは本当のようだ。仲がいいね。ところで、魔物の王の任務に行きたいというのは、親友を助けるためかな?」
騎士団長のその問いに少し沈黙する。
その気持ちがないでもないが、今回は違う。
「俺は、俺の大切な人を救いたいからです」
「ふむ。それは女性かな?」
「はい。大切な女性です」
「いいね。青春だな」
「うおっほんっ! ボルド! 面白がるなよ。テツ殿は真剣に言っているんだ。テツ殿、是非とも貴殿にご助力願いたい!」
こんなにすんなり話が済むなら、俺が来る必要があったのか?
何故にわざわざ。
「テツ、困惑させたみたいだね。実はさっきの大臣を前もって黙らせるために一芝居打ったんだよ」
なるほど。
先程の大臣さえ丸め込めば良かったということか。最初からそう言ってくれてれば。
「でも、分かってたら、さっきの騎士団長との手合わせの時に手を抜くだろ? それだとバレかねないと思ったんだよ。だから黙ってたんだ」
まぁ、たしかに俺は不器用だ。
ヒロのように誤魔化したりするのは俺には真似出来ない部分である。
それが出来るならばもう少し上手く生きれている事だろう。
「そういう事ならいい。俺は、目的を達成出来ればアリーは助かるからな」
「うん。アリーさんを助けよう。そして、王女様も……」
ヒロはそう言うと王様を見つめた。
王様が神妙な面持ちになる。
「私の娘であるマリアは不治の病に侵されているんだ。だが、治せる可能性があるのが魔物の王の血なのだ。その血には魔物による影響を治すという効果ががある。マリアも魔物に毒を体内に入れられたようでな。寝たきりなのだ」
それはアリーと全く同じような状況だ。
俺には俺に出来ることをするだけ。
魔物の王を倒して血を持ち帰る。
「必ず、持ち帰ります」
俺は、王様の目を見つめる。
「良い目だ! 頼んだ! テツ殿!」
「はい!」
明日からは魔物の王の討伐に向けての準備だ。
騎士団の準備を待ってからの出発になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます