第52話 おもてなし(一ノ瀬)
◇
一ノ瀬は初めに姫乃と同じ様に用意した湯のみにお湯を注ぐ。次いで手元にあった急須に用意した緑茶の茶葉を(一人あたり60ccで約2gほど)あらかじめ注いでおいた湯のみのお湯をゆっくり急須に注ぎ、その後約1分ほど、お茶の葉が開くまで静かに待つ。
約1分ぐらい経って、お茶の葉が開いたらお好みの濃さに合わせて 急須を3~5回廻して 湯のみに注いだら完成。
おぉ、一ノ瀬ちゃんもしっかりとお嬢様なんだな。姫……東堂さんと遜色ないほどの腕前だ。東堂さんのを見ただけの俺の意見だが。
それでもあの一ノ瀬ちゃんがこんな沢山いる人前で俺の為にお茶を煎れてくれるということだけで、なんだか泣きそうだ。
自分の為にお茶を煎れる一ノ瀬の姿を間近で見た増田は涙腺に涙を蓄えていた。
「……で、出来ました〜」
「お疲れ様。見てたからわかるけど、一応聞くよ。自信はどう?」
「えーと、その。ばっちりとは言えませんが、人に……増田師匠に出せるものはなんとかで、出来ました」
増田の質問におっかなびっくり答える一ノ瀬。そんな一ノ瀬はお茶が入った湯のみをおぼんに乗せて増田の前まで持ってくる。
そこから漂う普段嗅ぎ慣れたお茶の香りに増田は笑みを浮かべた。
「そっか。俺に煎れてくれたものは緑茶かな?」
「はい……私が増田師匠の為に煎れたお茶は、師匠もご存知の通り緑茶になります。普段飲むものと代わり映えのない、ものかもしれませんが、召し上がってください……」
「わかった、いただくね」
目の前で自分が煎れたお茶を飲んでいる増田を見て生唾を飲み込む一ノ瀬。
「そ、その、如何でしょうか?」
「……ふぅ、うん。美味しいよ。安心する味だ。お世辞とかではなくて本当に。しっかりと俺の為に煎れてくれた祈の想いも伝わってきたよ」
「〜〜!! うぁ、あ、ありがとうございましゅ……」
増田の返事が恥ずかしかったのか持っていたおぼんで顔を隠す一ノ瀬。
それでも隠せていなかった耳や首元が赤らんでいることを知っている増田は何も言わずに笑って見ていた。
「……何やら、私達の知らぬ間に増田様と一ノ瀬様の間でラブコメ空間の様なものが形成されていますね。あの状態の増田様達を止める術は私にはありません……」
増田と一ノ瀬を見ていた川瀬は恋愛未経験故か何も出来ず、言えずにマイクの側で佇んでいた。
だが、お嬢様達は違う。
『姫乃様も、琴音様もとても良かったですが、最後にこんなに素敵な関係のお二人を見せられると』
『なんだか、こちらも和みますわね。それに
『一ノ瀬様、可愛らしいですわ』
『増田様、
お嬢様達はお嬢様達で増田と一ノ瀬が形成する空間に当てられてかみんなしてうっとりとしていた。
それに姫乃や琴音よりも一ノ瀬の方が注目されている。
『……』
ある一部の人々は増田と一ノ瀬の方を感情一つ感じられないのっぺりとした表情で見ているが。
「こちらこそが「ありがとう」だ。それに、本当に頑張ったな。さっきも言ったかもしれないが、成長出来たな。自分から一歩踏み出せたじゃん」
そんな周りの空気にまったく気付いていない増田は一ノ瀬の頭を軽く叩く。
「うぅ、全て増田師匠のおかげです。……少し、その、本庄君に感謝の念も無きにしも非ず、ですが」
そんな一ノ瀬の言葉を聞いた増田は観客席をよく見ると本庄がこちらに手を振っていることがわかった。なのでそれに応えるように片手を上げて応じる。
「ははっ、そっか。まぁ、何はともあれ祈の成長を見れて俺は満足だ」
「……師匠、なんだか、本当にお父さんみたい」
「うぅーん、子供、持ったことないんだけどなぁ」
そんな師匠と弟子の二人が話をしている中、川瀬がなんとかマイク越しに話しかける。
「えぇー、増田様と一ノ瀬様?」
『ビクッ!?』
川瀬の声が聞こえた二人はようやく今の状況を理解する。
「止めないと一向にお話し合いが終わらないと思ったので野暮とわかっていながらも声をかけさせていただきました」
「……すみません」
「ご、ごめんなさい!」
「いえいえ。この後は帰りの時間までにゆっくりと寛ぐだけですから。そこまで急ぐ必要はないのですが、誰が良かったのか三名の内一人を増田様に選んでいただかないとこの催しも終わらないので」
「わ、わかりました。決めるのでお待ち下さい」
川瀬の話を理解した増田は姫乃と琴音、一ノ瀬の三人の中で誰が良かったのか決める。
そんな中、今回選ばれた三人は壇上の真ん中に集まる。
その時一ノ瀬は感じた。横にいる姫乃と琴音から尋常ではない
(ひっ!? ヒエェーー! な、どうして東堂さん達がみてくるの?!)
一ノ瀬が怯えてる間も何も言わない二人はただ、無言の圧力を一ノ瀬にかける。
そんな女性達の攻防戦?を知らない増田は自分も席から立ち上がると約5分ほど考えた末に自分が良かったと思った人物を選ぶ。
「川瀬さん、決まりました」
「わかりました。では、増田様が選んだそのお方の前まで進んでください」
「はい」
増田が相槌を打つと前に進む。
そして、増田が選んだ人物は──
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