第45話 お嬢様達からのおもてなし


 ◇



 姫乃と琴音の争い?が落ち着きお茶会を楽しんだ増田達は昼食を取ってお昼休憩をしていた。今は体も大分休まり午後に何をするのかウキウキとしている人々で一杯だ。


 例年通りだと軽い運動をしたり先生達が用意したゲームで遊んだりする様だけど何をやるのやら。今回は俺がいるからってだけで特別なことをするのはマジでやめて欲しいわ。


 心からそう思う増田だが、運命はどうやらそんなに甘くない様で。


「……では只今より午後の部を始めたい……と言いたいところですが、今回はスペシャルゲストの増田様も来ているということですのでこちらで用意したな催し物を行います」

「……スン」

 

 川瀬が壇上に上がるとそんなことをみんなに聞こえるように話す。

 「特別な催し」と聞いた増田は萎える。そんな増田のことなどお構いなしに今回の催しの件を川瀬が話す。


 なんでも増田がスペシャルゲストとして今回参加することが分かってから既に新しい催しは考えていたそうだ。それはお嬢様達がメイドとなり増田に自身で煎じたお茶でもてなすという催しだ。普段から小百合澤女子校のお嬢様達はお茶会を開いているためその実力を力量を見るとともに殿方への「おもてなし」をしっかりと出来るか確認したいということだった。

 ただ全員だと時間が足りないので立候補で何人か決める。


「……ということですので今から増田様におもてなしをしたいという方は立候補してください。その中から何名かを選定します」


 川瀬の合図で近くにいるお嬢様同士で話し合いを始める。


『どうしますか? 参加してみたい気はしますが殿方が……それも増田様がいる前で粗相をしたくありませんわ』

『そう、ですわね。やはり参加するお方は決まっているのでは無いでしょうか?』

『そうですわね。あの御二方なら問題ないでしょう』

『決まりですわね』

『そうですわね』

    

 お嬢様達の間でそんな話し合いがされる。


 うぅーん。俺がお茶でおもてなしされるだけ、なのか? まぁ相手はお嬢様達だから早々おかしなことにはならないよな。周りに先生や使用人が何人かいるんだから。


 問題はなさそうだと判断した増田はその催しが始まるのを用意された椅子に腰を下ろして静かに待つ。



 ◇閑話休題



「……では、今回の催しで参加するお嬢様達も決まった様ですので始めたいと思います。今回選ばれなかった又は不参加の方々は観客席で催しが始まるのを暫しお待ちください」


 10分ほど経った後壇上の川瀬からそんなアナウンスが掛けられる。


 因みに増田は既に壇上に用意されている長机が置かれた一つの内の椅子に腰を下ろしていた。

 そんな増田がいる長机の上にはお茶会で使うであろう湯のみや急須、茶葉の入ったケース等が既に用意されていた。


 出されたお茶を美味しいと褒めれば大丈夫と川瀬さんから言われているが、知らないお嬢様だったら少しやりづらそうだな。


 どのお嬢様達が選ばれたのか知らない増田は少し気を引き締めてしまう。


「今から一人ずつ参加者が出てきますので審査員である増田様には相手をしていただきます。……エントリーナンバー一番。東堂家の宝、白銀の令嬢こと東堂姫乃様の登場です」


 川瀬の言葉が終わると同時に壇上の垂れ幕から椎名達が着ているような黒と白を基調にしたメイド服姿の姫乃が現れる。その両手には白色の風呂敷を持っていた。

 素朴なメイド服に身を包んでも隠せないその令嬢としての気質とオーラは隠せていないが美しい銀髪を靡かせながら歩く姿はとても優雅だった。


 姫乃の姿を見たお嬢様達や先生方からは「おぉーー!!!」や「綺麗!」「姫乃様、頑張ってくださいまし!!」と声援が上がる。


 因みに姫乃の専属メイドである椎名は姫花と一緒に増田が住む寮にお留守番だ。なんでも今日は姫花が通っている私立天城学園あまぎがくえんの設立記念日らしくお休みとのこと。

 初めは姫乃達の遠足について行こうとした姫花だったが「姫花お嬢様、私と一緒に純一の部屋で絵本でも読んでいましょう」と説得され今は増田の寮内で絵本でも読んでいるところだろう。


 そのことは増田は知らなかったりする。


「姫乃様は断トツで応援者が多かったので流石の人気といったところでしょう。なんでも姫乃様は増田様と婚約の関係らしく姫乃様本人からもお言葉を頂戴しています。……"この東堂姫乃。純一さんに喜んで頂く為に頑張ります"とのことです」


 そんな川瀬の紹介が終わるとともに姫乃は増田の前まで来ていた。


「……っ」


 見たことがない姫乃の姿を間近で見た増田は姫乃の美しさからか生唾を飲む。


「……少々、この様な格好はお恥ずかしいですわね。その……似合っていますでしょうか……?」

「──あ、ああ! とても、その、似合っているよ。東……姫乃さんはメイド服を着ても素敵だね」

「──ッ!! あ、ありがとう、ございますわ」


 普段見ないしおらしい姫乃の姿を見た増田は同様を隠せなかったのか顔を少し赤らめながらもそんな歯の浮いたような言葉を返す。

 増田のお褒めの言葉を頂戴した姫乃は花が咲いたように笑みを零すと喜ぶ。


「で、では。さっそくお茶を作らせていただきますわ。ご、ご、ご主人様はどうぞお寛ぎをしながらお待ち下さいまし!!」


 自分で言葉にしていて恥ずかしかったのか最後は矢継ぎ早に早口で話す姫乃。今は自分の言動を忘れるようにテキパキとお茶の準備をしている。そんな姫乃を見た増田含める人々は思う。



      『可愛らしい』



 と、心の声が重なる。



「ぐぬぬ、姫乃ちゃん、悔しいけど可愛い」


 そんな小さな声が控え室である垂れ幕の中から聞こえてくる。







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