第44話 愛弟子の成長?
◇
今も姫乃と琴音のキャットファイトは続いていた。その争い?は先程よりも過熱を増している様にも感じられる。
「純ちゃんは甲斐甲斐しい女性が好きなの! だから私は純ちゃんを甘やかして私なしじゃいられない体にするの!!」
「はぁ、夫を支えるのは妻の務め。ですが、それも過剰に行き過ぎると嫌われてしまいますわよ?」
「ふんだ! 純ちゃんは私を嫌いになることなんて万が一、いや億が一もないもん! それに幼なじみとして築いてきた絆があるもん!!」
そんな琴音の「幼なじみ」という単語を聞いた姫乃は薄寒い笑みを浮かべる。
「ふふっ、幼なじみですか。とても羨ましい関係ですわね。ただ、琴音は知ってまして?」
「な、何さ?」
姫乃の雰囲気に押され気味の琴音。
「……今は幼なじみは負けフラグとか。幼なじみは負けヒロインと言われるそうですよ?」
「ま、負け……!? い、いやそんなの周りが言っているだけだもん! 私は私だもん!!」
「まぁ、琴音がそう思うならそうでいいのではないですか?」
「その含みがある言い方、嫌な子ぉ!!」
そんなことを言い返す琴音だが明らかに姫乃に押されている。姫乃は澄ました顔を崩さない。
周りで聞いているみんなは成り行きを静観している。
「あと、話は変わりますが琴音の行動は些か強引過ぎなのでは? 純一さんに発信器を付けるとか、刃物……果物ナイフを見せて脅す行為は擁護出来ませんわよ?」
「……愛あっての行動だよ。それに私から純ちゃんに危害なんて加えないよ」
そんな琴音の言葉に増田は「どの口が」と言いたいところだが、これ以上話をややこしくしたくないのでみんなと同じ様に静観。
「そ、それに、そうだよ! 姫乃ちゃんだって同じじゃん。一時期純ちゃんのことを嫌っていた筈なのに助けてもらったことが分かると直ぐに掌返しで純ちゃんに媚びて」
「琴音と一緒しないでくださるかしら!? それに、その、媚びてませんわよ! 私は助けて貰ったことに報いただけであって、純一さんの勇気ある行動に大変感銘を覚えただけです!!」
「と言いつつも純ちゃんを監禁しようとした姫乃ちゃんのその腹黒さは私も怖いよ」
琴音の話から出た「監禁」という単語を聞いた増田はブルリと震える。増田は約一週間の間東堂邸に軟禁されていた。その間ほんとんど用意された部屋で過ごしていたがある日起きると知らない部屋に手足をロープで縛られ、目隠しをされた状態で隔離されていた。
なんでも姫乃が寝てる増田をどんな手を使ったか知らないが東堂邸の地下に増田を連れて行ったとか。
アレは怖かった。起きたら身動き取れないし視界は真っ暗。なのにほっぺたには幸せな感触が伝わってくる。後から聞いた話だけど東堂さんに膝枕をして貰っていたとか。くそっ、視界さえ良好だったらエデンが見えたのに!!
全く違うことで悔しがるアホ。
「今も純ちゃんの写真に朝と夜の挨拶をしてるの?」
「し、してません!! それにアレは監禁ではなく、その、純一さんとお話をしたかっただけであって……」
「起きてる時にやれば良かったじゃん。何でわざわざ純ちゃんが寝静まった時を狙ったの?」
「たまたまですわ」
「へー、たまたまね。ふーん」
「……なんですか?」
「べっつに〜〜」
姫乃と琴音は少し険悪な雰囲気に。ただ増田は二人の話を出来るだけ聞かないことを心得た。どうせ最後にロクな目に合わないのが自分だと経験上知ってるからだ。
なので今は二人を無視して我が弟子の様子を伺う。
(……どれどれ、一ノ瀬ちゃんはちゃんとお友達とお話できているかな。本庄君も付いてるから心配はしていないが……)
そう思い一ノ瀬と本庄を見つける様に周りを見回す増田。すると自分がいる場所から少し離れた黄色いレジャーシートの上で楽しそうに女子生徒達と話している一ノ瀬の姿があった。そこに本庄もいた。
(……何を話しているのかはここからじゃ聞こえないけど、修行の成果出たじゃん。これでもう君はぼっちなんかじゃないよ。寂しいけど、師弟の関係は今日をもって解任かな……)
少し寂しそうに、そして少しホッとした感情の合わさりで複雑な思いだった。
そんな一ノ瀬達は。
「えぇ!? 一ノ瀬様は増田様と師弟の関係なのですか?」
「はい、そうなんです。庶民の文化を教えてもらっているんです。ね、本庄君?」
「うん。庶民のことなら僕でも教えられるけど純一さんの様な大人の方の方が色々と知識は豊富だからね。僕も学ばせて頂くことが多いよ」
一人のお嬢様から話を振られた一ノ瀬は無難に適当に答える。それに本庄も相槌を入れる。
「ほわぁー、本庄様の口振りからわかりますが、本庄様も増田様とお知り合いなのですねぇ」
「うん、そうだね。僕は一ノ瀬さんみたいに師弟の関係ではないけど、とても親しい関係なのは確かだね」
「ふふっ、本庄君は増田師匠のことが好きですからね」
「はは、よしてくれよ。一ノ瀬さん、君には勝てないよ」
「またまた〜」
そんな楽しそうな二人の会話を聞いたお嬢様は目をキラキラとさせる。
「二人共羨ましいですわ〜! それに二人共話している姿とてもお似合いですわ。もしかしてお二人共お付き合いをしていたり……?」
「ないね」「ないですよ」
「そ、そうですか」
お嬢様の質問に速攻で否定する両者。それでもまた増田の話になり話に花を咲かせるのだった。
「……うんうん、本庄君もしっかりとサポートが出来ているみたいだし安心したよ。それにしてもあの二人かなり仲良くなったんじゃないか? やっぱりあるよな?」
そんな絶対にありえないことを知らずに一人呟く増田。
増田は今も一ノ瀬と本庄の本心を知らない。
「純ちゃん、私が一番だよね??!」
「純一さん、一番は私ですわよね!!?」
そんな二人に増田は。
「あぁ、うん。どっちも好き好き。えぇ、好きです」
適当に返事を返していた。
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