第37話 師匠を超えた弟子
一ノ瀬の友達作りについて話が纏まったそんな増田と一ノ瀬はリビングから離れると畳が敷かれる居間に移っていた。
二人は座布団を下に履き対面に座っている。その光景はさながら師匠と弟子の様にも見えなくもない。
「じゃあ、まずは俺の知る限りの友達作りについて祈に教える……と言いたいところだが、まずは祈にはきっかけを与えよう」
「?」
増田が話した内容が理解できていないのか一ノ瀬は首を傾げる。ただこれは増田も想定内。
いきなり「きっかけを与える」などと言われてもわからないよな。だから敢えてそこをチョイスした。
「あぁ、安心してくれ。祈が俺の話について来れないのは想定済みだ。ただ、祈にはさっきも言った様にきっかけを与える。初めに祈の口から出たな。東堂さんを俺が救ったと」
「!! は、はい! あれは、本当の話なのですか? 私はあの、寝ているフリをして聞き耳を立てて聞いていただけなので確証が持てなくて……あっ! そ、その別に他の人の会話が羨ましいとか良いなとかは思っていな……うぅっ」
一ノ瀬は自分で言った言葉に自分で撃沈する。そんな何処か微笑ましい姿を見た増田は頰を緩める。
「……」
うんうん。わかるぞ。一ノ瀬ちゃんは他の人の話を聞いていて羨ましいと良いなと思ったんだな。素直なのは良いことだ。うん。
「〜〜〜〜!!」
何かを悟った様に頷く増田。そんな増田を見たからか見透かされていると思った一ノ瀬は恥ずかしそうに顔を赤らめると俯く。
◇閑話休題
「まぁ、今は他の話は一旦置いといてだな。その噂は本当のことだ。俺は東堂さん達を助けた。それも琴音や東……姫乃、さんとも仲は良いし知り合いだな」
姫乃「さん」と言う時に何処か苦虫を噛んだ様な顔になる増田。
「す、凄い! 仲が宜しいとは思っていましたがあの東堂姫乃さんと愛沢琴音さんとお知り合いだとは!!……それに──」
前のめりになり鼻息荒く饒舌に話し出す一ノ瀬。今も「東堂姫乃さんは凄いんですよ!!理事長の娘さんというのもありますが一年生で生徒会に入り生徒会の副会長になったのですから!!」や「愛沢琴音さんは私の憧れなんです! 東堂姫乃さんと同じで生徒会に一年生ながら在籍していてお嬢様なのに髪を染めたり着崩したり……カッコいいんです!!」などと姫乃や琴音について熱く語る。
その予想の遥か上を行く一ノ瀬の反応に逆に驚かされてしまう。
「お、おう?」
(──中々、これはなんとも。姫乃……東堂さんが子百合澤女子校の生徒会副会長を勤めていることは知っている。だから東堂さんのことを尊敬するのはわかる。ただあの琴音を一ノ瀬ちゃんが憧れだと思っているとはなぁ。まぁ、側から見ても琴音の雰囲気は他の人及びお嬢様方と違うからな。ただ、これだけは言わせてくれ。今の二人はやばいんだよ。凄いかもしれないけどこちらからしたらかなりやばいんだよ。言っても納得はしないと思うがね……)
今も色々と姫乃と琴音の事で話す一ノ瀬を見ながら増田は思う。
自分と会う前の二人は一ノ瀬が言うようにまともで家柄も良く誰もが憧れるようなお嬢様像だったのだろう。それは今も増田以外には愛想良く本来の自分を隠し振る舞っている。だが、増田と会ったことで変わった。増田の前では変わってしまった。
いや、なんかこう聞くと俺が全て悪いみたいになるな。琴音に関しては俺の知らぬ間にBeforeAfterしているし。東堂さんは……うん、知らん。
結論。自分は何も悪くないと思い込むことにした。
それに今はそんな下らないことを考えている暇は無いと思ったからでもあるが。
「──それでですね! 東堂姫乃さんと愛沢琴音さんは私達一年生の星とも呼べる人なんですよ! 増田師匠はどう思いますか?」
丁度良く一ノ瀬は自分の世界から出てくると増田に話を振る。今がチャンスだと思った増田は話を戻す事にする。
「あぁ、祈が二人のことを好ましいと思っていることは十二分にわかったよ。それに俺も彼女らは凄いと思うさ。ただ、話を戻しても良いかな?」
「──はぅ! 増田師匠。すみません……」
「はは、謝ることはないさ」
一ノ瀬の暴走が止み。増田は苦笑いを作る。
「……それで、だ。俺がなんでその二人の話をしたか祈はわかるかい?」
「……わかりません」
素直にわからないと告げる一ノ瀬。少し可哀想だと思った増田は焦らすのをやめ。率直に教えることにした。
「そうか。じゃあ、きっかけ。俺がその二人を祈に紹介するきっかけを作る。と言ったらどうする?」
「!! そ、それは……ダメです! 絶対にダメです!!」
増田の考えを理解できた一ノ瀬は猛反対する。
「それはどうしてかな?」
「わ、私の様な塵芥の人間があのお二人と顔を合わせる機会など……あってはなりません。それにあのお二人とお友達など……!」
面白い様に狼狽る一ノ瀬。
「大丈夫だよ。彼女らは君と同じ血が流れる人だ。話せば案外仲良く──「なれるわけないでしょ!!」──うん。断りの迷いがないね」
増田の言葉を掻き消す一ノ瀬は興奮した様に肩で息をしていた。目も開け放たれ意外と怖い。
「も、もし、増田師匠がそんな酷いことをする様なら……」
「ど、どうすると言うんだい?」
普段と違う一ノ瀬を見て身構えてしまう増田。
俺が一ノ瀬ちゃんの依頼を受けたという時点で恐らくバットエンドは回避出来ていると思うから「死」という単語が出てくることはないと思うが……。
「……増田師匠にイタズラされたと校内に広めます」
「よし、やめよう。うん。なんでも近道は良くない。それに人の嫌がることはしてはいけないからね。あぁ、そうだとも」
一ノ瀬の一言を聞いた増田は一瞬で自分の考えを消去する。
あぁ、一ノ瀬ちゃんのバッドエンドを回避出来た。が、どうも俺のバットエンドは回避不可避の様だな。人間的にも社会的にも殺すという「死」を触媒に俺を脅すとは。成長したな一ノ瀬ちゃん。
一ノ瀬の成長?を見れた増田は別の意味で涙を流す。
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