第38話 本当の助っ人




「すまない、祈。少し俺も悪ふざけがすぎた。もちろん二人を祈に紹介するというのは冗談だ。だから安心してくれ」

「よ、よかった〜。もう! 変な冗談やめてください!! 心臓止まります。本当に」

「……すまない」


 増田は一ノ瀬に頭を下げ謝る。本当のことを知った一ノ瀬は胸を撫で下ろすと心底安堵していた。


 「東堂姫乃」と「愛沢琴音」を一ノ瀬に合わせようとしたのはほんの冗談だ。九割ほど。残りの一割はその場の勢いで。


 だってそうだろ? 二人を一ノ瀬ちゃんに紹介するとしよう。そうしたら俺はどうなる?……簡単に言えば"徹底的な指導"が入る。そりゃあそうだ。琴音と東堂さんは俺のことを「」或いは「」とでも思っているのだから。そんな俺が女性を二人に紹介できるわけが無く。わざわざ危ない橋を渡る必要性は皆無だ。二人に女性を紹介する行為は富士の樹海にマッパで入るのと同義だからな。……そんな人がいるか知らんが。


「では、増田師匠が先程口にした「きっかけを与える」。というのはどうなるのですか? アレも冗談なのですか?」


 増田が頭の中で下らないことを考えていると一ノ瀬は質問をする。


「いや、アレは本当だ」


 一ノ瀬の疑問に増田は頷く。


「それに琴音と東堂さんは生徒会のミーティングにでも出席していると思うから無闇に呼べないさ。ただ彼女ら以外のきっかけを作る人物……即ち助っ人を呼んでいるのは本当のことだ」

「そう、ですよね。お二人は生徒会ですからね。ただお休みの日にミーティングなんてなんだかカッコいいです!!」


 増田が口にした「助っ人」という単語に反応しない一ノ瀬。そんな一ノ瀬はまたも琴音と姫乃のことを考えて目を輝かせると脱線していた。


 「本当に一ノ瀬ちゃんはあの二人が好きなんだな」と言うように微笑む増田。


「……祈。話を戻すよ?」

「あ、あぁ!……はい。またまたお恥ずかしいところを……どうぞ、進めてください」


 増田に指摘される一ノ瀬。頰を赤く染める一ノ瀬は両手で顔を隠すと増田に話を促す。


「わかった。まず、既に"助っ人"はこの場に呼んでいる。なので早速祈にはと顔合わせをしてもらおう」

「え? 彼? それにもう、来ているのですか?」

「あぁ。祈が琴音や東堂さんについて色々と話している時にコッソリと連絡させてもらったよ。ただ安心してくれ。彼は信用における人物だ。きっと祈の助けになる」

「……わ、わかりました。増田師匠がそう言うなら。お願いします!」


 決意を固めたのか一ノ瀬は戸惑いながらも増田に頼む。そんな一ノ瀬の想いを汲むように頷く。


「わかった……。いるんだろ?」


 増田は動くことなくその場で自分達がいる居間のドアに向けてそんな声をかける。一ノ瀬は「え? え?」と困惑した様子だ。ただ増田の言葉の意味が直ぐにわかる。


「……はは、純一さんには敵いませんね」


 そんな声が居間のドアの向こう側から聞こえたと思うとドアが一人でに開く。否、向こう側から誰かが開けた。


 そこには……。


「本庄努、連絡を受けて参上しました……一ノ瀬さん、話は聞いているよ。僕で良ければ助けになろう」


 そんなことを言うと驚いている一ノ瀬に笑みを向ける制服姿の本庄努の姿があった。白髪を揺らしイケメンスマイル主人公スマイルも健在だ。


 主人公こと本庄努とヒロインこと一ノ瀬祈の邂逅を交互に見た増田は笑みを深くする。


(……そうだな。本庄君は本当に助っ人として優秀だ。本来の軸通りだと言うこともあるが。ただ俺が一番願うのは……一ノ瀬さんが本庄君に懐き。恋心を覚えること。そして最後には二人が……さぁ、シナリオ原作通りならそうなるが。どうなることやら)


 増田は二人に気付かれないように密かに嗤う。



 ◇



 増田と祈は本庄も入れて3人で話し合った。そこで一ノ瀬の特訓方針が決まった。決まるとともに一ノ瀬の修行の成果の発揮日は7月6日(月)の「遠足」の日となった。そんな中シナリオ通りに進む様を見て増田は有頂天になっていた。


 ただ意外なことが起きる。増田を軸に今日合わせた土日の二日間という短い時間を使い一ノ瀬の友達作りの特訓をするつもりだった。が、本庄から「親睦も深めたいし初めは僕と一ノ瀬さんの二人でやってみます」と提案をされた。そのことに特に不満や意見は無かった増田は一ノ瀬に目配せをする。すると言葉は何も無かったが「大丈夫」と言うように一ノ瀬は頷いた。


 なので本庄に任せることにした増田は一旦場を離れる。二人だけの空間を作ることにした。


「……ほうほう。これは、あるか? あるのか? 本庄君と一ノ瀬ちゃんのフラグが立ったか? なら嬉しいな。責任転嫁……とは言わないが。二人が仲良くなったなら俺はいらないかな。「後は若い二人で」……ってやつだな」


 居間から離れた増田は一人誰にも聞こえないような声量で嬉しそうに呟く。ただその顔は少し寂しそうでもあった。短い時間だが一ノ瀬は自分のことを「父親」ないし「師匠」と慕ってくれたのだから。

 でもそんな彼女が好きな人を見つけてその先へ成長出来るなら自分は何も言わない。


 増田が一人、舞い上がりそんなありえないことを考えている中二人は。









「単刀直入に言うよ、一ノ瀬さん。君、純一さんのことだよね?」

「……」

「あぁ、もちろん。としての話だ」

「!!……だったら、なんですか?」


 真向かいに座る本庄にそんなことを聞かれた一ノ瀬は増田といる時には決して見せなかったを本庄に向ける。

 本庄は本庄で一ノ瀬の視線を受けても涼しげな表情を浮かべたままだ。


 増田が知らないところで二人はそんな話をしていた。少し険悪な雰囲気で。ただ増田はそのことに気付けない。




 







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