第6話 ストーキング
まずい、非常にまずいぞこれは。いや、自分の状況を話すのは訳ないがそれを話したところで琴音にどうこうできるわけはないだろうし……。
今も自分の顔を間近でマジマジと眼光を開き見てくる琴音に怯えながらも考える。
ただ、考えたところで今できる最善の行動は「琴音に今までの経緯を話す」と言うことが無難だと思った。
なので、増田は──
「あ、あぁ、それなんだけど──」
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今までの出来事を事細かく詳細を詳しく琴音に話す。勿論、嘘偽りなく話した。琴音は自分のことのように真剣に聴いていた。
「──って、ことがあって今少し危うい状況なんだよ。さっき琴音ちゃんに伝えた通り俺は無実だ。ただ、それを証明できる術がないから困っててさ」
「覗き」について何か言及されると思い少し身構えた。
「……そっか。そんなことがあったんだね。純ちゃんも大変だね〜」
怒るどころか親身に接してくれる。
少し、警戒しすぎかな?
笑みを取り戻し微笑む琴音を見て。
「……うん、逐一ストーキングしてるし、盗聴器はプライバシーに関わりそうだから辞めたけど追跡アプリを付けているから純ちゃんが女子更衣室を覗いたというのは姫乃ちゃんの言いがかりだね。それに金曜日に女子更衣室を誰かが覗いた、ね……」
俯き、増田がギリギリ聞こえない声量で何かをボソボソと呟く。
気付いた増田は不審に思い。
「ん? 琴音ちゃん、何か言ったかい? ストッキング……とか、聴こえたけど?」
ストーキングをストッキングと聴き間違えた増田はそのまま琴音に問い掛ける。
(……少し声が大きすぎたね。聞き間違いをしてくれた上に聴こえていないなら……)
琴音はそのまま増田が聞き間違いをしてくれればいいと願いながらあることを告げる。
「お母さんが前に欲しいって言ってて。その話は置いといて、もしかしたら純ちゃんの無実を証明できるかもしれないよ?」
「──マジ?」
話を聞いた増田は藁にもすがる勢いで反応し。無実が証明」出来るという素敵ワードからストッキングの話題など跡形もなく消える。
(うんうん。そらせたね)
自分の呟きを聞き間違えてくれたことに安堵し、増田に救いの手を差し伸べる。
縋るような増田の視線を全身に浴び。
◇
「──本当だよ。私ね金曜日の10時頃たまたま体育館倉庫で用具の手入れをしている純ちゃんを見かけたんだ。その時は次の授業の時間も迫っていたから話しかけれなかったけど。ただ、体育館倉庫の近くにある女子更衣室から誰かの悲鳴が上がったんだよ。純ちゃんは気ずかなかった?」
「……うーん、確かに俺は昨日の午前中……10時頃に体育館倉庫で用具の手入れをしていた。断言はできないが特に誰かの声とかは聴こえなかったな……」
琴音の話を聴いた増田は顎に手を当て記憶を辿る。考え込んだが答えはわからないだ。
うん。記憶通りだと今、琴音が話した内容で合ってはいるが、誰かの声がそれも悲鳴が聴こえたのは覚えがないな。
増田の答えを聞いた琴音は話を続ける。
「そうなんだ。純ちゃんは倉庫内にいたから聞こえ難かったのかもね」
「かもな。それで、その悲鳴とやらが俺の無実を証明する理由になるのか? 急かす様で悪いが教えてくれると助かる」
少し真剣な表情を作ると琴音に伝える。
「うん。私は悲鳴が聴こえたから直ぐにその場に向かって──」
琴音が話した内容はこうだった。
体育館倉庫の用具の手入れをしている増田を見つけた琴音。その時女性の甲高い悲鳴が聴こえた。なので直ぐにその場に向かうと女子生徒が一人女子更衣室で蹲っていたという。その女子更衣室は増田がいた体育館倉庫の真向かいだったらしい。
ただ、そこで琴音が見たものは女子生徒が女子更衣室の教室内で蹲っている姿と増田がいる体育館倉庫が丁度見回せる開け放たれた窓から黒猫が外に出ていく姿だったという。
「──だから、覗きの犯人はその黒猫ちゃんで。その女子生徒はパニックを起こしたまま窓から丁度視認できた純ちゃんを見て偶然が重なり悲鳴をあげたんじゃないのかなぁ〜と思うの。正解かは解らないけど、これが本当のことなら純ちゃんの無実を証明できるはず!!」
そう言い放った琴音は胸に握り拳を作り両手を上げ声を張り上げる。
増田は琴音の話を終始目を瞑りながらも言葉を挟むことなくしっかりと聞いていた。整理を終え目を開ける。
「──なるほどな。それなら、なんとか辻褄が合う、のか。犯人?は黒猫であって、その女子生徒が真向かいにいる俺を見てパニックを起こし、不運な事に俺の名を叫んでしまったと、言う事なのかもな」
自身の頭で纏めた事を口にする。聴いていた琴音はずずいと近付いてくる。
「……ん? どうかしたのか?」
「うん! じゃあ、行こうか!!」
「ヘ? どこか行くのか?」
質問に琴音は満面な笑みで。
「今から理事長室に行って無実を証明しよう!! 善は急げだよ、純ちゃん!!!」
いきなりの事で呆気にとられている増田に向かって行動力のある幼馴染様はそう告げるのだった。
◇
我に帰った増田が「今から行くのはアポも取ってないし悪いから後日……月曜日でも良いのでは?」と告げたが、我等の幼馴染様は「大丈夫、大丈夫! 東堂理事長は優しいから許してくれるよ! それにここは校内な訳だし直接行けばなんとかなる!!」そんな何とかなる精神で増田を言いくるめた。
少し渋りながら「その証人者である悲鳴を上げた少女はどうするのか?」と聞くと「それも任せて!」と言う。直ぐに持っていたスマホを操作して誰かに連絡を入れる。その慣れた手つきを見た増田は「ハァ、お嬢様でもやっぱりギャルなんだな」と思うのだった。
琴音は顔を上げると左手でピースを作り、笑みを向ける。
「──純ちゃん、こっちは準備万端だよ! 今直ぐにでも姫乃ちゃんをギッタンギッタンに出来るよ!」
言葉は少し幼稚だが増田の知らない水面下で何かの準備が整ったようで。
「わかった。琴音ちゃんが色々と根回しをしてくれたみたいだし、俺も決心を決めるよ。ただ、東堂理事長達が理事長室に居ないようなら今日は諦めるからね?」
「うん! それはわかっているよ! ただ、そんな心配も無いと思うけど」
こちらの問い掛けに余裕の態度を崩すことなく景気よく答える。伝えられた増田は琴音のことを頼もしいと思う一方。自分のために動いてくれることで信用することにした。
二人は外出が出来る準備をすると早速歩いて5分ほどの理事長室に向かう。
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