第50話 その頃の姫花と椎名(ショート)②



「礼拝戦争」


 それは7人の高校生が一人一騎。計7騎の式神を召喚して決められたお寺に祭壇されている仏の試練を受けてただ一人の勝者を決める策略、思想が飛び交う戦争のことだ。

 最後に生きていた勝者は願望仏がんぼうぶつと呼ばれる仏を手にすることができ、神々に願いを二つ叶えてもらえるという。


     ただ、知らない。


   「礼拝戦争」の本質を。


    その払われる代価を。



「……ていう、お話でね。今は魔力が尽きて式神のオルトちゃんの制御が利かなくなった主人公の那由多司なゆたつかさ君を助ける為に林道りんどうあかねちゃんと赤神紫音あかがみしおんちゃんが司君に魔力供給をしようとしてるんだよ!」

「……そうですか」


 増田が隠している「礼拝戦争」の話の内容を姫花から聞いていた椎名は頰を少し赤らめていた。

 その理由ワケは探すフリをして姫花の目を盗みながらも既に姫花が読みたいという「礼拝戦争」の七巻のその「魔力供給」とやらの話を、シーンを少し見たからである。


(……純一が姫花お嬢様に見せたくなかったのも当然のことね。だって、「魔力供給」=「性行為」のことなんだから。そこで姫花お嬢様の為に見せなかった純一の判断はグッジョブ。けど、この「礼拝戦争」。よく見ると「15歳未満は見せてはいけないもの」なのよね。帰ってきたら純一にはお仕置き確定ね)


 「礼拝戦争」のマンガ雑誌の精神年齢が「15禁」だと気付いた椎名は増田に怨嗟の念を抱く。


「そうだ、椎名お姉ちゃん、見つかった?」

「……申し訳ありません。私も机の隠し扉ここにあると思ったのですが、純一はもしかしたら違うところに隠したのかもしれません。使えない椎名で申し訳ございません」

「んーん。椎名お姉ちゃんは悪くないの。隠す純一が悪いから。純一が帰ってきたらとっちめる!」


 なんとしてでも「礼拝戦争」の続きを読もうとする姫花。


 くっ、なんとしてでも「礼拝戦争」の続きは読ませてはいけないわ。他に何かあればよかったけど生憎見つかったのは「メイドと主人の主従の本」と「令嬢と平民の本」だけ、これは姫花お嬢様には見せられないわ……困ったわね。


 何処か怪しいニュアンスが聞こえたが椎名が仕込んだことなのでしょうがないだろう。


「そ、その。他の絵本とかはどうでしょうか? やはり姫花お嬢様にはマンガ雑誌は些か早いのではないのかと思います」

「んんーー、絵本も楽しいけど。姫花はマンガがいい」

「さ、左様ですか。で、では。姫乃お嬢様は「礼拝戦争」以外に何を読んでらっしゃるのですか?」


 「礼拝戦争」から「絵本」へと話の移行ができないと判断した椎名は「礼拝戦争」の話題をせめてでも変えようと思った。


「! えっとね〜」


 それが功を成したのか姫花は目を輝かせると近くにあった青色のクッションの下からある本を取り出す。そして椎名に見せる。


「姫花が読むのは、コレ!」

「それは……」


 姫花が見せてきた一冊の本を見て椎名は言葉を詰まらせる。


 椎名に姫花が見せた本は「魔法少女プリティーミイナ」という少女向けのマンガ雑誌だった。

 よく見てみるとそのマンガ雑誌はかなり古いのかところどころ色あせたり、破けたりしていた。それでもテープ等で不器用ながらに補修されている。


「これね、姫花が好きになると思うからって、純一が見せてくれたの。そしたらすご〜く面白いの!!」


 そのマンガ雑誌を好きになった経緯を姫花は楽しそうに話す。


『ミイナちゃんがかわいい!』『いじめはよくないの!』『正義が勝つの!』


 などと楽しそうに話す姫花。

 その間、椎名は姫花を優しげな目で見ていた。ただその目は優しさ以外にも何処か懐かしさを彷彿とさせる憂いが見れる。


「それでね、それでね! とにかくミイナちゃんは強くてかわいいの!……そういえば、椎名お姉ちゃんとミイナちゃんのって同じ?」

「! そうで……その、ミイナちゃんというキャラクターと私の髪の毛の色はですね」


 姫花の言葉に一瞬驚く椎名。それでも平然と答える。


「いいなー姫花もミイナちゃんと一緒のにしたいなー」

「!!……姫花お嬢様はそのままのお姿が宜しいかと。麗奈様と姫乃お嬢様とお揃いですし。純一も姫花お嬢様の髪の毛を好きだと言ってましたよ」


 姫花の「薄緑色の髪色にしたいな」という言葉を聞いた椎名は姫花を説得する様に少しムキになりながら矢継ぎ早に伝える。


「んー、ならこのままでいいや! お母さんと姫乃お姉ちゃんと同じ。それに純一も姫花の髪が好きだから!」

「ほっ、あぁ、いえ。そうですね。それで宜しいかと」


 姫花の言葉に安堵した椎名は今も「魔法少女プリティーミイナ」について色々話す姫花と話を合わせる。

 そのマンガ雑誌に映る「ミイナ」という自分と同じ薄緑色の髪を持つ少女を見ながら。今も首から吊るしているのハート型のアクセサリーをメイド服の上から片手で撫でていた。







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