第51話 おもてなし(???)
増田が琴音に翻弄されている中控え室の垂れ幕の奥で待つ姫乃は琴音と増田を羨ましそうに見ていた。
「……ここからはお二人が何を話しているのかはわかりませんが、仲がよろしそうで。ただ、少々……イラつきますわね」
ザ・お嬢様代表としてはあるまじき言葉使いをしていた。
「それに琴音は
不遜な言葉を残す姫乃は控え室に静かに待機する。
「……さぁ、これで参加者は出揃った……と言いたいところですが。なんと、後一人参加者がいます。ほとんどの票が姫乃様と琴音様で別れる中、唯一一票だけそのお方に入っていました。その参加者は参加意思もあると思ったので参加してもらいましょう」
川瀬が手元にある用紙を読みながら最後の参加者の名前を紡ごうとする。
お嬢様達の中では「姫乃様と琴音様以外に参加できるお方がいたのですわね」や「そのお方は勇気あるお方なのですね。
「最後の参加者はこちらのお方となります。あの一ノ瀬グループの令嬢こと一ノ瀬祈様です」
川瀬の言葉とともに姫乃や琴音と同様にメイド服に身を包んだ一ノ瀬が現れる。
ただしその一ノ瀬が着ているメイド服は姫乃達とは明らかに毛色が違う物だった。姫乃達が着ているメイド服が一般的な黒と白を基調にしたメイド服とするならば一ノ瀬が着ているメイド服は和風をイメージした様な和の緑色でフリルが付いた可愛らしいメイド服姿だ。手元には姫乃達と同様に薄緑色の風呂敷を持っている。
その一ノ瀬が着込む見慣れないメイド服を見たお嬢様達は声を漏らす。
『まぁ! 一ノ瀬様が……ところであれもメイド服……なのかしら?』
『恐らく、そうなのでしょう。でも……』
『そうですわね……』
『あれは……』
そんな風にお嬢様達は言葉を途中で止めたと思うと。
『『『とても可愛らしいですわ!!!』』』
声を揃えて一ノ瀬が着るメイド服を褒める。
一ノ瀬ちゃんが着てるメイド服って……秋○原とか前の世界であった和風のメイド喫茶でメイドさん達が着ていたやつだよな。
和風メイド喫茶に何回か足を運んだことがある増田は一ノ瀬の姿を見て考え深げに眺めていた。
「あのお姿、一ノ瀬様は今回の催しのダークホースとなるお方になりそうですね。それになんでも増田様の弟子を名乗っているそうです。そちらも中々私も気になっております」
そんな川瀬の声が聞こえる中とうの一ノ瀬はオドオドとした辿々しい歩き方で増田の元へ向かっていた。
どうやら本性を潜めて増田が知っているコミュ症の弟子を演じている様だ。
「し、師匠。増田師匠。私、一ノ瀬は何故かこの様な大舞台にやってきてしまいました……何故でしょう?」
増田の元へとなんとか辿り着けた一ノ瀬は体をプルプルと震わせながらも増田に問い掛ける。
「はは、正直俺にもわかんないや。まぁ、これもただの催しだし。祈は参加したいと思ったからここまで来たんだろ? 参加したくなければ辞退すればいいだけだし」
「……はぃ、本当は人前に立つのも苦手ですし。ましてや東堂姫乃さんと愛沢琴音さんと私が勝負をするなど嫌です……でも」
「でも?」
下を俯きながらもどうにか言葉を出そうとしている
「でも、お世話になった師匠に少しでも、恩返しをしたいと思ったのです」
「そっか」
一ノ瀬からのそんな言葉を聞いた増田はその場を立ち上がると一ノ瀬の頭をポンポンと軽く叩く。
「ありがとう。とても嬉しいよ。君が自分から考えて行動できる様になっただけでも俺は満足さ。成長したな、祈」
「! はぃ、その、お友達……出来ました」
増田の言葉が嬉しかった一ノ瀬だが、何故だか歯切れが悪い様にも感じる。
「それじゃあ、祈が出してくれるお茶、期待しようかな?」
「ううっ、あまり期待はしないでください。それに私のは東堂姫乃さんや愛沢琴音さんみたいに凄かったり驚く物ではないので」
「おう、それでも楽しみにしてる」
「はぃ」
増田の言葉を聞いた一ノ瀬は思っていた以上にテキパキとお茶を入れる作業に入る。
そんな姿を楽しそうに眺める増田。
ただ増田は知らない。自分が公の場で一ノ瀬の名を「祈」と呼んでしまったことを。
「……は? 祈? なんで名前呼び? 純ちゃん?」
「一ノ瀬さんを名前呼びで呼び捨て。ふぅ、これが終わったらおはなしあいですわね」
増田が知らないところで波乱の予感……。
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