第19話 増田の暗躍、本庄努との邂逅





 薄暗く少しホコリ臭い倉庫内。作業用の藍色の作業着を着た増田はせっせと子百合澤女子校の体育倉庫を掃除していた。「お掃除〜お掃除〜」などと口ずさみはたきを手に持ち掃除していた。決して増田が体育倉庫内に監視カメラをつけているわけではないので悪しからず。


「……つっても、胸糞悪い話はあるのわな。『ルサイヤの雫』のシナリオ通りではあるのだが、現実でやられるとはなぁ〜。まぁ、情報は確保出来たし共犯者も手に入れたから俺の計画は揺るぎない、な」


 掃除をしていた手を止める増田は少し真剣みを増した表情を作ると呟く。


 増田があの後、警察官と共に警察署に行って何をやっていたかというと……情報収集だった。勿論、何もやっていない増田は捕まることはなかった。ただ、せっかく警察署に合意の下潜入できたのだ。何もやらないで帰ってくるのはナンセンス。

 そんなことを考えた増田は警察官達……壮年の警察官「山本智やまもとさとし」巡査長。通称「ヤマさん」とイケメンな警察官「樋口孝一ひぐちこういち」巡査の二人に「誤逮捕」というカードを使いある意味脅しの様な感じである話を問いただした。


 その聞いた内容はこの頃「此処「桜田町」で何か事件は起きていないか」や、「東堂家にまつわる何か」がないか、と聞いた。聞く際に自身の知っている内容も折本巡査長達に啓示する。言わば情報交換の様なものだった。

 初め、折本巡査長達も何故赤の他人の増田が東堂家の事を聞くのか?と疑問に思っていた様だが、事前に東堂家とは知り合いと伝えていたこととコチラもを受け渡した為、軽く教えてくれた。

 普通は一般人である増田にいくら有益な情報を教えてもらったからというだけで警察官の自分達が持つ機密事項となることを教えるわけがないが、増田の事を「誤逮捕」しそうになったという負い目からか教えてくれた。


 その内容は増田が知っている通りの内容だった。なので、少しニヤついてしまったのは許してほしい。


「……ここで全く違うシナリオだったら俺にはお手上げだったが。まぁ、問題は無さそうだ。上手く行きすぎるのもアレだが、俺の考えが正しいならこの先の展開は俺の予想通り。この先は俺の掌の上だろう。後は今回の主役を見つけることだな」


 増田はそんなことを一人呟く。ただ、自身でも口にした通り話の展開が上手く行きすぎていて怖い一面もある。ただ後戻りはできない。自分の今後の平穏のためには通らなくてはいけない、退けなくてはいけないものだ。


「「東堂家とのコネクティング」「警察官との連携」そして——「」の存在。はっ! 俺が裏で糸を引いているなんて誰が予想がつく? 誰も知らないだろうな。ただ、踊ってもらおう。これもみんなが幸せになり悪が滅び、俺が——」


 増田が悪い笑みを浮かベ何かを口しようとした時「プルルル、プルルル」と、増田が持つ携帯端末に誰かから着信があった事を知らせる。


「……」


 なので、無言で携帯端末をポケットから取り出す増田。着信の相手の確認をした増田は躊躇いなく電話に出る。



「——はい、増田です……」



 電話に出た増田は相手と何やら話をする。



「——そうか。なら昨日言っていた通りの手筈で頼む。はそちらに任せる。あぁ、問題ない。始める時は俺の方から連絡する」


 増田はそんなとこを初めとは違うタメ口で相手に告げると電話を終える。電話を終えた増田は何処か安堵した様な表情を浮かべていた。


「……ふぅ、これで第一関門は突破。後は頼みの綱の「本庄努」との顔合わせだな。運良ければ知り合いになれば御の字だが、相手の出方にもよるな。まぁ、その為の布石は既に打っているしから問題は無いと思うが」


 点と点が繋がり線となったことを理解した前田はそんなことを最後に呟いたきり体育館倉庫内の掃除を再開し、口を開くことはなかった。


 増田が話していた相手は昨日知り合いになったばかりの警察官巡査である「樋口孝一」だった。そんな樋口とは携帯端末の連絡先を交換していて、あることも頼んでいた。その頼み事は樋口達、警察官達側でも重要案件で追っていたものだった。そんな樋口から聞かされた内容は「増田の協力により解決しそうだ」と、言うことと「程が決まり次第連絡をほしい」という内容だった。


 果たして増田がやろうとしていることとは一体、何なのか。



 ◇



 増田はあの後しっかりと体育館倉庫内の掃除を終えるとある人物に会う為に体育館倉庫近くにある雑木林まで向かっていた。


 増田が今から会いに行こうと思っている人物とは——この『ルサイヤの雫』の主人公である「本庄努」だった。シナリオ通りだと6月8日の17時20分に本庄努はを探すために雑木林に来る。だがそのが見つからず途方に暮れ、近くにあるベンチに腰掛けているという内容だった。


 今は6月8日の17時15分となっている。このまま増田が現場に向かえば100%本庄努はその場にいるだろう。それに増田は本庄努が探していたブツを既に探し見つけていた。


「——俺が知っている記憶通りにことは進んでいるし、「本庄努」が探しているものは見つかったから後は接触するだけだな」


 本来なら本庄努は何とかして自力で自分の探し物を探す。というのがシナリオ通りだがコチラにも分岐する道がある。それは本庄努がベンチに座り途方に暮れていると用務員のおじさんが「どうかしたのか?」と声をかけてくる。そこで本庄努がその用務員のおじさんに「失くし物をした」と訳を話すと本庄努が探していた探し物を偶々拾っていた用務員のおじさんが渡してくる。


 増田はそのシナリオで出てくる用務員なのかは確証は持てないが自分も用務員なのでその役割をしようと思ったのだ。


 物語の展開を考えながら本庄努がいるベンチまで向かっていると本当に誰かがベンチに座っていた。その人物は若いのに白い髪色を肩まで伸ばしているのが特徴的な人物だった。男性なのか女性なのか直ぐには見分けがつかないほどの端正な顔付きをしている。ただ、増田は間違えるはずがない。何度もパッケージを見て自身も「本庄努」として振る舞ったことがあるのだから。


(——あそこに座っているのは『ルサイヤの雫』の主人公であり「ハーレム野郎」の異名を持つ全男子の怨敵である「本庄努」その人だろう。ハァ、他のキャラクターの時もそうだが、画面越しで見ていたキャラクターを生で見れる日が来るとはなぁ……)


 を見れた増田は何処か考え深げな表情を浮かべるが、そんなことは後にして今は接触を試みる。


 本庄努の近くに寄る増田は「ふぅ」と、息を整える。そのまま声をかける。


「——どうかしたのか? 何か落ち込んでいる様子だが?」


 出来るだけ優しく話しかけることを心がけた増田は何とか本庄努その人に話しかけた。


「——え?」


 誰かに話しかけられたことに気付いた本庄は顔を上げたのだったが目の前にいたおじさんが誰なのかわからず、驚き声を上げてしまう。



 これが『ルサイヤの雫』の主人公である「本庄努」と『ルサイヤの雫』に土足で入ってきたイレギュラーな存在の「増田純一」の始めての邂逅だった。



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