第20話 乙女の感(勘違い?)
本庄努の次の言動・行動がわかっていた増田は苦笑いを浮かべると無理に近付くではなくお互いのパーソナルスペースを気にしながら予め考えていた内容を言葉にする。
「あぁ、俺は別に怪しいものではないよ。此処、子百合澤女子校の用務員を務めているただのおじさんだからね。ただ、君がここで何か悩んでいる様子だったから老婆心からか気になってついつい話しかけてしまってさ、はは」
増田は素を隠し朗らかに話す。
そんな増田の善人(笑)な雰囲気に当てられたからか本庄は少し態度を軟化させると口を開く。
「そうだったんですね。変な態度を取ってしまってすみません。僕の事を心配してくれたのに」
初対面の人に取る態度では無かったとわかっているのか直ぐに謝ってくる。
流石は人が出来ている主人公だな。顔も良く運動もできていて、話し方も嫌味が全く伝わってこない。うん、俺が想像していた「本庄努」その人だな。
「本庄努」の好青年という雰囲気を見た増田は内心で「うんうん」と頷く。
「いや、いいんだよ。俺だって知らない人に話しかけられたら警戒はするからね。それにこんな得体の知れないおじさんに話しかけられたら尚更だろうね」
「いえ、そんなことは……ただ、そう言って頂けるとありがたいです。あっ、僕の名前は「本庄努」と言います。今年新一年生として子百合澤女子校に「男子枠」で入学して来た者です。この学校に男性がいる事を知って少し安心しました」
本庄努は男なのに花が咲いた様な笑みを浮かべると増田に自身の名前を伝える。
(——ぐわっ!! こ、これがモノホンの主人公の威光、か。相手が男とわかっていてもこの威力は……)
本庄努の笑みにやられた増田は少し蹌踉めく。
男相手に少しときめく
まぁ、そんな馬鹿なことは今は置いていて自身も自己紹介をすることにした。学生に先に自己紹介をされたのに関わらず自分がしないのは大人として終わっている。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、いや大丈夫! 大丈夫だから!!……コホンッ! あぁ、これはご丁寧に自己紹介をありがとう。本来なら年長者の俺が先にしなくてはいけないのにね」
増田の異変に気付いた本庄努に近寄られると少し動揺しながらも取り繕う増田。
「俺の名前は「増田純一」。先も話した通りこの子百合澤女子校の用務員を務めているよ。まぁ、ただの用務員のおじさんと思ってくれればいいよ」
取り繕った増田は何とか自身の名前を本庄努に怪しまれない程度に話す。
「増田さん、ですね。この学校にいる数少ない男性同士、仲良くしてくださいね!!」
本庄努は増田の事を信用してくれたのか右手を出してくる。
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
そんな本庄努の右手を自身の左手で握ると握手をする二人。
……握手をする時に何故か「本庄努」が頰を染めていた様な気がしたが、まぁ、男が自分以外にいる事を知ったから来た喜びからだろうと増田は思うことにした。
◇
あの後、増田は予定通り本庄に「何かあったのか?」と聞く。すると「大事な物を落としてしまい探しているのですが、見つからなくて……」と、暗い顔で伝えてくる本庄。そんな本庄に「どんな物を失くしたんだ?」と、何を失くしたのか聞く増田。すると本庄は——「妹の誕生日に渡すはずだった髪留めを落としてしまい」と、教えてくれた。
その内容に「ビンゴ!」と思った増田は「それってこれじゃないか? さっき偶々落ちていたのを見つけてね」と告げるとポケットに入れていた女性用の青色の髪留めをさり気なく取り出す。そのまま本庄に手渡す。
「あ、ありがとうございます!! そうです! これが僕が失くした物です。本当に、ありがとう……ッ!」
増田から髪留めを受け取った本庄はホッとするとともにその場で倒れてしまう。
「——ッ!! 大丈夫か!? 本庄君!!」
間一髪でいきなり倒れる本庄の身体を抱きしめた増田は何とか受け止める。
び、ビックリした。こんなシーンシナリオにはなかったから流石に驚いたわ。でも、直ぐに俺の身体が動いてくれて良かったわ。ここで本庄努に怪我でもされたなら計画が台無しになるからな。
そう思った増田は本庄を未だに抱きしめながらも安否を一応確かめる。
「本庄君、大丈夫か? 怪我とかはないか?」
「は、は、はひっ」
「ん?」
安否を確かめた増田だったが、本庄から返ってきた言葉は思っていた様な物ではなかった。なのでしっかりと本庄の顔を見ると……何故か首から上を真っ赤に染めていた。それも耳も含めて。
そのことに「どうしたんだ?」と思った増田が何か声をかけようとすると。
「だ、だだ、大丈夫です!! 僕は大丈夫です!!? 今回はありがとうございました!! またお会いしましょう!! 純一さん、では!!!」
いきなり増田の身体から無理やり離れる本庄は何かに狼狽た様に話すと増田から少し距離を置く。そのまま捨て台詞を残す様な感じで何処かへ行ってしまう。
「あ、あぁ、うん。また」
そんな本庄努の行動原理がわからない増田は終始、疑問符を頭に浮かべながらも遠くなっていく本庄の背中に向けて自身も別れの挨拶を送る。本庄に聞こえているかはわからないが。
◇
その頃の琴音。
「——はっ!! コレは、私の……敵?」
食べていた苺パフェから顔を離すと琴音はそんな事を呟き、いきなり椅子から立ち上がると天井を見上げる。
「こ、琴音? どうかしましたのですか?」
琴音と一緒に子百合澤女子校の近くにあるカフェに来ていた姫乃は琴音の不自然な行動に驚く。驚くと共にどうしたのか琴音に聞くが……。
「……また、純ちゃんが誰かを誑かしている? うーん? でも、なにか違う様な???」
姫乃の話など聞こえていないのか琴音はそんな事を呟く。
「……この頃の琴音の行動がわかりませんわ。それにしてもまた、増田さんですか」
やはり琴音に増田が何かをしているのではないのか?と姫乃は悪い予感を勘繰ってしまう。
何もしていないのに色々な人に疑われる増田。
◇
「——増田純一さん、か。カッコよかったなぁ〜、でも何かさっきからおかしいんだよね。純一さんに身体を抱きしめられてからなんだかドキドキが治らないや、何でだろう?」
増田から離れた場所で息を整えていた本庄はそんなことを呟く。自身でも今の状況がわからないらしく戸惑いの表情を浮かべていた。
「……まっ、いっか。
そんな自分の状態を気にする事を放棄した本庄は家に待つ自身の妹の元へと帰る。
6月8日。それは「本庄努」の2個下の義理の妹である「
それを知っていたからこその増田の「本庄努」との接触だった。
◇
「本庄努」と謎の別れ方をした増田は用務員倉庫に向かい残っていた業務を終わらせるとそのままの足で自身の家である用務員寮に向かっていた。
「——怖いほどに計画は順調、順調、と。後は来たる時を待つだけだな。「本庄努」ともコネクト出来たし後は期限までに親しくなり「本庄努」に本物の主人公になって貰うだけだな。……ふっ、勝ったなコレは」
自分の平穏の生活を手に入れる道が正されたことを確信した増田は深く嗤う。
そんなこんなで何事も起こることなく4日が経つ。6月12日(金)。流石に「本庄努」と2回目の接触を試みようと思っていた時それは起きた。増田がいつものように用務員倉庫近くでしゃがんで草刈りをしていると……何か嫌な予感を感じた。増田はその場に草が入った袋を置くと周りを見回す。すると……。
「——こんなところに貴方がいるとはね。純一、貴方どうやってこの学校に入ったのかしら?」
そんな声が聞こえてくる。聞こえてきた場所に増田が顔を向ける。
「お、お前は……!!?」
そこには腕を組んで増田を見下ろす様に見ているアニメの世界から出てきたようなメイド服の様な黒と白を基調にした服を着ている薄緑色の髪色をサイドテールにしているスタイルがいい女性が立っていた。増田を見る目線は何処か冷たい。
その人物は——
「椎名たそ!!」
「誰が、椎名たそよ! この腐れ純一!!」
増田に不名誉な名前で呼ばれた女性は反射的に反応する。
——そんな女性は増田の腐れ縁であり東堂家のメイド長を務める小鳥遊椎名だった。
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