第58話 過去と今
私は子百合澤女子校で有名な生徒の一人、愛沢琴音さんに理事長室に呼ばれました。
理由は私が間違えて叫んだことである人がこちらも有名な東堂姫乃さんに容疑を疑われているということなので真実を伝えて欲しいとのことでした。
私が理事長室で待っているとその人は入ってきました。その人は私も知っている人物でした。子百合澤女子校には数少ない男性なのだから。
私は愛沢琴音さんに言われる通り東堂姫乃さんに真実を伝えました。
『──そ、その、それで。間違いを直ぐに私が正せばよかったのですが……怖くて、言えなくて……ごめんなさい』
そんな私の言葉を聞いていた男性……増田さんはポケットから藍色のハンカチを取り出すと私に渡してきます。
『一ノ瀬さん、で良いんだよね? 間違いは誰にでもある。言いづらいことも俺でもたまにあるよ。これから気をつければ良いんだよ』
『──はぃ』
そんな増田さんに蚊の鳴くような小さな声で返事を返してしまいます。そんな自分が情け無くて受け取ったハンカチで顔を隠す様に涙を拭きます。
『だから、あまり気にしちゃダメだよ。それに不安にさせてしまったみたいだね』
私のことを心配してか優しく声をかけてくると私をあやすように軽く頭を撫でてきました。
『──ッ!?……えへへっ』
始めその増田さんの行為が分からなくて驚いてしまいました。ですがその手つきが目が優しく何処か亡きお父さんにに似ている様な暖かみを感じました。
そんな私は懐かしさからかあの日から作れなかった自然な笑みを浮かべていました。
その時私の胸は「ドキリ」と疼きました。
その時はそのことがなんでかわかりませんでした。けど、その一件から増田さんのことがどうにも気になってしまい増田さんのことを見つけたら目で追う様になっていました。
そんな日々が続いて流石の私も気付きます。私は増田さんのことを気になっている……いいえ、増田さんに恋をしている、と。
きっとこの気持ちは恋心。増田さんに……お父さんに似ているこの人に一目惚れをしてしまったのでしょう。
もちろんお父さんの方がカッコいいです。けどあの優しさと暖かさが忘れていたこの気持ちを呼び起こしてくれます。
恋を自覚した私は動きます。まずは増田さんになんとしても近付こうとしました。その時に考えたのが「お友達作り」をして近付くことでした。私には友達はいますが、嘘をついてでもその時は増田さんに近付きたかったのです。
そんな私の行動が功をなし増田さんと知り合いになり、師匠と弟子の間柄になった上に増田さんの家の行き来が自由に出来ることが決まりました。
気をつけるのは増田さんに私が嘘をついていることがバレないことと愛沢琴音さんと東堂姫乃さんに見つからないことです。幸いあの二人は生徒会なので大丈夫でしょう。
そして色々とあり私はあの愛沢琴音さんと東堂姫乃さんと「おもてなしバトル」をして勝負を見事勝ち取り増田さんと「遠足」で二人きりになれる場所に来れました。
そして考えていた通りお友達が出来たことを話して仲を深めようと思いましたが……上手く言葉が出てきませんでした。親身になってくれて、こんなに優しい増田さんに嘘を突き通すことが心苦しくなってしまいました。
「……そうか。だから、祈のお父さんに似ていた俺に嘘をついてまで近づいたけど、それでも祈の性格上、嘘を突き通すことが出来ずに俺に真実を話した、と」
「はい、その通りです」
祈の話を聞いていた増田は祈に問う。聞かれた祈は肯定をする。
「ただ、そのアレだ。祈が俺に想っている一目惚れって……」
「はい、私は増田さんを好きです」
「!! そ、それは……その気持ちはありがたいけど、少し考え直した方が──「これが家族愛なんです!」──いいと……はい?」
「ん?」
増田は思っていた内容の返答とは違かったため変な返事を返してしまう。一ノ瀬は一ノ瀬で増田と話している内容が異なると感じたのか疑問符を浮かべる。
「えっと、増田さんは今……なんて?」
「え!? えっと、あれだよ、そう! やっぱり俺ってばなんかお父さんと見間違われることが多くてさ! うん、祈が俺に家族愛を持っているのならなんとなーくわかるな! 姫花ちゃんも俺をお父さんと思っているみたいだから!!」
「そ、そうですか」
自分の勘違いをバレたくないが為に大袈裟に反応する増田。
そんな増田に少し引いている祈。
あっぶねぇー。完全に勘違いしてたわ。いや、今の一ノ瀬ちゃんの口振りは俺への親愛とか愛とかの一目惚れかと思うじゃん。完全にヤベエ勘違い野郎になるとこだったわ。
内心冷や汗かく増田。
「ま、まぁ、アレだよな。祈は俺とお父さんを重ねてしまったから家族愛を持ったってことだよな! うんうん、わかるぞ。俺の両親ももっと家族愛があればなーなんか思ったりする時期もあったからな」
「ヘェ〜、因みに増田さんのご両親は今どうしてるんですか?」
「……今頃どっかの海外にでもいるはずだよ。そもそも俺が高校に上がってから生活費だけ置いて両親共に海外にフライアウェイしやがったんだよ……」
「そ、それは……増田さんも壮絶な過去があるんですね」
「まあね。今としてはどうにも思ってないからどうでもいいけど」
増田は自分が体験したわけではないのにこの世界の「増田純一」の両親に恨み辛みを重ねる。
「そ、そうだ! 私が大きくなってお父さんが生きていたらやってあげたいことがあったんです。それを増田さんにやってもいいですか?」
「……ん? 別に良いけど内容次第かな」
「ありがとうございます。私がお父さんにやってあげたいと思っていたのは膝枕です」
「……その話、詳しく聞かせてもらおうか」
一ノ瀬の口から聞こえた言葉を聞き流さない増田は今までで一番凛々しい顔を作ると一ノ瀬に問う。
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