第22話 特級過……彼女?
「何よ? 本当の事でしょ? 童貞さん?」
ただ、増田の雰囲気に臆さない椎名は尚も煽てる。
自分と同じ立場であるう椎名に対して怒りのボルテージが沸沸と上昇していく。有り体に言えば「キレちまったよ」状態になっていた。そんな怒ってしまった増田はその後の事の考えることが疎かになり子供の様に言い返す。
「は、はぁーー!!? お前も処女だろうがっ!! そんなお前に何か言われる筋合いはないんですけどぉーーー!!?」
「なっ、あーー!? わ、私は敢えて純潔を守っているだけよ!! 貴方みたいなモテない童貞と同じにしないで貰えるかしら!!」
増田の態度に当てられた椎名はクールさはどうしたのか少し狼狽えると増田に負けじと対抗する。だが、増田も負けてはいない。それどころか増田は椎名が口にした「純潔を守っている」という言葉を聞いて腹を抱えて笑う。
「ふはっ!! コレは傑作だな! 純潔を敢えて守っているぅぅ? それは単なる逃げ、言い訳だろう? それにお前の性格から学生の頃から男性から避けられていた事を知っているゾォ? そのあだ名もなぁ?」
「な、何よ?」
自分を馬鹿にした様に話す増田に少し押され気味の椎名は後ろに少し後退すると身構える。
「——お前が周りから「
「こ、この……!! 言わせておけば!!」
煽りに煽りまくる増田に怒り奮闘の椎名。ただ、それが本当の事だからか言い返せないでいた。
「え? 何? もしかして怒っちゃったの??(笑) えぇ(笑)ちょっと、本当の事なのに怒るとか(笑)!!」
尚も煽る煽る、煽りまくる増田。
「フ、フンッ! その歳になっても彼女が出来ていない貴方に言われたくはないわね? これでも私、今もかなりモテてるのよ?」
顔を真っ赤にさせながらも平静を保ち自身の髪を薙いでモテてるアピールをする椎名。そんな椎名の表情は勝ち誇っていた。だが、椎名は自身が今口にした言葉が特大の"ブーメラン"だと気付かない。
「す、すげーー!!(笑) 椎名サンモテモテじゃん!! 俺、勝てねぇわ!!(笑)」
増田は体をのけぞらせてわざとオーバーなリアクションを取りながら敢えて椎名をヨイショする。それは無駄な考えをさせない為だ。そんな増田の考えなど知る由もない椎名は。
「当たり前よ!! 貴方みたいな性欲塗れの脳味噌を持つお猿さんと同じにしないで貰えるかしら?」
そんな中、増田は秘伝の宝刀をここで抜く。
「そうだな。椎名は凄いな。ただ、自分がさっき俺に言った言葉は覚えているか? 確か……彼女が出来ていない俺に向けて自分はモテていると自慢してたっけ?」
「そうよ? それが何よ?」
「……それ、完全に自分へのブーメランじゃね?」
「何を言っているの、貴方は……あっ」
ただ、漸く自身の言葉が増田が言う様に特大のブーメランだと気付いた椎名は顔をこれでもかと言う様に真っ赤に染める。
「——!!!!?」
増田に何か言い返したい椎名だが、恥辱と怒りがごちゃ混ぜになり上手く言葉が出ない椎名。今はただ「キッ!」と増田を睨み付けることしかできない。
そんな椎名に増田は勝ち誇る。
「あぁ、それと俺、彼女がいるから。だから行き遅れているのはお前だけ。ドゥーユーアンダスタン?」
だが、椎名は……。
「う、う、嘘よ! それは嘘よ!! 貴方なんかを好きになる人なんかいるわけ無いわ!!……私じゃあるまいし……」
信じられないのか増田の言葉を全否定する。最後の言葉のみ小さくて増田には聞き取れなかったがそんなものは今はどうでも良い。
「それが、本当なんだな。俺には彼女がいる。それも——二人も、なぁ!!」
「ふ、二人!!!!? な、なんてふしだらな!! い、いえ、嘘よ! 妄想だわ!!」
増田の口から自身には二人も彼女がいると聞いた椎名は更に疑い深くなり増田の発言をただの妄想と告げる。
だが、増田は止まらない。
「……ふんっ。なら俺の彼女を紹介しようじゃないか」
そう告げる増田は右手を前に出す。その仕草が何を示すのかわからない椎名はそれでもあり得ないと告げる。
「……冗談は良しなさい。どうせ貴方のことだからアニメ、ゲームのキャラクターがまた"彼女ないしは嫁になりました!!"……とでも言うんでしょ?」
少し落ち着きを取り戻した椎名は冷静に増田に伝える。ただ、既に増田はそんな椎名に取り合わない。
「——来い!!……琴音!!!!」
増田は前に出していた右手を下に振るとそんな事を叫ぶ。
「えっ? 琴音……様?」
子百合澤女子校のお嬢様であり、自身の主人である姫乃の親友の名前を叫ぶ増田を異様な物を見るような視線を送る。だが、増田は勝ち誇る。
そんな状況でどうなるのかと椎名が身構えていると何処からともなく「——ちゃん!!」や「——なと会うなんて、……ろす!!」と、途切れ途切れだが確かに誰かの禍々しい怨念の様な声が聞こえてくる。
その声に少し寒気を覚えた椎名は顔を青ざめると増田の顔を見る。そんな増田は勝ち誇る……ではなく、椎名と同じ様に顔を青ざめていた。
「ちょっ! なんで貴方まで怯えてるのよ!! 貴方が呼んだ?……のでしょ?」
「いや、まぁ、俺が呼んだは呼んだんだが、ノリっていうか冗談っていうか……本当に近くにいるとは思わなくて、さ」
さっきまでの威勢を無くした増田は何処か歯切れの悪い話し方をする。
「貴方が呼んだ人物は……愛沢琴音様なの? そもそも琴音様は貴方の知り合いなの?」
増田に質問をする椎名。
「あぁ、うん。知り合い。というか幼馴染」
「幼馴染!? 純一に私以外の幼馴染がいたの!?!」
「……ツッコミどころ、そこ?」
椎名の過剰反応につい聞いてしまう増田。
というか俺と椎名って幼馴染なん?
そんな事を増田が考えていると「純〜ちゃ〜ん〜!!!!」という恐ろしい…‥悪魔の様な。あっ、違う。怖い声が聞こえてくる(オブラートとは?)。
(チィっ!! もう直ぐそこにいる!!)
怯えた増田は自身が呼び寄せた人物が来るのに身構える。
「純一!! 琴音様が貴方の幼馴染なんて聞いていないわよ!! それに貴方のか、か、彼女ですって!!? 一体何をやったのよ!!」
「待て! 今はこんな事をしている場合ではない!! それよりも俺から一刻も早く離れるんだ!!」
椎名に首根っこを掴まれて問答無用で質問をされている増田はなんとか自身から離れさせようとする。だが……。
ち、力、強ぇーーー!! 全然びくともしないんだけど!!?
「その抵抗の仕方はやっぱり何か疚しい事があるからでしょ!! 白状しなさい!!」
「いや、だから待てと……」
疚しいかは知らんが、隠し事はある。それに今近づいてきている琴音が俺と他の女性との接触を嫌っているの節があるが。今何かを言っても信じてもらえるわけ無いし……。
増田は色々と考えていたが、今回ばかりは無理だと悟ったのか「フッ」と笑う。そのまま無駄な抵抗をすることなく椎名に身を任せる。いきなり増田の抵抗が無くなり増田が自分の体の方に倒れてくる事が察知できなかった椎名は増田を抱き締める形になってしまう。
そんな中、椎名は。
(ち、近い! 近い近い近い!! 純一の顔がこんな近くにィィ!!!?)
絶賛、テンパっていた。男に、それも増田が近くにいるという事もあり椎名は嬉しい気持ちや、恥ずかしい気持ちがごちゃ混ぜになり気を失いそうになっていた。だが、こんな幸せな空間で意識を失うわけにはいかなかった椎名は何とか耐える。
「ちょっ!!? 純一!! 嬉しい、違う!! 離れなさい! やだ!! 違う!!? この、変態!!?」
耐えていたが、思っていた以上に心は弱かったのか自分から増田を離せば良いのに関わらず増田を強く抱きしめながら何かを叫んでいた。
「……椎名、紹介するよ。こちらが俺の特級過……彼女の——」
おかしくなってしまった椎名を無視した増田は椎名に何かを告げる。ただ、一旦言葉を止めたと思うと。
「——私が純ちゃんの恋人だよ!! 泥棒猫は貴方なの? 椎名ちゃん??」
増田の言葉を継ぐように既に近くにいた琴音が椎名に話しかける。そんな琴音は顔は笑っているが目だけが笑っていなかった。頰まで上げている右手に果物ナイフを持っているのも忘れてはいけない。
そんな見たことのないおぞましい雰囲気を醸し出す琴音を見た椎名は。
「——純一。貴方の彼女さん、何か怖いんだけど? 気のせいかしら?」
頰を引き攣せたながらも増田に告げる椎名。話を振られた増田は増田でこちらも同じく頰を痙攣らせていた。
「い、いや、多分。というか気のせいじゃない。俺の彼女って可愛いけど。なんか、俺が他の女性と親しくしていると襲ってくるらしくて、さ。はは、ははは、まいったなぁ!……はぁ」
乾いた笑いをするとため息を吐く。
「……それって彼女って言えるの?」
「…… わかんね。確かなのは琴音ちゃんは俺から離れないし、俺も俺の周りも危害を加える可愛らしい少女ということだな」
「それもう、彼女というか呪いの類か何かよ」
「……間違いねえや」
増田と椎名は抱きしめ合いながらも二人して近くにいる琴音を見て身体を震わしていた。そんな二人をニコニコと満面な笑みで見る怨念。あっ、違う。琴音。
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