第40話 運命の亀裂




「……はぁ、わかりました。あなたが増田さんを信頼しているのは十分。ただ、あなたは増田さんのことを好きなのですか?」


 何を言ってもどうせ意味がないと思った一ノ瀬は逆に「増田を信仰している」という本庄にそんなことを好奇心で聞いてみる。


「……僕は純一さんのことを好きだ。ただそれは友人とかの好意から来るものであって異性としての意味はないよ。僕と純一さんは同性だしね」


 一ノ瀬の質問に応える本庄。頰を少し赤らめた本庄は恥ずかしそうに頰を掻いていた。


「……そうですか。なら安心しました」


 一ノ瀬は言葉の通りホッとしていた。でも一ノ瀬はその後の本庄の一言を聞き逃さない。本庄は小声ながらも「もしも僕がだったらなぁ。悠里が羨ましいよ」そんなことを口にしていた。


「……」


(——やはり危険ですね。本人は否定してますが増田さんへのは少なからずあるようです。悠里という人物のことが誰のことを示しているのかは存じませんが)


 今度は本庄に気付かれないように警戒を忘れずに内心で思う一ノ瀬。


「まぁ、これで大体は僕らの心の内は打ち明けただろう。後は本題の「友達作り」だけど……さっきも少し言ったけど一ノ瀬さんは普通に友人、いるよね?」

「……いないと言ったら嘘になりますね。……いえ、はい。います。正直に言うと普通に人と話せますし友人も何人かいます。このことを今から増田さんに言ったら嘘つき扱いされて嫌われてしまう可能性が高いので打ち明けないですが」


 真顔で暴露する一ノ瀬を見た本庄は「だよね〜。し」と、苦笑いを浮かべていた。


「……そうだね。けど、純一さんに言ってしまったものはしょうがない。その為に僕も呼ばれた訳だし。最後まで嘘を……演技を突き通すしかないね」

「はい。理解が早い……には非常に助かります」

「はは、初めて名前を呼んでもらえたね」


 自分の名前を初めて呼ばれたことに本庄は笑みを溢す。


「……当然です。ある意味本庄君には私の弱味を握られている訳ですから。今更敵対したところで。なので仮初でも仲良くしてあげますよ」

「ははは、一ノ瀬さんらしい。それに初めも言ったが僕は告げ口をする気は更々ないよ」

「どうだか」


 一ノ瀬のツンケンする姿を見て本庄は笑っていた。ただそんな一ノ瀬に右手を差し出す。


「何はともあれ僕達の利害は一致する。一ノ瀬さんの言う通り仮初塗れな関係かもしれないけど、純一さんには気付かれないように仲良くしようじゃないか」

「わかってますよ」


 そう呟くと一ノ瀬は不承不承で差し出された本庄の右手を自分の左手で握り返す。


 二人は握手をする。


 そのあと二人は仲良くなれたという体でリビングで寛いでいた増田と合流した。





 増田は知らない。本庄努が自分に過剰なまでの信仰心を持っていることを。心に潜める恋心を持っていることを。


 増田は知らない。一ノ瀬祈が増田に一目惚れをしていたことを。師弟という関係でも良いから「友達作り」という材料を使い増田に近付こうとしてたことを。



 それに増田は根本的から間違っていた。いや、認識違いと言って良いだろう。


 この世界は『ルサイヤの雫』というゲームに似ている世界なのかもしれない。ただそれはだけに過ぎない。『ルサイヤの雫』というゲームを構成した世界なのは間違いない。が、シナリオ通りに進んでいたのはたまたまだ。

 この世界はなんの影響もなく回っている。それは人もそうだ。生きて自分自身で考えて行動している。そこに一貫性などない。

 なので増田が考えている通りの『ルサイヤの雫』というゲームの知識は関係なかった。


 それでも何も知らない増田は今もシナリオ通りにことが進んでいると思い続けている。




 運命とは人間の意志にかかわらず、身にめぐって来る吉凶禍福。めぐり合わせ。転じて単に、将来なのだから。



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