第2話 転生?



 

 銀色の綺麗な髪をストレートに伸ばした女性?女子生徒?が何かを訴える様に厳しい顔で睨みつける。腕を組む姿は迫力がある。ただ、その美少女?の言葉に耳を傾けている場合ではない。これは非常事態だ。


「──ッ」


(──デッ!!? 嘘だろ!? こんなにでかい女性の象徴であるおっぱ……があるのか!? いや、違う! そうじゃない!!)


 目の前の少女が腕を組んだことによりできたおっぱ……谷間がどうしても目に入ってきてしまい今の現状を考える前にそんな邪なことを考えてしまう。


 それは男だと仕方がないことなのかもしれない。生前見たことのない大きさのおっぱ……が目の前にあればどんな男性だろうと一度、いや二度いいや──ガン見をしてしまうのは世の定め。それもわかっていないのか腕を組んだことによりお胸様が服の上から押し上げられ、えらいことになっていた。


 眼福、目の保養──の象徴を理性でをなんとか拒み、今置かれている状況を考える。


(──増田純一、49歳。今は変なことを考えている場合ではない。今の現状を確認するのが優先だ。そうだろ? OK?)


 内心で一人芝居を行い、小さく深呼吸をして周りを少し、見回す。




 見てわかったこと。それは、自分は今さっきまでいたオフィスではなく学校?の校長室らしき場所に"立たされて"いるということだ。ただおかしな話だ。さっき自分は必ず自動販売機に向けて倒れたはずだったのに今は"自身の足"で立っている。それもさっきまでの疲労感は消え失せていた。


(まぁ、わからないことは後で考えれば良いだろう。次に考えるのは目の前の少女について)


 今も──「こんな変質者が我が校にいるのなんて恥ですわ! 即刻クビに!!」そんなことを誰かに話しかけていた。


 なので、少女が顔を向けて話しかけている方角を自分も首を回し、見てみる──


「……」


 ニコニコと目を細め笑みを浮かべる目の前の少女と同じ"銀色の髪"をハーフアップにしたゆったりとした紺色のスーツ姿の優しそうなグラマラスな女性がいた。その女性はよく理事長や生徒会長が座るような大きな机──両袖机に腰をかけている。

 そんな女性を見て己が初めに感じたのは「──デッ!?」まぁ、これはもう良いだろう。その女性の胸も目の前の少女と遜色ないほどの大きさの胸の持ち主だったのだ。


 ただ、それ以外にも不可解なものが目に入る。それは、その女性が座る机の上にポツンと「」という三角形のプレートが置いてあること。それを見てある事実に辿り着く。よく見てみると最初話しかけてきた少女が着ている洋服は──学生が着るような制服だということに。


(此処は──学校?)


 ただ、自分が何故学校にいるのかなど全くもってわからないし、理解ができない。それに、軽いパニックを起こしているため「考える」という行為に厳しいものがあった。


「──"お母様"聞いているのですか!! 早急にこの男を解雇へと話しているのです!!!」


 色々と考えていた時、少女の声が響く。我慢の限界が来たのか先ほどよりも大きな声を上げ、理事長らしき人に向かって──"お母様"そう、告げていた。


 言われた理事長?は。


「もう、。大きな声を殿方の前で上げてはいけませんよ? 淑女なのにはしたない行為は"メッ"! ですよ?」


 側から見たら到底怒っているとは思えない態度で少女に注意をした。言われた少女は──「お母様は甘いのですよ! この男は女子更衣室を覗いた疑いがあるのですよ!?」と、増田を指差して尚も少しヒステリックに声を荒らげる。


 そんな少女に理事長?は「あらあら、まあまあ、困ったわね」と全然困ってなさそうな表情を浮かべらながら増田を──少し嗜虐的な視線を向けながら見てきた。


「──ッ!?」


 その視線に少し寒気を感じた。それが何か分からないが、なんとか声を出さずに息を飲むだけで留められた。理事長?の視線を受け恐怖から覚醒していなかった頭が通常通り動き出すとあることを──思い出す。


 そう、が増田純一の脳内にあることを。


「っ」


(──ぁ、思い、出した。というより、知っていた、のか?……わからない。けど、今の状況も目の前にいる達についても全部、しっかりと思い出した)


 思考回路が正常に動きだしたことを確認し、目の前の"姫乃"と呼ばれていた少女とその少女が"お母様"と呼んでいた女性を今一度視姦──と間違い。視認してみると少女の方は『ルサイヤの雫』の正ヒロインである「東堂姫乃とうどうひめの」。

 そこからわかる通り"お母様"と呼ばれていた女性は東堂姫乃」の母親であり、小百合澤こゆりさわ女子校の理事長である──「東堂麗奈とうどうれな」だろう。


 この二人はどちらとも『ルサイヤの雫』の主人公である──「本庄努ほんじょうつとむ」の攻略対象だ。


 ただそれがわかったとして、今の状況は芳しくない。少女──「東堂姫乃」に言われのない罪を告げられている状態。一応記憶を確認したが自分が故意に女子更衣室を覗いた事など一度もないと記憶にある。だとしても証拠を提示しない限りは己の身の潔白は証明されない。


(はぁ、『ルサイヤの雫』の世界に来れて嬉しいが、嬉しい一方今の状況から察するに神様は俺の味方ではないのかもな)


 今すぐに盛大にため息を吐きたい思いで一杯になる。そんな増田を他所に東堂親子は今も何かを言い合っていた。そんな中、自分もただ指を加えて待っているのは得策じゃないだろう。なので行動を起こす事にする。


「──あのぉ〜、? 私の意見を聞いて貰っても宜しいでしょうか?」


 増田は話に割り込む。その時に理事長の顔を見る事に神経を集中させる。決して胸などは見てはならない。


「──貴方は黙っていなさい! ややこしくなるから今は──」

「わかりました。のお話、お聴きしましょう」

「──お母様!?」


 姫乃が増田の話を止めにかかるも当の理事長から許可され、娘の姫乃は悲鳴を上げる。


 自分の記憶が正しいことも証明できた。自分は"元"の世界では「増田純一」だった。ただ、こちらの世界でも同姓同名とは限らない。それに──『ルサイヤの雫』で「増田純一」なるキャラクターは"サブキャラクター"としても出てこないのだから。記憶通りでは自分は"こちら"の世界でも「増田純一」となっていた。


 理事長と交わした会話で自分の名前がこちらでも「増田純一」ということがわかる。そのことが何故だかはわからないがこちらもあとで調べる必要があるようだ。


「──ありがとうございます。私は女子更衣室の覗きをした覚えはありません」

「ふん。犯人が使う逃げの常套句ね。なら、証拠を見せなさい!!」


 姫乃は増田の言葉を即座に否定し、横暴な態度をとる。ただ、そんなことを言われた増田本人は口角を少し上げてしまう。それは──『ルサイヤの雫』と同じで「東堂姫乃」という少女は気心が知れた人でないとツンツンとした横暴な態度を取るとのだから。それも男なら尚更だ。


 だから今先決なのは自分の罪を認めるでも解消させるのでもなく、姫乃を納得させることだ。それで、少しでも信頼してもらえれば上出来だろう。


 なので──。


「──申し訳ありません。私も今直ぐに証拠を提示する事はできません。ただ、5日。いや、3日程猶予を頂けませんか? その間に納得できるものを提示しましょう。私が自身の無実の証明を提示できない様でしたらクビでも警察に突き出してもらっても構いません。私は無実だと必ず証明してみせますので」


 強気に出る。


「……いいでしょう。貴方を信用する訳ではありませんが、そこまで啖呵を切るのなら、無実の証明をしてみなさい」


 増田の勢いに当てられてか姫乃もそんな言葉を返してくる。


(……のった)


 内心しめしめと思う。姫乃を自分のペースに乗せられたことにより今すぐに仕事を首にされて警察に突き出される事は回避できた。


「──わかりました。姫乃ちゃんも了承してくれたみたいですし、私は増田さんと姫乃ちゃんのお二人に任せます。増田さん、下がっていいですよ?」

「ありがとうございます」


 理事長にも許可を頂き、お礼と共に頭を下げ理事長室を後にする。その時に姫乃が自分の事を睨んでいたが……今は余り気にしないことにする。

 

「──はぁ、怖かった。今日はもう帰ろう」


 理事長室から出た時、ため息を盛大に吐き、今日は自分の家?に帰ることにした。




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