第3話 用務員とは?
◆
あの後なんとか記憶を辿り自分の家である「用務員用寮」まで来ていた。
この高校で仕事を始めてから住んでいた「用務員用寮」は普通のアパートと遜色ない見た目をしていた。二階建てで部屋は8箇所ある。そんなアパートを一部屋だけ自分が借りて使わせて貰っている状況だという。……記憶では。
なぜか「用務員用寮」は校内の中に建てられており、先程まで増田がいた理事長室まで徒歩5分程の位置に寮はある。もしかしたら増田は警備員も兼ねての為の待遇なのかもしれない……と、勘繰ってしまう。だが記憶では警備なんてしたことがないと伝えてくるのでなお、わからない。
「──記憶通りに来たは良いけど、用務員だけの寮ってスゲェな。お金もかからないみたいだし、お金持ち万歳〜。寮自体が校内にあるのは、借りている側だから何も言わんよ帰宅も楽だし。朝も……寝坊以外では遅れることないから優良物件だな」
そう一人で呟きながらズボンのポケットに入っていた寮の鍵を取り出し自分の部屋である「101」号室のドアに鍵を差し込む。
差し込み回すと「ガチャリ」。鍵が開いた軽快な音が鳴る。
まぁ、鳴らなくちゃ、部屋に入れないわけだから当たり前なんだけどな。
部屋の中を見渡し。
「──うん、知ってた。部屋がなぜか3L DKもあってとても一人暮らしとは思えないほど広いのは知っていた。だって俺の記憶がそう言うんだもん」
表面上驚きたい。だが、内心ではというか記憶では既に日常茶飯事な光景だったためか"驚けない"という訳が分からない状態になっていた。ただ、増田も長年ブラック企業で働いてきた猛者。直ぐに適応する。
「まぁ、住めれば良いよ。住めば都とはよく言ったものだし。今はやる事を考えることをやらないと、な」
早速部屋に入り、戸締りをしっかりと済ませてから着ていた作業着の様な灰色の上着を脱ぎ、ラフな格好になるとリビング兼自身の部屋として使っている一室にて座布団に座る。座り、目を瞑り今までの事を思い返す。
◇
「──まず。"この世界"は俺が思う通りの『ルサイヤの雫』の世界ということが……一つ。俺がこの世界に来た「増田純一」ということが一つ。やるべき事は今の俺には特にないが、何か挙げるなら退職の危機を避けるということが一つ、だな。そして、なによりも俺が──」
そこまで考え、苦い顔を作る。
「──俺が、どの、キャラクターにもいない用務員だってことが、一つ……って、なるかァァァっ!!!!?」
頭を抱えて叫ぶ。
「用務員って何よ? いや、どんな職業か知っているけどさ。主要キャラの主人公の「本庄努」やライバルキャラの「
言いたいこと全て叫び散らかす。少しして冷静になり、神はいなければ誰もその答えに応えてくれる人物などいない。
「えっ何? これから俺は──「用務員ですが、何か?」って言えば良いわけ? いや、クソだせえだろ……」
そう、一人ツッコミをした増田は何を思ったのか洗面所に向かう。ある事に気づいたのだ。自分がもし、イケメンならこの世界の女性を攻略できるのでは?と。
ただ──
「──うーん、無理。地球での俺よりは若いし、体型も普通だけど。何か顔が普通すぎる。マジでパッとしないんだよなぁ。漫画やアニメで例えるなら同じ顔が使われるキャラクターぐらいぱっとしないんだけど」
洗面所の鏡で自身の顔や体型を確認した増田は一瞬で現実に引き戻されボヤき。夢も希望も潰えたことを知り、とぼとぼと
「……ここでクヨクヨしていてもな。今はこれからのことと、俺の言われようのない罪──"女子更衣室の覗き"とやらを解決することが先決。と言っても手がかりは無いしあの場の雰囲気で3日で証拠を見つけるとか言ったけど……少しホラを吐きすぎたか」
後悔からため息一つ。
先程、姫乃相手に啖呵を切ったもの正直に言うとあの場の勢いで少しでも早く逃げ出すための口実──
それでも今はこれからを考えるしかない。
「そうだな。まずは──」
──── ──── ──── ────
・覗きの犯人を見つけて永住(用務員用寮)
・主人公とヒロイン達には出来るだけ近寄らないこと(東堂親子は仕方ないとしても他のキャラにはマジで近寄らない。その理由は自分──「増田純一」が関わることで元々あった『ルサイヤの雫』のストーリーがどう変わるかわからないためだ。ハッピーエンドならまだしもバットエンドなんかになった時には逆の意味で泣くわ)
・主人公とヒロイン達と万が一関わりを持ってしまったらなんとか策を考える
・元の世界に戻りたいなどはないからこれはどうでもいい
・出来たら可愛いお嫁さんを作ること
──── ──── ──── ────
「──こんな感じか。直ぐ様これ以上何かを考えるのは無理だし行動は起こせそうにないかなぁ。今日はご飯を食べたら寝るか」
そう思って帰り道にコンビニで買っておいた食材が入った袋をキッチンに運ぶと自分の好きな料理、青椒肉絲を作り舌鼓をうつ。
悲しいことに元々何年間も独り身の一人暮らしのため家事は得意。家事を終え、風呂に入り、パジャマに着替え、寝室で寝る準備を整えて。
「──用務員の作業って記憶を辿ってみたら結構幅広いんだな。便利屋とかそういった類の役職、かもな。俺一人じゃなくて他の用務員も雇えば良いのに。覗きの件が解決したら理事長に直談判してみるかな」
布団の中に潜り込みそんなことを考え瞼を閉じる。気付いたら寝ていた。
時刻は22時20分。寝るには少し早い時間帯だった。ただ、今日は色々とあって自分が思っている以上に疲れていたのかもしれない。
ただ、増田は忘れていた。記憶通りでは自分の知り合いが増田の家にある話をしに"今日"訪問するということを。
ガチャリ
戸締りしたはずの家の鍵が開く音がした。深い眠りについている増田は気付かない。
◇
チュンチュンなどと雀の鳴き声は聴こえてこない。その代わりカーテンの空いた隙間から朝日が差し込む。その朝日が丁度増田の顔を照らして目覚めを誘う。
「うぅっ、うっ、ぅぅぅ……」
朝日が眩しいのかまだ起きたくないのか布団の中でモゾモゾと動く増田。
増田は布団の中で寝返りを打ち朝日から逃げようとしたが何か違和感を感じた。自分の──股間のあたりにナニかがいるような感じがするのだ。もう一度言う、股間の近くにナニかがいるように感じる。
「──ヒュッ」
今も自分の股間あたりでナニかが擦れる感じがして変な声をあげてしまう。そんな違和感を覚え、完全に覚醒した。
な、なんだ? 俺の股間にナニか柔らかいものが当たった気がする。それに、朝のアレかは知らないがその柔らかいものが俺の息子を刺激したことによりまぁ、アレした。
要は、男性特有の生理現象。自分はもう若くない。なので朝からアレなんてなっているわけにはいかなかった。増田はテントを作っている布団を捲り自分の息子のご機嫌を取るためにご尊顔を確認しようと捲ると──
金髪の女の子がいた。
「……」
もう一度言う。"金髪の女の子"がいた。
大切なことだから二回言う。みんなも大事なことは二回言ったほうがいいと思う。忘れないからね、多分。
「……」
無言でゆっくりと布団を戻す。
はぁ、疲れかな。女の子。それもパツキンの女の子が俺の股間に顔を埋めていたような気がしたが……うん。気のせい。夢、幻覚。もしくは……妖精だな。
勝手な解釈をして。
俺は知っているぞ。自分の年齢は28歳(記憶通りでは)。そんな自分はなんと30歳を超えればもれなく「魔法使い」に"ジョブチェンジ"できる特典がある。
以前の俺にはその気配はなかった。が、今回の俺?にはその兆しがあるみたいだな。だってまだ……30歳にも満たしていないのに妖精が見えているのだから。
ただ、妖精は怖いし、触れたら何をされるかわからない。だから気づかれないうちにゆっくりと布団から抜け出そうとした。
それに少し懸念点もあった。もし、もしもの話。この妖精が本物の女性なら「覗き」とか関係なく「自分がこの女性を家に連れ込んだ(記憶にないが)」という事になり豚箱行きだから。
だから俺は慎重に事を済ます。いや、別に変な事はしてはいないんだがな。
あと少しで「抜け出せる!」となった時、その妖精の目がぱっちりと開く。綺麗な瞳とこちらの淀んだ瞳が重なり。
あら可愛い。
いや、そんなこと言ってる場合じゃねえよ。どうする?
増田が思考を停止している時──
「──おはよう純ちゃん。今日も元気だね!!」
股間を自分の手でズボン越しから摩りながら俺の股間に目線を合わせて金髪の女の子は朝の挨拶を告げる。
その様子を頰を痙攣らせて上から見下ろす俺。ただ、一言言わせて頂けるならこう言うだろう。
それ俺違う。俺の──「
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