【用務員 修正かけてます💦】エロゲの世界に紛れ込んだ凡人。用務員となり奮闘する〜エロゲ?フラグ?ヒロイン?……知らん!!

加糖のぶ

用務員は斯く語りて

第1話 コーヒーは一日一杯まで


  


 灯の乏しい室内。


 人っけのない空間。


 そんな虚しい空間で「カタッ、カタカタカタカタ」とパソコンのキーボードを叩く音が聴こえてくる。その他には外で降っている雨が社内の窓ガラスを叩く「ザァー、ザァー」という雨風の音だけが聴こえてくる。


 現在の時間帯は3時半。ただ勘違いしてはいけない今の時刻は"夜中"の3時半。


 そんな幽霊が出るかもしれない丑三つ時。室内に誰もいない様に思えたが先程から聴こえてくるパソコンのキーボードを叩く音から誰かがまだ、業務をしていることがわかる。



「──あぁー、明日中にこの案件の資料作るとか無理だろ。……てかもう今日じゃね?」


 顔は普通、髪はボサボサ、無精髭は自由に伸ばしっぱなし。目元には視認出来るほどの真っ黒な隈ができた男性が一人、ブツブツとそんなことを呟きながらデスクに座っていた。


 このパッとしない見た目をした男の名前は増田純一ますだじゅんいち(49歳)。


 パソコンと睨めっこしていたが、キーボードを叩くのをやめ──頭を掻きむしる。


「──無理! 無理無理無理無理!!!! 絶対に、一人じゃ、無理だろ!!? 今日の"朝"の7時までに終わる訳がねぇだろ!! 今、何時だと思ってやがる!──"朝"の3時じゃねえか、チキショー!!!!」


 画面の右下に表示されている時間を確認し、そんなことを一人叫び天を仰ぐかの様に顔を上げて両手を万歳する。そのまま座っていた椅子の背もたれに深く腰掛ける。


「──とか言っていても終わるもんも終わらんし、期限までに終わらせないと上に怒られるだけだし、はぁ。本当、せめて誰か残ってくれても良いじゃねえか。なーにが"家族がいるから〜""彼女が待っているから〜"──だ! カス共が!!? 仕事に私情を持ち込むなや! オォン!?」


 一人、キレるもそれは仕方がないこと。増田以外の社員は"嘘か本当"か定かではないが何か用事があるようで先に退勤してしまい、誰もいない。

 先程退勤した自分の同僚の谷本たにもとは──「まっすー、すまん! 俺の父親が倒れた!! だから、あと頼むや!!」そんなことを宣うとこちらの話を聴きもせずに逃げるように出社をしてしまった。


「谷本のやつ、今日会ったら覚えとけよ。お前に罪をなすりつけてやる……はは。お前も同罪だ。咎人となれ」


 これから自分の私怨行動にて不幸になる同僚の姿を思い浮かべてほくそ笑む。ただその顔には既に覇気はなく。

 

 増田にも思うことはある。家族もいない、恋人もいない。大事な用事も大してない──といった「」だらけの"中途採用"のオッサンだからか、会社や周りに良いように使われているのでは、と。

 それにもうわかっている。今、働いている会社は中途で入り5年目。そんな会社だが……完全なる"ブラック企業"と呼ばれる会社だった。サビ残は当たり前、月の休みは1日〜3日があれば良い方、と。今日までの連勤は20日間を超える。こんな会社によく5年間も働けたと自分を自分で褒めたい気分だ。


 この状況を一言で例えるなら、デスマ。


「デスマ」とは──「デスマーチ」の略称。要するに過酷な労働状況という事だ。


「ハァ、本当にこの会社はクソと付くほどのクソ会社だよな。辞めたいけど今の俺の歳じゃなぁー。ハァ……」


 会社を辞めたいと何度も思った。だが既に歳は50歳に差し掛かっている状態。今の会社を辞めてしまえば次の職につけるのか心配で簡単に踏み込めない。会社を辞めるというリスクが伴いどうしても踏ん切りがつかない。


 ただ、そんな家族も恋人もいないクソ会社勤務の増田には唯一の心の癒しがあった。


「──今日の業務が終われば、明日一日中休みだから……『ルサイヤの雫』を久々にプレイできる」


 そんなことをボソボソと呟く。


 『ルサイヤの雫』とはなにか?と聞かれれば── 『ルサイヤの雫』と呼ばれる華の乙女であるお嬢様が通う女子校を舞台としたエロ……「泣きゲー」と"紳士達"から呼ばれる「神ゲー」だった。


 まぁ、よく「ギャルゲー」とか呼ばれる「シュミレーションゲーム」のこと。


 ヒロインをただ攻略していくゲームかと思われがちだがストーリーよし、声優よし、作画よし、エ……そんでもって……泣けると最高のゲームだ。


 そんな最高とも呼べるゲームを心の支えにして増田は今日も己を鼓舞して頑張る。


「──さて、終わりが見えない仕事内容だけどまぁ、なんとかするか。早く帰ってプレイもしたいし。……活を入れる、リセットする為に缶コーヒーでも買いに行くかなぁ」


 ここ最近、独り言がやけに激しくなっていると心の中で感じながら、机にある缶コーヒーの空き缶を軽く持ち上げ、再度のカフェイン摂取を行うべく立ち上がり自販機があるオフィスまで歩いていく。


「……缶コーヒー如きが130円とか、えらく高くなったもんだ。自販機もおいそれと手が届きにくくなった世の中だこと」


 自販機の前まで歩きながら愚痴をこぼし、片手に持っていた空き缶をゴミ箱に。ズボンのポケットに入れているお財布を取ろうとした。その時、突然酷い目眩を覚え。


「──ッ。おっと、働き、すぎか?」


 そう呟かながらも片手で頭の痛みを和らげるように抑える。なんとか自身の身体を倒れまいと踏みとどまり……でも、疲れからか足腰がまともに動かず。


「──やば、まず、い!?」


 そのまま、増田は抵抗ができないまま重力に従うように自動販売機に向かって倒れていく。


 その時増田は思った。「あぁ、これ、ダメなやつだ」──と。そう感じた瞬間、そのまま意識を手放す。



 ・

 ・

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 自動販売機に倒れた増田。いきなり視界を差す明かりが目を刺激した。さっきまでは深夜だった為、目が慣れていないがそれでもなんとか目を開けると共に「やば! もう、朝日が出たのか!?」と焦ったその時。


「貴方が"女子更衣室"を覗いていたのは分かっているのですわ!! 早く白状しなさい!!」


 聞き覚えの──女性の甲高い声が聴こえてきた


 そちらに顔を向けると──




 


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