第14話 修羅場ナウ!!
「死」とは何か?
死とは、 命がなくなること。生命がなくなること。生命が存在しない状態。 機能を果たせないこと、役に立てないこと、能力を行使できない状態。 ただし、何をもって人の死とするのか、その判定や定義は文化、時代、分野などにより様々である。
そんな「死」と言う言葉が久々と肌で感じられる中、増田はなんとか今の状況からの脱出を試みるが……。
「……」
む、無理だ。この状況じゃあどう転んでも無理に等しい。嘘だろ、俺、ここで終わるのかよ……。
目の前で人でも殺しそうな圧を掛けてくる二人を見て増田はどうにかして「生きたい」と、切実に思うがそれを運命は許さない。
完全に諦めてしまった増田はこのままただ死ぬぐらいなら最後ぐらいはハッチャケようと思った。
そうだ、そうだな。この世界は「ゲーム」の中か本当の現実なのかはわからないが死んだらどっち道終わりだ。なら、死ぬなら。それに、最後ぐらい……。
そう思った増田は──
「……フッ」
不適な笑みを顔に貼り付けると土下座の態勢を辞め、ソファーから律儀に降りると立ち上がる。
『……』
琴音と若菜の二人はその増田の行動がわからず動きを止めてしまう。ただ、そのまま増田が逃走を企てるかと思い退路を経とうとした琴音だったが。
「……フッ」
逃走をするでもなく、不遜に笑うともう一度ソファーに座った。
その行動が分からなく、本当の意味で愛沢親子は動きを止めてしまう。
そんな二人を見た増田は二人に声をかける。
「まぁ、二人も立っていないで座りなよ」
はたかも此処が自分の家だと言う様にリラックスをしている増田は告げる。今の増田には先程までの恐怖感が微塵も感じられない。
『……』
増田の意図がわからない二人は顔を見合わせると一応、増田の対面のソファーに座る。二人がソファーに座ったことを確認すると増田は手を組み、口を開く。
「──俺は、琴音ちゃんも若菜さんも好きなのは本当のことだ。ただ、これは決して二股、不倫などではない。愛あっての行動に過ぎない。優柔不断なのは百も承知だ。でも、そんな俺の事を好きになった二人にはどうかわかって欲しい」
増田は子供に言い聞かせる様に話す。
ただ、二人も黙っているわけではなく。
「そんなの納得いかないよ!! 私は私一人を純ちゃんに愛して欲しいの!!」
「私もよ! 琴音ちゃんには悪いけど純一君には私が相応しいわ!!!」
そう話した二人は増田ではなく、二人で罵り合う。
「何よ、お母さんはお父さんがいたじゃない!! それに私が純ちゃんのことを好きなのは知っていたでしょ!!」
「知っていたわよ! だからって、みすみす譲るのは親も子も関係ないわ! それに、純一君を先に好きになったのは私なんだから!!!」
「歳を考えなよ!! 歳を!!!」
「なっ!? わ、私はこれでもまだ、若いわよ! それに、女子高生に手を出したら純一君が捕まってしまうわ!!!」
増田を譲る気はさらさらない
歳の話題で狼狽る
そんな若菜に琴音は畳み掛ける。
「未亡人のお母さんに手を出したって世間の目は厳しいよ!!!」
「まぁ! 聞き分けのない貴女なんて嫌いよ!!!」
「私だってお母さんなんて嫌いだよ!!」
二人の罵り合いはレッドヒートしていく。
そんな中、増田は未だに不適な笑みを崩さないまま自ら二人の会話に参戦する。
「まぁ、少し落ち着け二人とも」
だが──
「純ちゃんは黙っていて!!!」
「純一君は黙っていなさい!!!」
二人は増田の方に顔を向けると一喝する。
でも、それでも増田は止まらないし辞めない。
「琴音! 若菜!──俺の話を、聴け!!!」
『!!?!!?』
増田は二人に向けて叫ぶ。普段では絶対にやらないが今は違う。それに普通のラブコメのキャラクターだったらヒロインに萎縮してしまい口が開られなくなるが……増田は違う。
こちとら主人公ではなく、用務員だからな!
謎のプライド?意志?を持つ増田。
二人は呼び捨てで呼ばれたのと今までにこれほどまでに増田が声を荒らげたことが無かったためか、逆に身を縮こませると一旦動きを言い合いを辞める。そのまま増田の顔を恐る恐るみる。
見られた増田は強張られせていた表情を戻し、二人にいつもの表情を向ける。
「……いきなり怒鳴ってごめん。ただ、これだけはわかって欲しい。俺のせいで仲が良かった二人が今みたいに啀み合い喧嘩をするぐらいなら俺は身を引くよ。俺がいることで二人が不仲になるのは俺も、望まない」
悲しそうな表情を作る増田は二人に伝える。すると二人は面白いぐらいに狼狽る。さっきまでの威勢はどうしたのか、と。
「ち、違うよ!! 私とお母さんは仲良しだよ!! 本当は嫌ってなんていないの!! だから、何処かに行かないで、純ちゃん!!!」
自分が座っていたソファーから転がり落ちる様に増田の元まで来ると増田の洋服を掴み泣きながら縋る琴音。
「わ、私もよ!! 感情的になり過ぎたの。琴音ちゃんを、娘のことを嫌いになるわけがないじゃない!! だからお願いよ、そんなこと言わないで純一君!!!」
ソファーから立ち上がった若菜は自身が口にした言葉を今になって理解するとその場であたふたとする。
そんな二人を見た増田は俯き、両手で顔を覆う。
「……俺は、二人のことを愛している。だけど、それを二人は許してくれず、こうして喧嘩をしていることが現実だ。だから、俺は……」
辛そうな声で話す増田。
そんな増田の姿を見た二人は
「あ、あの、その」
「ど、ど、どうしましょう!!?」
完全にテンパっていた。今の二人からは殺意など一欠片も感じられない。
そんな二人の姿を俯きながら顔を手で覆いながら見ていた増田は──気付かれないようにほくそ笑む。
だが油断はしない増田。
「ただ、ただ、だ。もし二人が許してくれるなら俺達三人でまた昔のように過ごさないか? 結婚とかは琴音ちゃんや若菜さんの言う通り未成年だったり、ご近所の目があるから直ぐにとは行かないけどその内考えれば良い。俺達は始めから家族のようなものだろ? だから、また一緒に幸せに過ごそう!」
そんな事を話しながらも近くにいた琴音を抱きしめて若菜の側に寄る増田は若菜も琴音と同様に抱きしめる。
増田の話を聞き、抱きしめられた二人は……。
「純ちゃん……」
「純一君、私達のことをそこまで思ってくれてたのね」
完全に増田の術中に嵌り、落ちていた。
そんな二人に向けて。
「当たり前だろ?二人の事は自分のことのようにいつも思ってるよ」
そう伝える。だがそれは……嘘だ。
本当は──
チョロ。
増田は内心でそう思う。
増田が今、行った事は簡単な事だ。こちらの話を強引に聞かせて自分のペースに引き込ませる。ただ、これだけだ。
今、行った行動は琴音と若菜が増田のことを本当に好きであって離れたくないと思っていないと成功しないモノだったが、今までの自分に対する二人の態度を見てか、大胆な行動を取った。
それが功を成したため何も言うまい。
ただ、増田の立ち位置からして贅沢を言わせて頂けるなら二人は自分のことを諦めてくれて何も起きず、終わることだった。
まぁ、結婚とかも「その内」とか言って流しといたから直ぐには話に上がらないだろう。それに今、二人が俺の事を本当に好きでもなんとかして本来の想い人であるこの『ルサイヤの雫』の主人公である「本庄努」に託せば良いだけだからな。
そんなことを考えていたクズ。あっ、違う、増田。
まぁ、本来なら「愛沢琴音」は「本庄努」の幼馴染で好きになるはずな訳だから増田の優しさ(笑)なのかもしれない。「愛沢若菜」についてはわからないが。
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