第62話 遠足の終わり
「そう言うことなら初めから
「そうだよ純ちゃん。私達にも手伝えたことあったかもしれないし」
「はい、はい。その通りです。すみません」
これまでの経緯を二人に話した増田は部屋の床に正座すると自分のことを見下ろし立っている琴音と姫乃に説教を受けていた。
二人が持っていた凶器は危ないので増田が回収している。
そのことに一つも言い訳は言わない増田。本当なら「琴音達が生徒会があるから邪魔をしたくなかった」とか「一ノ瀬ちゃんが君達に苦手意識を持っているから」とか言い訳は出来た。でもそんな事を言ったところでどうせ自分が言葉で言いくるめられることは知っている。それに一ノ瀬のこともある。
一ノ瀬は今はこの場所にいない。増田と一緒に初めは琴音達に事情を話していたが、途中で一ノ瀬の顔色が悪いのを感じた増田が二人から一ノ瀬を離したのだ。今は他の部屋で寛いでいることだろう。
「……ふぅ。今回のことは一ノ瀬さんの手助けと言うことでしたので不問に致します。ですが次もこのようなことがあるようでしたら真っ先に
「そうそう! 純ちゃんは昔から一人でなんでもやっちゃうことが多いから。置いてけぼりはもう、やだよ」
二人は増田と同じ目線に腰を下ろすと顔を俯かせる増田に、抱きつく。
「……二人共、本当にごめん。次からはしっかりと隠し事は無しにするから。心配させた」
増田も増田で思うところがあったのか二人を軽く迎えると素直に謝る。
そんな増田に二人は溜飲が落ちたのか抱きつくのをやめるといつもの笑みを見せる。しかしその笑みは少し黒かった。
「うんうん、これで一件落着。でも、私達を心配させた罪は重いよ? ああぁーこれは罰として純ちゃんがなんでも言うことを聞く権利を所望します!!」
「ちょっ!? それは……」
「純一さん、
「……ま?」
二人が話す内容についていけない増田は二人の顔を見る。
『勿論!!』
……あっ、これマジなやつだ。
そんな二人を見てこれからのことに肩を落とす。
増田は考える。一刻も早くこの二人を他の男性にくっ付ける計画を企てなければと。
自分の平穏を手に入れるために。
◇ 閑話休題
遠足の終わりの挨拶があることを思い出した増田達。小百合澤女子校に戻るスケジュールが遅くなってしまうと思い、話し合いもそこそこにして切り上げた。
二人の言うことを聞くことは追々という話になんとか落ち着いた。
「今回は素敵なスペシャルゲストもいました。皆様は楽しめましたでしょうか? ただ遠足は家に帰るまでが遠足です。皆様は由緒正しいお家の生まれということを自覚した上で帰りの支度を」
そんな川瀬の遠足の終わりの挨拶が終わるとそれぞれ家の車に乗り帰りの支度をするお嬢様達。
『増田様、本日はお会えできてとても嬉しかったです。学校でもお茶会を開いていますので今度、時間がある時来てくださいませ』
『その殿方と話すことは少し敬遠していましたが、本日増田様とお話できて少し勇気がもらえました。学校でもお会えできたら声をかけさせて頂きますね』
『そ、その! 増田様は年上と年下はどちらがお好きですか?……! あ、あの、私が、とかではなくて、その、今後の役に立てようと……』
帰りの支度をするお嬢様達だったが、増田とのお別れを惜しんでか増田に群がっていた。
「は、はは。うん。お茶会是非今度顔を出すよ」や「俺の方でも見かけたら声かけるね」とか「うぅーん? 俺は気にしたことがないかな? 強いて言うならその人と一緒で楽しいなら年の差は関係ないね」と、片っ端から質問に答える。
その際、琴音と姫乃からの邪魔は入らなかった。恐らく増田に「言うことを聞ける権利」を手に入れたからだろう。
『増田様!』
『増田様、
増田に近付こうと押し寄せるお嬢様達。
「順番に、ね?」
そんなお嬢様達に優しく対応をする。
ただ増田は目ではある人物を探していた。
一ノ瀬ちゃんとはあれから結局話せなかったな。
そんなことを考えながらも増田は目の前にいるお嬢様達の対応をする。
◇ 車内の中で
ピロン。
「!!」
増田が行き先と同じ様に川瀬と車内に乗って小百合澤女子校に戻っている時、増田の携帯端末に通知が入る。
その通知を確認するために川瀬に目配せをする。するとコクリと頷く川瀬。
「……」
内心で川瀬に感謝の気持ちを伝えながら無言で通知を確認する。
『増田さんさっきぶりです。私も今学校に戻っているところです。そんな話よりもさっきの私の話の方が増田さんは気になりますよね? さっきは途中になってしまいましたが、ここで私から伝えますね。私は増田さんのことが……』
そこで一旦通知が終わっていた。
心臓に悪いな。言うなら……書くなら書いて欲しいな。一ノ瀬ちゃんが俺のことをどう、思っているのか。
ただそんな増田の想いが通じたのか、はたまた増田が既読をしたことに気付いたのか一ノ瀬から続きの通知がくる。
『……私は増田さんのことを好きです。勿論弟子としてそして娘として、ですけどね? もしかして本当に私が増田さんのことを好きだと思ってました?』
その通知を見た増田は目頭を押さえる。
「……なんだそりゃあ」
「増田様?」
「あ、すみません。大丈夫です」
「そうですか」
増田の口からつい出てしまった言葉を拾った川瀬が反応する。それでも増田はなんでもないと伝える。そうこうしている増田の携帯端末にまた通知が来る。
『ふふふっ。今増田さんが思っていることが見なくてもなんとなく手に取るようにわかります。増田さんも覚えていた方がいいですよ? 女性はとっても嘘つきなんですから。思わせぶりな言葉に気をつけてくださいね?』
……了解。
『わかった。けど祈も他の人にそんな思わせぶりなことを言っちゃダメだぞ?』
と、こんなもんでいいか。
『大丈夫です。だって増田さんにしか使わないので』
『……なんだ、そりゃあ』
増田は一ノ瀬の通知に今本当に思っていることを返した。
「……」
女性ってやっぱ、いまいち何考えているのかわからないわ。
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