第60話 労いと遅効性の罠①
◆
あの後一ノ瀬ちゃんが泣き止むまで俺は寄り添った。俺はその間も膝枕をされた状態だったが下から腕を伸ばして一ノ瀬ちゃんが少しでも安心する様に髪の毛を撫でた。
「そ、その、ありがとうございます」
「いや、ただこの状況でありがとうと言われても……俺の方こそありがとう」
「ふふっ、そうですね……!!?」
「ん? 祈どうかしたのか?」
当たり障りのない言葉を返して増田だったが、一ノ瀬からの返答が少し気になった。
「あ、いえ。その、なんでも、ありません」
ただ何かを隠しているかの様に一ノ瀬の返事は少しぎこちない様に感じる。
増田は今一ノ瀬に膝枕をしてもらっている状況だ。なので増田は自分に何かあることは想定していない。
「何かあるなら言っていいよ。俺も気になるから」
「うっ! そのーあのー、えっと……やっぱり私からは、言えないです」
増田が優しく聞くがそれでも一ノ瀬は頑なに話さない。
わかんないな。俺から見える範囲なんて一ノ瀬ちゃんの顔か服、それか少し部屋の周りが見えるぐらいだもんな。他に誰かがいるわけではないし。一ノ瀬ちゃんの顔が少し赤い様に見えるがそれはさっき泣いたからだよな。
「口に出せないか。なら指さしでもいいよ。幽霊がいた!……なんて言ったら少し笑っちゃうかもだけど」
「えっと……あれ」
そんな増田の戯言に構うことはない一ノ瀬は増田に言われた通り気になって自分の口から言いたくないモノに指を差す。
「えっと、俺の足? やめてくれよ〜貞子でもいるってか、なんて……な?」
そして増田が見たモノは。
不可解に膨らんだ自分の股間部分だった。
……いや貞子より怖えよ。そりゃあ一ノ瀬ちゃんも口に出せないわ。下手したら貞子も裸足で逃げるぞ。もう怪奇現象レベルだよ。
だがおかしい。俺はそんな疚しい気持ちなどもってはいない。はっきり言うと娘の様な存在の一ノ瀬ちゃんに膝枕をされたのは嬉しいが、嬉しい気持ちとは別に我が子に膝枕をされているという自覚が芽生えて今は悟りすら覚えている。なのに……この
黒色のタキシードと対をなす黒色のズボンを押し上げる様にいきり立つ自分の
いつもの俺ならここで「た、立つんじゃ……立つんじゃねぇーよ、ジューン!!」とかボケたいが今は流石に無理だわ。
「あの、これは違くてだな。俺の意思ではないんだ。勝手に……そう! 勝手にこのカスが変な動きを見せてるんだ! くそっ! 俺も変な病気に罹った様だなぁ!!?」
わざと大袈裟に自分の症状を叫ぶ。これでなんとか言いくるめようとする増田だが……。
「……大丈夫です。分かっていますから!」
そう言う一ノ瀬の顔は何処か清々しく見える。
「……」
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