第11話 彼女より、母親に目が行く件について






 馬鹿みたいに燦々と日差しが眩しい青空の下、アスファルトの上を噛み締めるように歩く増田がいた。増田の服装は外行きの服で、上から猫がプリントされた少しダサイポロシャツ、下はジーンズという見た目だった。左手には愛沢家へのお土産なのか紙袋を持っている。


 おでこに右手を翳すようにして目に来る日差しから目の網膜を守ろうと齷齪苦闘する増田だが、既にそんなことをしても意味が無いと悟とある人物の家に向かう。


「──あっちー、まだ6月だぞ? 7月か8月なら暑いのも許すが6月、お前はダメだ。雨も降るし、暑いし、最悪じゃないか。良いところを言ってみろよ6月ぅぅ……」


 そんなことを言っても返ってくる言葉はなく。弱音を吐かないで歩を進めることにした。


 今増田が向かっている場所は「愛沢琴音」が住んでいる場所、即ち『愛沢家』だった。


 場所は記憶で覚えているから行くのは問題ないが……琴音のママンである「愛沢若菜」には会いたく無い。


 だが、昨日琴音に「全て終わったから日曜日、家に来てね? 来ないと????」と、謎の圧を掛けられてしまい今日琴音の家に行かないという選択肢は存在しなかった。


「──ハァ、手土産に少し高めなプリン買ってきたけどこれで良いかな? 記憶通りでは2人共甘いものは好きと出るし。これがお気に召さなくて「もう、この家に出入りしないで下さい!」とか琴音のママンに言われたら最高だけど、無理だろうな。うん」


 馬鹿な事を考えていた増田だが、ダラダラと歩いていても自身の体力が奪われるだけだと思いなるだけ早く歩を先へと進める。


「あぁ、そう言えば琴音のママンって未亡人じゃね? 確かでは琴音ちゃんが生まれて直ぐに夫と死別したんだっけか? うーん、あんまり夫が居ない家に行きたく無いんだよな、世間体にも悪そうだし。それに俺、こう見えて28歳だしな」


 そんなことを考えた増田は苦い顔を浮かべる。「前の年齢と合わせれば、60歳を優に超えるわ。はは、俺、還暦じゃん」と自分で自分を非難する。


 そんな時、あることも思い出す。


「……あれ? そう言えば東堂理事長も未亡人じゃね? ん? 待てよ? なんかこのゲームに出てくる女性、軒並み未亡人じゃね? 『ルサイヤの雫』は未亡人が多い件について……あぁ、多分『ルサイヤの雫』を作った制作会社が変態の集まりなのだろう」


 勝手に決めつけた増田はそれ以上は無駄口を叩くことはなく、琴音達が待つ──愛沢家へと向かう。



 ◇閑話休題あれから10分歩いた



 増田はある大きな白色の屋根のを目前にして動けなくなっていた。しかもその屋敷の門辺りをよく見てみると──「愛沢家」と書いてある表礼があった。


「──いや、思っていた以上にスケール高くて草。うん、訂正。草も生えねぇわ、マジで。……え? 俺、この屋敷の近くに住んでいて、ほぼ毎日の様に通っていたの? それもう猛者じゃん……なんか、気分悪くなってきたわ」


 暑さからか、緊張からか知らないが気分が少し悪くなった増田はどうしようか悩んでいた。


 本当に今、気分が悪いわけだし、これは仮病では無いはずだ。流石の琴音でも体調悪いなら帰っても許してくれるだろう。だよな?


 そう考えた増田だったが、突然「ピロン」とメッセージが届いた音が聞こえた。なので音源の元の携帯端末の電源を付け、確認すると。



 『無駄な抵抗しないで入ってきなよ。仮病しても無駄だよ? もし逃げても家で飼っている警察犬を純ちゃんを何処までも追わせるから』


「……」


 そんなメッセージが増田宛に届いていた。警察犬とかいう聞かない単語も気になった。だが増田は直ぐ様に周りを見回す。


「──誰も、居ないだと? まさか、琴音はエスパー? ンなわけあるか。盗聴器……とかは流石に無いよな。いくら琴音でも──HAHAHAHA!!」


 盗聴器という単語が出ても発信器という単語が出なかった増田はどっち道怖くなったので考える事を放棄し、アメリカ人の様に笑うとインターホンを押す。


 「ピンポーン」と響き渡る音。


「……」


 誰も出ない。なのでもう一度。


 「ピンポーン」と響き渡る音。それと共に「ガタガダガタ」と階段?を降りてくる後が忙しなく聞こえてきた。


『はーい、どちら様ですか?』


 階段を降りる様な音が聞こえてきた後に琴音とは違う若々しい女性の声が聞こえてくる。「恐らくこの人が琴音のママンの若菜さんだろう。」そう思った増田は。


「んんっ。本日、愛沢琴音さんからお呼ばれされていた増田です。此方は愛沢さんのお宅で宜しかったですか?」

『プププッ、純一君何それ。新しいギャグかな? まぁ、良いや。オートロック機能でドアの鍵開けたから中に入っちゃって。いつも通りリビングで待っているからさ』


 そんな声が聞こえてきたと思うと「プツン」とインターホンが切れた音が聞こえてきた。


「──うん、いつも通りと言われても普通はわからないけど、記憶があるからなんとかいけるわ。ただ、少し若菜さん?に怪しまれているのはなんだかなぁ〜だよな。今回は俺流の大人な挨拶をしたつもりだったが、記憶通りにすると「若菜ちゃんあけてちょ!」だもんな。何? こっちの世界の俺、阿保だったの? 二十歳を超えていて目上の相手に対してその言葉使いは無いだろ。いや、目上とか関係なくともそんな話し方はしないけど」


 「ギャグって、普段通りの挨拶の方がギャグだろうが」そう、ブツクサと一人呟く増田だったがなんとか愛沢家の中に入ると靴を脱ぎ、しっかりと靴を合わせるとリビングへと向かう。


 リビングのドアまで来た増田は躊躇なく開け放つ。いや、もう開き直った。記憶通りでは愛沢家を自身の家の様に扱っていたので他人の家として扱うのが面倒臭くなったからだ。


「こんにちは、ご無沙汰していまブフォッ!!?」

「──やん! 純ちゃんのエッチ!!」


 ドアを開けた瞬間、咳き込む増田。嬉しそうにしながらも恥ずかしがる琴音。


 何が起きたのか? 簡単な話だ。


 ドアを増田が開けると直ぐ目の前に予め用意していた様に白色の下着姿の金髪の髪を持つ美少女こと琴音が胸を強調する様に立っていた。増田に見られると恥じらいを持つ様に頰を真っ赤に染めながら身体をくねくねとしていた。


 ただ、増田には中々の致命傷だった。前回の黒い下着を見せられた時も中々のモノだったが、今回は白い下着に加えて、なんと!!も履いていたのだ。



      "正に、完璧"




「……応えは、得た」


 咽せながらも言葉を零した増田は天を仰ぐような姿勢になる。


 あぁ、神よ。そこにおわすは神々が作られた芸術品太ももよ。ムッチリとした質感の太ももの肉をさらに強調させる様に締め付けるニーソ様。あぁ、俺も次の人生は太ももを締め付けるだけのニーソになりたい。


 増田は天を仰いでいたと思ったらその場で膝立ちをして祈る様に胸の前で手を組んでいた。完全に昇天し掛けている。


 ただ、そんな増田に追い討ちをかける様にある人物が現れる。


「──あら、やっぱりの純一君なのね」


 増田を見たその人物は納得が言ったように呟く。そんな何処か懐かしい声が聞こえてきたそちらを向くと増田は──


「……フッ、もう死んでも良い」


 現れた人物を確認した増田はそのまま頭を下げると静かに涙を流す。


 他の言葉は不要だった。


 だって聞いてくれよ、みんな? 俺は琴音の白下着&ニーソックスのダブルパンチを喰らいノックアウト寸前だった。それに加えて、それに加えて、だぞ? 東堂親子よりもたわわに実った巨乳で美人の上、hot pantsを履き、それもムッチムッチの太ももを強調している太ももが現れたのだ。あっ、違う、若菜さん?が現れたのだ。


 これは俺からの君達へのメッセージだ。──飛ぶぞ! マジで。


 琴音の母親である若菜さんは黒髪を腰まで伸ばし、その髪を一房にシュシュで束ねているおっとりとしたグラマスな女性だった。既に3X歳を超えると言うが麗奈と同様でとても若々しい女性だった。そんな女性の良いところを増田に聞けば……「太もも!」と速攻で答えそうだが、増田の答えは違う。


 増田から言わせれば「左唇下にある黒子がとてもキュート!」とのこと。


 若菜の服装は少し大きめのベージュ色のシャツを上に着て、下にはホットパンツという成人男性を家に招く様な格好では無かった。まぁ、琴音の格好と比べると抑え目だが、なんと言っても若菜さんの大きすぎるお胸様と太ももフェチ関係なく誰もを魅了するであろう太ももが強力過ぎだ。


 ただ、琴音をそっちのけで若菜に感動していたからか、忘れていた。琴音を褒めるのを。


「──純ちゃん? お母さんの格好の方が好きなんだ? そう。ならそんな目、要らないね? ナイナイするよ?」

「ヘ?」


 琴音のそんな言葉が増田の耳に聞こえた瞬間、増田の視界が暗転する。それと共に。


「メガアッッッッッッ!!!?」


 自身の両眼を手で押さえるとその場で転がり回る増田。


 琴音は増田の目に向けてをしたのだ。


 琴音は思った。自身以外を邪に見る節操が無く駄目な目など要らない、と。


 やられた本人はたまったモノではなく、他人の家という概念などそっちのけで浅ましくも目の痛みを緩和するために転がり続ける。


 そんな増田を冷たい視線で見つめる琴音。「あらあら」と言いながらも左手を頬におくと増田と琴音を楽しそうに見ている若菜。


 


 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る