第12話 危険人物はいつの世もお母さん(危険!)
◆
あのあと目の痛みをなんとか直した増田はリビングにあるソファーに腰掛けている不機嫌な琴音の機嫌をとる。
「自分が出来る限りのことならなんでもするから許してくれ!」と伝えたら琴音は許してくれた。そんな琴音は何処かご満悦だった。
「純ちゃんがなんでも私の言うことを聞いてくれる〜!!」と口にしていた事は勘違いだと思い、増田は聞かなかった事にした。
そんなこんながあり、なんとか元の状態?に戻れた増田は琴音では無く若菜に今回お呼ばれされた経緯を聞く。
すると、若菜の雰囲気が変わりあることを言い放つ。
それは──
「この頃、自分の娘である琴音が増田の寮に頻繁に出入りしているのでは?」と告げた。
その内容に増田は少しヒヤッとしたがなんとか堪えて平静を装う。ただ、動揺してしまった琴音は口籠ると目を泳がせる。琴音の雰囲気を察した若菜はため息を吐くとともにそれが事実であることを理解する。
増田はバレたならしょうがないとため息を付くとともに愛沢親子を見て「そんな些細な変化に気付くとは、流石は親子」と、場違いながらも思ってしまった。
若菜は年若い自分の娘と二十歳を超えた増田が一つ屋根の下で誰の監視もなく過ごすのは危ないと告げる。
その事に「それはそうだ」と納得して頷く増田だったが、琴音は納得が行っていないようで。それでも琴音自身は自分が言いつけを守らなかった事はわかっているようで、反省はしているようだ。なので、そんな琴音に提案を持ちかける。
「──ヘタレな純一君のことだから、琴音ちゃんに何か変な事は出来ないと思うけど。やっぱり、未成年が成人男性と二人でいるのは見過ごせません! なので、琴音ちゃんの親友であり、麗奈ちゃんの娘の姫乃ちゃんと一緒なら純一君の家に行っても良いです!」
「……」
そんなことを告げる若菜。増田はヘタレというところに少し物申したいところはあったが、間違いでは無いため何も言わない。
琴音は母親の話を聞き、渋々ながらも。
「姫乃ちゃんと一緒なら純ちゃんの家に行って良いんだね!」
と、喜ぶ。
だが、そんな琴音に若菜はペナルティも付けるのも忘れない。
「ただ、琴音ちゃん。以前言ったわよね? 純一君の家に無断で出入りしていたら、次はどうなるかって?」
「うっ……ごめんなさい」
母親である若菜の言いつけを守れなかった琴音は反省する。琴音が反省している事にわかった若菜はそのペナルティを告げる。
「じゃあ、琴音ちゃんには今から罰として買い物をしてきて貰います! 今日、お昼ご飯を純一君と私達の三人で食べる予定でしたが、食材がありません。なので、この紙に書いてあるものを買ってきてください」
そういうと、若菜は今日のお昼ご飯の食材の名前が書いてある用紙を琴音に手渡しする。
「……わかったよ。買ってきます」
琴音は駄々をこねる事なく、渡された用紙を受け取る。そんな琴音にあることを伝えるのが忘れていたのか若菜が注文を足す。
「あっ、琴音ちゃん。前、言っていたストッキングも買ってきてね〜」
「わかってる。いつもの高いやつでしょー」
そういとうそのまま、ソファーから立ち上がると自身の部屋に一旦戻り普段着に着替えた琴音は買い物に出掛ける。
そんな母と娘の会話を間近で聞いていた増田は「ストッキングって本当に買うものだったんだな」。そう思った。
ただ、増田は気付かない。今いる空間が若菜と自分の二人きりになっていることを。
琴音が家を出たことを確認した若菜は動く。増田とは対面側のソファーに座っていた若菜は素早く増田が座っているソファーににじり寄ると何処か蠱惑的な雰囲気を見せる。そのまま増田に身体を預けるようにしながら話しかける。
「……それで、純一君? 琴音ちゃんだけがペナルティを受けると思った? 黙っていた貴方にも罪があるのよ?」
「──っ!? そ、それは、申し訳ないです」
一瞬の出来事で反応できなかった増田は動けないでいたが自分が犯してしまった過ちをわかっているので罰が悪いような表情を浮かべながら謝る。勿論、頭を下げるのも忘れない。
「まぁ、琴音ちゃんが押し切るように純一君を丸め込んだんでしょうね。純一君は昔から押しに弱いから」
「……はい」
変なことを言って話をおかしくしては不味いと思った「面目ない」というように弱々しく謝る増田の顔を近くで見ていた若菜はいいことを思いついたと言うように手を合わせると笑みを溢しあることを告げる。
「そうだ! 私も琴音ちゃんと同じようになんでも言うことを聞いてもらえる権利、が欲しいなぁ〜?」
目をキラキラと輝かせるとそう、伝えてくる。ただ、増田としては「待ってくれ!」と言わざるを得ない。まず、前提で琴音に自分は「なんでも言うことを聞く」などと一言も伝えていないのだ。ただ、自分にも非があった事は認める増田は。
「……わかりました。ただし俺が出来る範囲、ですからね?」
釘を差しながらも了承する事にした。
琴音や若菜が自分に「なんでも言うことを聞く」と言ってきても二人は常識人でもあるし、そんなに変なことを言ってくるわけがないとタカを括った結果だった。
これが後に自分の首を締めることを増田はまだ知らない。
「やったー!! 純一君に出来ることか〜それって意外に多いのよね〜それに、純一君にしか出来ないのよね〜」
喜びを身体全体で表現する若菜。少し不遜な言葉を溢す若菜に対して普段の増田なら疑うところだが、その時に揺れる過去&現在No. 1な大きさの胸と太ももを紳士の増田は……見てしまい疑うことが疎かになる。
ただより、安いものはないからな。
そんなことを考える変態。
そこは目を逸せよ!と言いたいだろうが、これが増田クオリティなのでしょうがないだろう。
増田が若菜に対して紳士的な行動?をしている中、若菜は顎に手を当て考えるように目を瞑る。
……あぁ、純一君にあんな目を向けられてしまって……んん、いけないわ。こんな事を考えている場合ではないのに。純一君にお願いすること。沢山あって決めかねるけど、やっぱり一番は……純一君と本当の家族に、なることよね〜。彼、私や麗奈ちゃんの気持ちに全く気づいてないようだからねぇ〜。琴音ちゃんの気持ちには薄々は感づいていると思うけど、こちらから攻めないと朴念仁の純一君には幾ら経っても気付いて貰えない、か。
そんな何か良からぬことを考えた若菜は何も知らない増田にある話を持ちかける。
「純一君、さ。今まで彼女とか出来たことある?」
その話を聞いた増田は「うっ!」とたじろぐ。だが、少しすると余裕の表情を見せる。
「ま、まぁ? 彼女は出来た事は無いですが、俺レベルにもなると何をしなくても誰でも女性は寄ってくるので選ぶのが大変なんですよ。なので、今は彼女候補を選んでいる最中、みたいな?」
「……要するに彼女はいなく、作る手立てもない、と?」
「……さいです」
若菜に訂正された増田はそれ以上は言い訳をすることなく白旗を上げ同意する。
「じゃあ、もし、私が純一君の彼女候補に立候補するって言ったらどうする?」
「え? それは、どう言う意味で……わっぷ!!?」
若菜の質問が理解できなかったのか聞き返す増田だったが、目の前にいる若菜にいきなり当然、抱きつかれてしまい若菜の豊満な胸に顔を埋める形になった増田は嬉しい悲鳴を上げる。
自分の胸の中にいる増田の耳元に向かって若菜は優しそうな声音を作ると告げる。
「それは私と家族になる、と言うことよ。勿論、私が妻で、貴方が夫よ? 簡単に言うならば、私達は夫婦にならないか?ってことね」
「!?!?」
増田は「夫婦」という耳慣れない単語を若菜の口から聞き、ようやく何を若菜が自分に伝えたかったのか気付く。気付いた増田だが、やはり意味がわからないようで困惑な表情を作る。
そんな姿の増田も愛おしいのか若菜は増田の頰を自分の手でなぞる。
「もう、本当に君は鈍感さんだね。なら、言葉でわからないなら、行動で証明しようか?」
「な、何を……」
増田が若菜の言葉を聞いて、期待半分、困惑半分で聞いていると増田に抱きついていた若菜が突然立ち上がる。すると着ていた洋服を脱ぎ出した。それは下着も一緒だった。
その光景を目を離せずただ、呆然とみていることしか出来なかった増田だったが、気付いたら一糸纏わぬ姿の若菜が目の前に立っていた。少し恥ずかしいのか胸と大事な部分を手で隠していたが、全裸なのは変わりはないだろう。
「……っぅ」
今の状況をなんとなく理解できた増田は、生唾を呑む。
「純一君も、今の状況がわからないほど子供じゃないでしょ? 私達はこのあと、一つになるのよ?」
「い、いや、若菜さん!! それは不味い! それに貴女には大事な夫がいたでしょ!!? こ、こんなことをしたら亡き夫に悪いでしょ!!?」
増田には今の状況は非常に嬉しい状況だが、女性との経験が皆無&夫がいた未亡人に、それも仲がいい知り合いとそんなふしだらな関係になって良い訳がないと思いなんとか保っている理性で拒む。
それでも若菜は諦めていないのか大事な部分を隠していた手を避けると産まれたままの姿を晒し、増田に迫る。その時に謎の光が若菜の体を隠すのは忘れない。
「……そうね。
今、若菜が口にした人物の名は若菜の夫であった「
「そんな時に、昔から知り合いの純一君がいた。琴音ちゃんも君に懐いているし、夫婦になるならもってこいだと思ったのよ?」
「だ、だとしても、俺は!!?」
一糸纏わぬ姿の若菜を見ないように目を瞑り視線を逸らす増田はそれでも拒む。
「本当に君は鈍感さんだね。もう、良いや……」
そう呟いた若菜は動けないでいる増田に覆いかぶさるように抱きつく。衣服などない若菜の体の感触は増田にダイレクトに伝わる。
「おぉあっ!?」
未知の感覚を味わった増田は悲鳴を上げる。
「私は純一君、増田純一君のことが好きです。だから、この気持ち受け取ってよ。ねぇ、純一君?」
「や、でも、その。俺、そう言った、その……経験が皆無であって……」
増田はそんなことを恥ずかしそうにボソボソと話す。
そんな増田を見て一瞬、キョトンとした若菜は「クスクス」と笑う。
「……な、何も笑わなくても良いじゃないですか」
「ごめん、ごめん! 純一君があまりにも可愛くてさ。もう笑わないから、ね?」
「それなら、まぁ。ただ、知識としてはそう言った事は知っていても経験はないので」
そっぽを向きながらそんなことを話す増田。
「大丈夫、お姉さんがリードしてあげるから。君はただ、身を任せるだけで良いから、ね?」
不安な表情を浮かべる増田を見ていた若菜は母性に触れたのか優しく問い掛ける。
「わ、わかりました。男、増田純一! イっきまーーーーす!!!」
「うん。来て、純一君……!!」
そのまま、二人は一つになる。
琴音が帰ってこようが関係ないと言うように二人は愛し合った。
そして、二人には新しい命が授かる。
若菜が増田に頼もうとしていた「何でも言うことを聞く権利」は、自分と新しい生命を作って、本当の家族になることだった。
それはめでたく叶い、二人は今後も愛し合い寄り添う。
・
・
・
……という、妄想を若菜はしていた。
勿論、増田が口にした言葉の数々は若菜が考えた「このシチュエーションならこう言うだろう」というただの妄想に過ぎない。
それに、若菜自身は根が真面目な為、そんな大胆な行動に出れるわけもなく。
……ううっ、私の馬鹿。何がお姉さんよ、何がリードよぅ。そんなこと、純一君を目前にして言えるわけが、出来るわけがないじゃないの……。
変なことを考えてしまった若菜は一人、悶えていた。そんな若菜の様子を見た増田はなんのことかわからず首を傾げるだけだった。
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