第30話 東堂姫乃達との災難?




「……増田様、お待ちしておりました。ただ言い訳は聞きたくありませんのでわたくしの言うことを素直に聞きやがれでございます」


 増田がドアを開けると共に無人なはずの部屋の中から何処かで聞いたことがあるような鈴を転がしたような綺麗な声が聞こえてきた。だが、何故か口が悪いようにも感じられた。その先を増田が視認すると……。


「……oh、wats?」

 

 部屋の中央にある畳の上で膝を折り三つ指の姿勢でいる黒色の着物姿に銀髪が映える東堂姫乃の姿があった。

 虚を突かれた増田はついつい英語で反応してしまう。


「増田様? そんなところにいらっしゃらないでこちらに来てくださいまし?」


 ニコニコと笑みを絶やさない姫乃は増田に優しげな声量で伝える。その目は一切笑っていないが。ただ今までの姫乃の増田の態度とは打って変わって違っていた。


「……あ、人違いです。失礼しましたー」


 が、今の状況にようやく思考が追いついた増田は姫乃とは話すことはなくそのままそっとドアを閉める。


「……」


(——おぉい、なんでだよ!? 此処は安泰の地じゃなかったのか? なんで「東堂姫乃」がここにいやがる。本庄君といるはずだろ? 寮にいるんじゃなかったのか? しかもなんか威圧感が凄いし……。逃げれるよな?)


 内心で困惑している増田は今の状況が全くわからない。だが、分かることもある。それは——


 俺がこの場所から直ちに逃げること!!


 そう思った増田の動きは速い。姫乃がいる部屋から直ぐに離れる増田は素面の表情を作り山本と何食わない顔で接しようと思った。  


「ヤマさん、ちょっと急用を思い出したので帰りま——「純一! 見つけた!!」——すん?」


 山本がいる部屋のドアを開けて「帰ります」。そう告げようとした増田だったが横から聞き覚えのある誰かの言葉に遮られてしまう。遮られると共に自身の腰に遅れてやってくる振動。


 あ、なんかデジャブ。


 何処か既視感を感じながら声の主である自分の腰に抱き付く人物に視線を向けると……笑みを浮かべ増田の顔を凝視してくる東堂姫花の姿があった。


「あ、あぁ。姫花ちゃんか。こんな場所で何をしているのかな? 見つけたってことは……かくれんぼかな?」


 姫花に腰に抱き付かれている増田は上手く身動きが取れないため逃げる好機を探すため笑みを浮かべると出来るだけ優しく姫花に話しかける。


「うん! かくれんぼしていたの! 姫花、やっとを探せたの!! えらい?」


 そんな事を言う姫花は上目遣いをすると何処か期待を込めた目で増田に訴えかけてくる。誰が鬼なのか何がえらいのか増田にはわからなかった。だが、今は一先ず話を合わせよう。そう思った。


「そうか、姫花ちゃんはかくれんぼが得意なんだな。そんな姫花ちゃんはえらいぞ!!」


 姫花を褒める増田は姫花の頭を優しく撫でる。


「む、むふぅー。純一、姫花えらい!」


 増田にされるがままにされている姫花だが目を細めながら何処か気持ち良さそうにしていた。そんな姫花を一目見て確認した増田は部屋の中を確認する。


「……」


(——チッ、ヤマさんがいなくなってやがる。だが、ということは、だ。ヤマさんもこの訳の分からない状況を作ったグルって事か。それに東堂家のご令嬢が二人いてそのお抱えメイド長がいない訳ないもんな……)


 姫花に捕まり身動きが取れない増田は今の状況を加味してなんとかそこまで考え込めた。だが、いかんせん姫花を無理矢理退かせて逃げるのは増田にはできなかった。なので積んでいた。


(……どうすれば良いんだ)


 内心でどうするか思考していると。


「……純一。姫花お嬢様に抱き付かれて嬉しそうですネ?」


 増田の前に東堂家のメイド長こと、小鳥遊椎名が現れる。現れると共に増田に冷たい視線と言葉を送る。口では普通だが内心では「このロリコン」とでも思ってそうだ。そんな椎名は何故か両手を後ろ手にしていた。


 椎名に告げられた増田は焦りからか椎名の不自然な態度に疑問を抱くことなく憤慨する。


「嬉しいに決まっているだろ!! ありがとうございます!!(嬉しいもんか! 早く姫花ちゃんを退かせてくれ!!)」

「……本音と心の声が逆になっているわよ」


 椎名はツッコミながら呆れたような顔を作る。


 椎名の言う通り増田は本音と心の声を間違えて口にしていた。


「くそっ! 誘導尋問かッ! セコいやつだ! まったく!!」

「貴方が勝手に自爆しただけでしょ」


 椎名は頭を抱える。


「やっぱり純一と椎名お姉ちゃんは仲良しだね! 姫花も混ぜて?」


 増田と椎名の夫婦漫才めおとまんざいを間近で見た姫花は目を輝かせると嬉々として自身も加わろうとする。そんなカオスな中、増田は尚も足掻こうとした。


「……くっ」


(大丈夫だ。焦るなよ?まだ終わった訳じゃない。(何が?))


 だとしても一筋の希望を捨てない増田。それでも神を信じなかった背徳者増田には助けも希望もなく……。


「……なぜ無視をするのです増田様。わたくしは悲しいですわ。ただ、貴方とお話がしたいだけなのに……」


 増田の真後ろから悲しげな姫乃の声が聞こえる。奥の部屋に置き去りにされたことに悲しんでいるようだ。


「……姫乃お嬢様を悲しませるとは許せませんね。貴方の性根矯正しましょう」


 増田の前方に立つ椎名は姫乃の表情を確認すると修羅のように顔を変貌させ、中腰になると片手だけを上げて増田に向けてファイティングポーズを取る。


「純一純一! あのね、今日から一緒に住めるの! だから……ずっと一緒だよ?」


 今も増田の腰付近に抱き付いている姫花は周りの状況など気にしていないのか楽しそうに自分の意見を増田に伝えていた。


 ただ、そんな前門の虎後門の狼中門にいる幼女を見た増田は悟った。


 あっ、これマジで積んだ。と。

 

 なので増田が今取れる行動は……。


「わ、悪い! トイレ行ってきて良いですか?」


 適当に話を逸らすことだった。


 ただそれは悪手だ。


 何故なら……。


「……そうやってまた逃げるんだ。そうなんだ。……もう、いいや」


 姫花は限界だった。"逃げるなら……私のが逃げるなら捕獲しよう。そうしよう。"そう思った姫花はぼそっと呟く。呟くと共に幼女には似つかわしくなく笑みを消す。そのまま近くにいる椎名に顔を向けるとする。


「椎名お姉ちゃん……やっちゃえ!!」


 可愛らしい掛け声。さりとて増田を窮地に追い込む呪詛。


「……かしこまりした、姫花お嬢様マイマスター


 姫花の命令オーダーを受諾した椎名は姫花に取り押さえられてある意味動けない増田の元へ向かう。ファイティングポーズをやめた椎名は後ろに隠していたもう片方の片手……右手を掲げ持っていたものを顕にする。


 そこには……。 


「椎名、お前なんてもん持ってやがる!!?」


 増田も本気で驚いているように椎名の手には黒光りする護身用道具。即ち……を持っていた。


 そのスタンガンを右手で構え動けない増田に当てがおうとジリジリとにじり寄る椎名。


「……ッ!!」


(やばい、やばい。マジでヤバい!! ヤバいぞこれは!! 逃げなくちゃ……ッ!!)


「あらあら、増田様? 逃さないですわよ?」


 増田が後先考えず姫花を振り払い逃げようとしている時、背後から幸せな感覚と共に姫乃の優しげな声が聞こえてくる。


「——ぉぉっ……!!」


 増田は姫乃に背後から抱きしめられ、幸せな感覚……たわわに実った果実を直接背中越しから感じたため変な声を上げてしまう。


 ただこれで完全に詰んだ。


「……安心しなさい、純一。少し気絶するだけだから。後は……」


 そこで言葉を止める椎名は何か意味深な表情を浮かべる。


「お、おい! 少し気絶するだけって何処が安心できるんだ!!? あと、"後は"って何? なんなの……? 言うなら最後まで言ギャッァァァァァァァ!!?」


 何かを叫んでいた増田だったが懐に入れてしまった椎名により持っていたスタンガンを首筋に当てられる。


 奇声を上げた増田は少ししてグッタリと横たわりピクリとも動かなくなる。増田を支えた椎名は何処か満足げだ。ようやく増田を捕らえることが出来た姫花はご満悦。増田の寝顔(気絶顔)を見ている姫乃は何処かうっとりとしていた。


 悪魔達に捕まった増田は如何に?



 To be continued...


 

 


 







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