第29話 おや?彼女の様子が……?





 増田の予想通りことが進んだ。増田は初めから姫乃が「比嘉洪」に無理矢理婚約を迫られていることを知っていた。なので運良く顔見知りになれた警察の力で「比嘉洪」を捕まえる準備をし、「本庄努」と知り合いになり「東堂姫乃」と「本庄努」をぶつけようとした。あわよくばそこで二人が"恋仲"になれば良いとさえ画作していた。


 ただ、それは半分成功して半分失敗していた。それは増田も知らない。


 比嘉が警察官に捕まり。東堂家が助かり全てが丸く収まり解決した後。東堂邸ではパーティが開かれた。それは結婚披露宴とは違う今回東堂家を救う為に動いてくれた人々への労いと感謝を込めたパーティだった。

 パーティに呼ばれた人物は今回の東堂家を救う為に一番に動いた本庄努や警察官達。琴音や若菜達愛沢家も呼ばれ参加していた。勿論、そこには元気な姿の姫乃や麗奈、姫花とその姫花に寄り添う椎名の姿もあった。


 そんな見目麗しい美少女・美女達に今回の立役者である本庄は囲まれていた。その顔は美人達に囲まれて嬉しいという感情よりも「自分にもこんなにも沢山の知り合いが出来た!」という嬉しさが勝ったのか終始ニコニコとしていた。


 ただ、そんな楽しいパーティに増田の姿は無かった。


 勿論、麗奈達は増田を招待した。だが、その姿は何処にも見当たらない。東堂家のみんなや椎名、愛沢家のみんなや本庄が手分けして増田を探したがやはり見つからなかった。


「……増田様、貴方はどちらに居ますの?」


 中でも増田のことを一番張り切って探していた姫乃は胸に手を当てると悲しそうな表情を浮かべていた。姫乃は今までは増田の事(男性全般)を嫌っていたが今回のことで本当の恩人が「本庄努」ではなく「増田純一」だと知っていた。


 それはそうだ。増田が比嘉と対話している時、比嘉の動向が気になった姫乃は警察官の声を振り切り一人隠れて増田と比嘉の会話を一部始終見ていたのだから。


 なら、その増田はというと……?





「……あんちゃん良かったのかい? パーティに呼ばれていたのに参加せずに俺とに来ていて?」


 壮年の警察官……山本智に聞かれた増田はどうでもよさそうに頭を掻く。


「良いんですよ。俺にはあんな格式高いパーティは合わないんで。それにこちとら根っからの庶民なんで」

「……そうかい」


 何を言っても意味がないと悟ったのか山本は相槌を打つだけだった。


 そんな増田と山本の二人は今東堂家主催のパーティに出席せずに何処にいるかというと……東堂家からかなり離れた位置にあるガールズバーに来ていた。


 ……え? ガールズバーがなにかって? 馬鹿、お前、それは。なぁ? ガールズがいるバーだ。


 挙動不審で適当なことを考える増田。


「まぁ、今はそんなことは良いじゃないですか。俺を誘うぐらいだ。ヤマさんは好きなんですか? ガールズバー?」

「……好きか嫌いかで言えば、好きだな。ただ、ただ、だ。あんちゃんの周りには見目麗しい女性方がいるじゃないか。そんな状況でこんなところに来て良いのか?と、思ったのさ。そこんところどうなんだい?」

「あぁーーー、色々と俺にも事情がありましてねぇ。それに彼女らは別に"そういうの"じゃないので」


 山本の質問に仏頂面を浮かべて答える増田。


「そうなのか? なら、良いのか?」

「良いんですよ。良いんですよ。後から彼女らにどうこう言われる筋合いはないんすよ。というか言われないでしょ」

「それもそう、か。考えすぎだったか」

「そうですよ。それに半分は未成年、もう半分は未亡人ですよ? 手なんて出したなら周りからの評判は悪くなるし警察に……ヤマさんに捕まっちゃいますよ」

「確かにな」


 「そりゃそうだ」と納得してくれた山本は頷く。そんな話をしていた増田と山本の二人はついに着いてしまった目の前にあるガールズ……少し大人なお店に入る。


 知り合い達が今パーティを開いているという中、自分達だけ夢の国に行くという背徳感はあったが増田達はそんなもの知ったことかと中に入る。


 今正に店内に足を踏み入れると思った矢先「プルルル、プルルル」と携帯端末の着信音が響き渡る。


「……」

「……」


 二人は無言で自身の携帯端末を取り出すと中を開き何か連絡が入っているか見る。


「……なんだ、驚かせやがって。俺には何もきてないな。なら……」


 自分には何も無かったことを確認した山本は未だに無言を貫く相方の方に顔を向けると。


「……」


 無言ながら冷や汗をダラダラと垂らして目の終点があっていない増田の姿があった。そんな増田は着信には出ず携帯端末だけを凝視していた。


「あ、あんちゃん? 何かあったのかい?」

「……」


 体すら震え出した増田に山本が問い掛けるが反応はない。なので山本は悪いと思いながらも増田が今手に持つ携帯端末の中身を見ることにした。そこに何があるのか気になったのだ。



『純ちゃんなんで電話に出ないの? どうしてそんな不埒なお店の前にいるの? ねぇなんで? なんでなの? ねぇ答えてよ? 今日、麗奈さん達が開いたパーティを欠席したのはそこに行くためなの? 嘘だよね? 嘘なんだよね? 嘘に決まってるよね? 嘘って言ってよ!!……それにもちろん店内には入らないよね? 私という彼女がいるのにも関わらず他の女がいる場所にお金を払ってまで入らないよね? ね、ね、ねぇ?……帰ってきたら全て洗いざらい聞くから……嘘ついたら——』


 そこで増田の相手……琴音からのメールは途切れていた。他にも色々と書いてあったが殆どが伏せ字で解析が困難だったため除外。


 そんな増田の携帯端末の中身を見てしまった山本は。


「こ、これは……。あんちゃん、大変なんだな」


 そんなことを呟くと増田に憐みの目線を送る。


「ハ、ハハハ。大変というか、なんで俺の居場所が分かるのさ。うっ! なんだか胃が痛くなってきた……」


 乾いた笑いをあげる増田は「胃が痛い」と呟くとその場で自分の胃を抑える。


あんちゃん大丈夫か? こんな状況じゃあ今回は辞めにしとかないか? 俺が誘ったってのもあるが流石にこのまま店内に入ったら……何か悪い予感がする。だから——「ラ○ン」——うん、予感は当たってたわ」


 山本の言葉に反応するように増田が手に持つ携帯端末からメールが来たことを知らせる音が鳴る。山本は頰を痙攣らせ。増田は涙目だ。



『増田様。こうして携帯端末?でお話しをするのは初めてですわね。何か新鮮ですわね。あぁ、増田様の携帯端末は琴音に教えて頂きました。なので安心してくださいまし。と、話が逸れてしまいましたわね。まず、今回は私達を救ってくださってありがとうございますわ。ただ、お礼は別に直接私の口から伝えたいのでその……から即刻、直ちに、今直ぐに離れてへ帰ってきてくださいまし。……増田様の寮でみなで待っていますので』

 

 今回のメールの相手は姫乃だった。メールの内容を見て琴音に携帯端末の情報を聞きメールをよこしてきたのは分かる。ただ……。


(——なんで俺が東堂家を……「東堂姫乃」を救ったことがバレてるんだよ……。本庄君には内緒と伝えているし彼が裏切るわけが無いし。そもそもなんか俺の寮に待っているとか書いてあるし。みんなって誰よ?)


 なんとなくはその「みんな」が誰を意味しているのかわかっている増田だが脳が考えることを拒否している為か考えるのを辞めた。


 ただ、そんな増田の考えとは裏腹に。



『純ちゃん既読したね?……既読スルーするんだね? 報告は? 連絡は? 相談は? 報・連・相は大人として守るのが当たり前だよね? それにさっきの場所から動いてないよね? 早くそこから離れてよ? 何? ナニかそんな場所に用事があるの? ないよね? 純ちゃんにはそんな場所に用事なんてないよね? あまりふざけたことしていると……ナイナイするよ?』


 増田が既読をしてしまったことにより琴音から脅しのメールが届き。



『増田様。早く会いたいですわ。会って色々とお話ししたいですわ。そして貴方に今までのことを謝りたいのです。なので……早く帰ってきてくださいまし。早く帰ってきてくださいまし。早く帰ってきてくださいまし。早く帰ってきてくださいまし。早く帰ってきてくださいまし。早く帰ってきてくださいまし。私の元へ……ねぇ? 増田様?』


 呪詛のようなメールが姫乃から増田に届く。そんなメールが届いた瞬間増田は。


「て、手が滑ったーー!!?」


 叫び声を上げるとすかさず持っていた自身の携帯端末を近くの花壇に投げ込む。


「ふーふー、ふー……!!」

「お、おい、増田君? そんなことして良かったのか?」


 荒い息を吐く増田に山本は問い掛ける。


「あ、あぁ。いや? 良いっていうかただ手が滑っただけですからね。それに良いんですよ。えぇ。なんかさっきから"迷惑メール"が来ていたみたいで困ってましたから! いやー! 本当、"迷惑メール"は困るなぁ!!」


 琴音と姫乃からの連絡を敢えて"迷惑メール"と言い切る増田。


「……そうか。まぁ、迷惑メールならしょうがないか。でもあの携帯端末はどうするんだ?壊れたかもしれないぞ?」


 増田が迷惑メールだと言うならそうだと思うことにした。なので山本は深追いをすることなく話を違う話題に変えると増田に携帯端末の状態を聞く。


「……携帯端末は変えようかと思っていたので大丈夫です。うん、決して壊れて欲しいとか思っていないので」

「そうか」


 二人はそんな他愛もない?話をすると直ちにその場から離れることを決意した。増田は完全に狙われているから。山本は警察官がガールズバーこんな場所にフリーだとしても来ていることがバレれば周りへの体罰が悪くなる。まぁ、本当は増田のトバッチリを受けたくないからだが、言わぬが花とやら。



 ◇閑話休題



 あの後増田と山本の二人はガールズバーから離れることに成功した。運がいいことに追って?はいなかったようで無事……目指していた交番まで来ていた。

 何故交番にいるのかと言われれば増田が単に自分の住まいの寮に戻りたくは無かったからだ。簡単に言うと警察に匿ってもらおうと思っていたのだ。今は2人共交番の中に入り椅子に腰掛けると一息ついていた。

 

「……ふぅー。ここまでくれば問題ないだろう。増田君は今日は警察署に居座るんだよな?」

「はい、問題ないなら今日一日だけでも匿って欲しいです」

「了解」


 増田の返答に簡単に返事を返す山本。流石市民を守る警察官と言ったところだろう。


「今日は東堂さんが主催するパーティに樋口君も呼ばれていていないから奥の部屋で楽にしてくれや。もう夕方だし人もそうそう来ないだろう」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えますね」


 二人はそんな他愛もない話をしていた。話が終わると増田が立ち上がる。増田は山本から勧められた奥の部屋に行ってみようと思ったようだ。


「さてと、今日は疲れたな。夜ご飯も食べなくちゃいけないし明日のことも考えなくちゃいけないし。少し休むか」


 増田はそんな独り言を呟きながら山本が言っていた奥の部屋のドアの取手を掴み開け放つ。

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