第48話 おもてなし(琴音)②



「私がご主人様……いや、純ちゃんに用意したモノはコレだよ!!」


 琴音がそう言い放ち風呂敷から出したモノは……見たことがある様な赤色のラベルに包まれた赤茶色の液体が入ったペットボトルだった。


「そ、それは……!!」


 琴音が増田のことを「ご主人様」から「純ちゃん」に戻したことなど気にすることなく、増田は琴音が取り出して見せたモノを見て慄く。

 

「それは午後○紅茶(ストレート)!!?」


 みんなも見たこと飲んだことがあるであろう午後○紅茶(ストレート)のペットボトルだった。


「純ちゃん、ごめんね」


 増田が午後○紅茶(ストレート)を目前にして驚いていると琴音がわざとらしくしくしくと泣き出す。


「純ちゃんの為に海外から取り寄せた最高級の紅茶の茶葉を使ってとっておきの紅茶を出すつもりだったけど……午後○紅茶(ストレート)と間違えて持ってきちゃったの……」

「え?……そ、そうか。ま、まあ? 間違えたならしょ、しょうがないかなぁ〜?」


 「紅茶の茶葉」と「午後○紅茶(ストレート)のペットボトル」をどうやって間違えるとか色々とツッコみたいところも山々な増田だが、なんとか平常心で挑む。

 そんな中琴音は「あぁ! 午後○紅茶(ミルクティー)にするの忘れた!!」と泣きそうな顔だ。


 この状況を鑑みて増田はあることを考えた。それは……「琴音はわざと間違いをしているのではないのか?」と。わかりやすく言うなら琴音は「ドジっ子メイド」を演出しようとしているのではないのか、と。 


「純ちゃん。ストレートだけど、飲んでくれる?」

「……あぁ、飲むよ。せっかく琴音ちゃんが用意してくれた物だしな。ありがたくいただくよ」

「ありがとう! じゃあ、せっかくだから近くで注ぐね!」


 増田からの了承を得た琴音は増田の近くへと向かう。テーブルに置いてある湯のみ……ではなく何故か自分で持っていた「純ちゃんラブ」と書かれたグラスを取り出して注ぐ。が……。


「きゃっ!」

「わぁ!? って、大丈夫か!?」


 午後○紅茶(ストレート)が注がれたグラスを増田の元へと持ってこうとした琴音は何かに躓いたのか転んでしまう。そのまま狙ったかのように増田の股間へとグラスを叩きつける。

 グラスが自分の股間に叩きつかれたことと紅茶の熱さで増田は小さな悲鳴を上げるがそんな事よりも琴音に怪我がないか確認する為に立ち上がろうとする。


「だ、大丈夫だよ。ちょっと躓いただけだから。それよりもごめんね……」


 直ぐに立ち上がる琴音は増田の肩を掴むと立ち上がるのを阻止する。

 周りで見ていたお嬢様達は心配そうに見ている。先生方や使用人達は直ぐに動けるようにしていたが琴音の「大丈夫」という言葉が聞こえたからかその場で待機する。


「そうか。でも、何処か怪我をしていたら言えよ?」

「うん。私は本当に平気だから今は私が溢した紅茶の後始末と新しい紅茶を用意させて」

「なら、いいけど」


 大丈夫と言い張る琴音のことを信じて増田はされるがままにされる。ただ増田は琴音の不自然さに気付く。


 ……俺の気のせいかもしれないが、なんかさっきから俺の股間あたりを重点的に拭いてくるんだけど。いや、紅茶を零したのはそこであってはいるが……なんで撫でるように拭いてくるんだ?


「……純ちゃん。本当にごめんね。ただあまり、その言いたくはないんだけど。ココ、膨らんでない?」

「え?」


 増田の濡れた股間あたりを拭いていた琴音だったが少しすると顔を赤らめながら上目遣いでそんなことを質問される。

 増田はそのことでよく見ると愚息純ちゃんが……おっきしていた。


 な、何故だ!? 流石に俺も今の状況でそんな疚しい思いは感じていない……はず。琴音の短いスカートや太もも。俺の股間を拭く時に伝わってくる刺激。そしてその時に出来た琴音の胸の谷間。色々と危ない場面はあったが俺はなんとか平静を保ったはずだ。なのに……何故?


「……男性の生理現象なんだもんね。しょうが、ないよね」

「お、おう! そうなんだよ。いや〜? 俺もなんでこうなったかわからなくてな。変なモノを見せてすまない」

「ううん、大丈夫。逆に嬉し……私も気にしてないから」

「あ、ありがとう」


 今、琴音の口から「嬉しい」って聞こえた様に感じたが俺の勘違いだろう。流石の琴音でもそんなではないだろう。


 自分のことは棚に上げて考える増田。


 そんなぎこちない会話をした二人はその後紅茶の後始末をあらかた済ます。すると新しい紅茶を増田の元に出す琴音。


「……純ちゃん、ごめんね。次は大丈夫だから。……私が注いだ紅茶です。どうぞ召し上がって下さい」

「うん、頂こう。ずずっ……あぁ、やっぱり午後○紅茶は美味いな。それも琴音が淹れてくれたモノだと一際美味しいな!」

「ふふっ。純ちゃんたら言葉がお上手なんだから。でもありがとう」


 琴音は増田に紅茶を飲んでもらい褒めてもらったことが嬉しかったのか笑みを浮かべると感謝の言葉を告げる。そのままテーブルに出していた物の片付けをするのかと思うと……。


「……今回は午後○紅茶(ストレート)だったけど今度は午後○紅茶のミルクティーにするね。私の……で」

「ブフォッ!!」


 琴音にそんなことを耳打ちをされる増田。流石の増田も「母乳」という単語は効いたのかたまたま飲んでいた紅茶の残りが気管に入り咽せていた。


 そんな増田を楽しそうに眺めている琴音。


 こいつめ……ドジっ子メイドだと思っていたが小悪魔メイドの間違いだったか。


 姫乃を古風な完璧メイドだとすれば琴音は増田の言う通り小悪魔メイドに該当するだろう。












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