第27話 ジューン・ブライド
◆
「——新郎、洪は新婦、姫乃を健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「もちろん、誓います」
聖書らしきものを持つ神父に「誓いの言葉」を問われたでっぷりとして肥えた
「……」
無言ながらも嫌そうな表情を少し浮かべる姫乃。だが直ぐに笑みを浮かべ、取り繕う。
東堂家にある白と金色の少し派手な大広間。様々な料理の数々が並ぶ参列席に座る人々が見守る中、東堂姫乃と比嘉洪の結婚披露宴が開始されていた。
参列席の中には澄ました顔を浮かべる麗奈と悔しそうな顔をする琴音の姿があった。そこには姫花や椎名の姿は無かった。麗奈の采配通り今は増田の元に向かい若菜……愛沢家に匿われていることだろう。その事から増田の姿も無かった。
「——新婦、姫乃は新郎、洪を健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「……っ」
比嘉洪と同じ様に神父から「誓いの言葉」を問われた姫乃は言葉を詰まらせてしまう。
「……チッ」
そんな姫乃に苛つく比嘉洪だったが、既にこの結婚は決まっている事なので今、姫乃が拒んだとしても何れ、姫乃自身も東堂家も自分のものになると考えて今は静観する。
「……新婦、姫乃? 誓いの言葉はありますか?」
何も言わない姫乃を疑問に思ったのか姫乃自身に問う神父。
問われた姫乃はもう無理だと諦めたのか。
「……はい。
「——なっ!?」
『『……??』』
「誓いの言葉」を紡ごうとした姫乃だったが、聞き覚えのある声が聞こえたことに言葉を止めてしまう。そして声が聞こえてきた方角……結婚式場の入り口となる扉の前を見て戸惑いの表情を浮かべる。それは比嘉洪も同じだった。今回の結婚式は誰の邪魔も入らないと思っていたので油断をしていた。
他の来ていた参列客はみんなしてどうしたのか頭の上で疑問符を上げていた。今の状況も結婚式のパフォーマンスとでも思っている様子だった。乱入者がこの結婚式を掻き回す存在とは知らずに。
「な、なんで本庄君が此処にいるのです、の?」
今の状況がわからない姫乃は結婚式などそっちのけで乱入者、黒色のタキシードを着こなす白色の髪の毛が映えるイケメンこと……本庄努を見て小さく声を洩らす。
本庄の登場に麗奈も琴音も何も知らなかったため驚きを隠せない。
(——増田君が言っていた私達を助けてくれる人物って本庄君のことだったの? けど、彼はお金持ちの生まれでもないし、子百合澤女子校に来たのもつい最近なのにどうすると言うの? 増田君、貴方は一体何を知っているの?)
本庄の登場に少し安心したと言う気持ちが湧いた麗奈だった。だが、内心で考えた通り今の本庄努に何が出来るのか、と不審がってしまう。ただ、これも増田の考え通りならと思いことの行末を静観して見守ることにした。
「——警備員!! 何をしている!!? 呼ばれもしない乱入者が現れたぞ! このまま式を台無しにされたらたまったものではない! 即刻、追い出せ!!!!」
ただ、自分の大切な結婚式に乱入してきた本庄努を追い出す為にそこら中にいるであろう警備員に唾を飛ばしながら怒鳴る。
(ふんっ! ヒヤヒヤとさせてくれたが貴様如きガキ一人が来たところでこの結婚式をどうこう出来るわけがなかろうに。直ぐに警備員の手によって追い出されて終わりだろう)
比嘉は内心で悪どい笑みを作ると本庄の退場を悟る。
ただ、普段なら通常なら無断で入ってきた部外者である本庄努は比嘉の思っている通り配備された警備員の手により
そのことに「おかしい」と思い始めた比嘉と「今の状況はパフォーマンスではないのか?」と思った参列客の声で会場は騒めく。
そんな中、周りの目など気にしていないのか本庄は堂々とした足取りで姫乃達の元へと歩いて行く。
「……姫乃さん、以前ぶりだね。ただ今日、君が結婚式を開くと聞いた時は流石の僕も驚いたよ。でも、こうして会えて助けに来れたから、もう安心してくれ」
本庄は姫乃の側によるとそんな事を笑顔を浮かべて話す。本庄から嬉しい言葉を送られた姫乃は頰を赤く染める。が、少しして
「……本庄君が来てくれたのはとても嬉しいですわ。ですが、帰ってくださいまし。これは、
姫乃は自身の考えを目の前にいる自分の為に来てくれたであろう人物に伝える。
「……」
そのことに本庄は特に何も言うでもなく、姫乃の顔を表情を見る。それは姫乃の本性を見極める様だと思えた。
ただ、本庄の言葉に姫乃の心が揺れていないと思った比嘉は調子づく。警備員が動かないなら自分が動こうと思った。
「馬鹿が!! 既に姫乃の身も心もワシのものだ!! 貴様如き、若造が出しゃばる隙間などないわぁっ!!? 分かったのなら、即刻立ち去れ痴れ者がッ!!!!」
勝ち誇った様に笑いながら本庄に伝える比嘉。だが、本庄はそんな比嘉の言葉を無視する。無視しながら姫乃に顔を向け、告げる。
「……姫乃さん。それが、それが、君の本当に思っている本心なのかい? 僕から見ると何か、無理をしている様に思える」
「——ッ!!?」
確信を持った様に問われた姫乃は「ハッ」としてしまい驚く。無視をされた比嘉は「ワシの話を聞け!!!」と喚いているが本庄と姫乃には聞こえていなかった。
「……その反応は当たり、かな? ただ、君が抱えている事は僕には到底わからない事なのだろう。けど、せっかくこうして仲良くなれたんだ。友人になれたんだ。何か、僕に出来ることがあるのなら、頼って欲しい」
「本庄、君……
本庄に今言って欲しい言葉を伝えられた姫乃は涙を浮かべると本庄に縋るように……。抱きつこうとしたが、比嘉が割り込む。
「——姫乃ッ!! お前は自分の置かれている立場がまだ分かっていないようだな?」
「——ぁ」
比嘉のその言葉一つで姫乃は動きを止めてしまう。よく見てみると姫乃はさっきまでの期待に膨らませた笑みは無くなり、絶望する様に顔を青ざめて体を震わせていた。
「ふんっ! やっと今の状況を思い出した様だな。それと、貴様! ワシの大事な妻に横から手を出さんでもらおうか? 先も言ったが貴様の入る隙間は無いのだよ! だからワシの姫乃には指先一つ触れさせんぞぉぉ?」
比嘉は嫌味たらしくそう言うと近くにいる姫乃を無理やり抱き寄せ。自身の腕の中に入れる。姫乃は抵抗する事などできずにただ、震えていた。
その様子を見ていた参列客からは「おぉ!!」と、何を勘違いしたのかどよめきが起きる。嫌がる親友の姿を見た琴音は動こうとしたが近くにいた麗奈に止められ動けないでいた。
ただ、本庄一人は目の前の勝ち誇る比嘉に鋭い目線を向ける。
「な、なんだ? ワシに歯向かうのか?」
本庄の視線にビビる比嘉は尚も威勢を張る。
「……僕はね、本当に貴方と姫乃さんが好き合っているなら何も言わないさ。けど、ある人から話を聞き、自分の目で今確かめて確信が持てた」
そこで本庄は言葉を止めると笑みを浮かべて比嘉を見る。ただ、その笑みは目だけが笑っていなかった。
「——端的に言おう。貴方は……比嘉洪。お前は姫乃さんに相応しくない。だから、この結婚式はお開きにしてもらおうか?」
「き、貴様ッッ!!!!?」
本庄は目上の相手である比嘉に対して言葉を崩すと命令口調で告げる。そのことに憤慨する比嘉だったが、本庄から出る威圧に押されていた。
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