第24話 計画通り!!(黒幕風)





「——純一さん。僕は純一さんの言う通り助けを求めている女性の元へ行ってきます。なので後は任せてください!」

「あぁ、任せたよ。若いもの同士の方が話し安いからね。それに、運が良ければお友達になれるチャンスかも知れないし、ね」

「はは、そうだと良いのですが。では!」


 増田と話をしていた本庄は増田に一礼するとそのまま少女……「東堂姫乃」を探しにいく為に走って行く。そんな本庄の背中を表面上は朗らかに笑いながら見送る増田。



 増田は本庄と再開した時、世間話をするついでにある話も振っていた。それは「「東堂姫乃」と言うお嬢様をお付きの人が探していると言う。その「東堂姫乃」お嬢様は噂で旧校舎の近くにいると聞いた。俺の様なおじさんだと怪しまれるけど君だと怪しまれずに探せると思うから時間があるならの一環で探してみては?」と、増田は本庄に伝える。


 話を聞いた本庄は増田が話す内容を特に疑う事なく「わかりました!僕も友達は欲しいし、困っている人は見捨てられないので純一さんの分、頑張ります!!」と、笑顔で了承してくれたのだ。


 元々「本庄努」と言う主人公は情に熱く。困っている人を放っておけない「ザ・主人公」と言う性格だった。それにこの子百合澤女子校に転校してきてから本庄はまともに友人という存在を作れていなかった。それを知っている増田は後押しをすると言う体で「本庄努」を「東堂姫乃」にぶつけることにした。

 それにこれも勝算があっての考えだった。シナリオ通りでも「本庄努」がことで心に傷を負った「東堂姫乃」を励まし、知り合いになり。そんな「本庄努」を「東堂姫乃」が好きになると言うなんともベタな展開だ。それも今回は「東堂姫乃」だけではなく「愛沢琴音」や「小鳥遊椎名」までもが「本庄努」と顔を合わせる可能性がある。なのでだ、と増田は考えていた。 

 

 もちろん、「本庄努」には「東堂姫乃」達と会った時や何かを聞かれた時は"増田純一"と言う名前は使わないでと言うことを伝えているので影で動いているのが自分だとバレないのも既に対策済みだ。


「く、くくくっ、くくっ!! 計画通り!!! あぁ、計画通りだとも!! 今は朗報を待とう。俺の勝利は揺るがないがな!!」


 誰もいない事を良い事に高笑いをする増田。そんな増田は一人自身が住む寮に戻る。本庄には何かあった時やうまくいった時に暇だったら連絡をくれと言っているので後はゆっくりと朗報を待つだけだった。



 ◇



 夕方も終わり、所々が暗くなってきている午後19時。業務を終えている増田は既に寮に帰っており、今は宅につき夜ご飯にありついていた。


 今回の増田の夕飯はごぼうをふんだんに使った筑前煮だった。以前、愛沢邸に赴いた時にプリンと引き換えに貰ったごぼうが未だに沢山あったので使わないのももったいない。なので増田が好きな筑前煮にする事にした。


「あぁ〜。なんだろうな。筑前煮って若い頃はあまり好きじゃなかったのにこう、歳を取ると食べたくなるというか。この素朴な美味しさを知ったというか。まぁ、何はともあれ……ごぼうに味が染みててウメェ」


 自分で作った夕飯に舌鼓を打つ増田。そんな増田の一時を邪魔する様にテーブルの上に置いていた携帯端末が「ラ○ン!」と誰かからの連絡があった事を知らせる様に鳴り響く。


 まぁ、みんなもむさ苦しい男が一人ご飯を食べているシーンなど所望していないと思うので丁度良かったのかもしれないが。(おい!)


「なんだ、なんだ? 樋口君かもしくは本庄君からかね? まぁ、見てみますか、と」


 ご飯を食べる手を一旦止めた増田は携帯端末を取り、開く。


 そこには——




『純一さんの言う通りを見つけることができ、仲良くなれました! 琴音さんや椎名さんとも縁が出来ました!! 本当にありがとうございます!!!』




 そんな嬉しそうな「本庄努」からのメールが送られてきていた。


「は、はは。予想通り。あぁ、予想通りだとも。だが、ねぇ? 随分仲良くなったみたいじゃないの? それにちゃんと琴音達とも合流が出来たみたいだから上出来だ。褒めて使わそう!!」


 メールを確認した増田は悪い笑みを浮かべながら仰々しく叫ぶ。少しして落ち着きを取り戻した増田は。


「……さて、あとは、そうだなぁ。本庄君にはもっとと親睦を深めてもらおうか。なに、コレは彼らの為にもなるし悪いことは一切ない。そもそもが本来の在り方だからな」


 そんな事を呟く増田は携帯端末を操作して本庄にメールを送る。



『なに、それは君の行動があったからこそさ。だから俺のお陰とかではないよ。ただ、もし今回のことで俺に恩義があると思ったなら俺にではなく今日、知り合った子達と仲良くしてあげなさい。縁を作るのは良い。けど、そこからその子達の事を知るのもまた良い物だよ』



「……こんなもんで良いだろ。コレで俺に恩義を少しでも感じていると本庄君が思っているのなら俺の思う通り動くだろう」


 そんな増田の思い通り。



『わかりました! 純一さんがそう言うなら僕は従います。友達が出来て嬉しいのは本当なので!!』



 本庄から増田にそんなメールが届く。そのメールを目を通した増田は嗤う。


「良いよ。良いさ。良いとも。それで良い。本当はではなくなんかになって欲しいがそれは早計だろうな。あとは時間がどうにかするだろ」


 そう思った増田は再度メールを送る。そんな増田と本庄とのメールのやり取りが終わる。終わると既に冷めてしまったご飯を増田はかっこむ。


「……んぐ、んぐ。コレで役者は揃った。全てが整った。あとはどれだけ彼が彼女の心を癒すか、だな。それは本人達の問題だからモーマンタイ。これから起こる"時"が来るのを俺は待つだけだなぁ」


 一人、なにかを思想している増田は食べ終わった食器を流しに運びながら呟く。ただ、その時増田はあることに気付く。



「……そういえば、俺っていつから本庄君にさんって名前で呼ばれてたっけ? 何かメールでもついこないだ会ったばかりなのにやけに親しげだし……? まぁ、仲が良いのは良い事だが、何か負に落ちないな」



 「何でかなぁー?」と考えながらも答えなど出てこない増田はじき、その事を忘れる。



 ◇閑話休題何故か寒気が!



 そんなこんなで何事もなく時は進んで行く。今は6月26日(金)「本庄努」が「東堂姫乃」達と顔を合わせてから約2週間の月日が過ぎていた。増田はあれから「東堂家」「愛沢琴音」「小鳥遊椎名」達と一度も会う事なく用務員の仕事をしていた。


 琴音は増田と何回かは会うと思っていたが、親友である姫乃が心配からか他のことがあるかは知らないが増田とはこの数日会っていない。他の面々も姫乃が心配なのか増田とは会っていなかった。

 ただ、『ルサイヤの雫』の主人公である「本庄努」だけは増田と何回か会っていた。別に増田が本庄努を招集した訳とかではないが何故か何回かにわたり自分から増田が住む寮や作業場に顔を出していた。


 増田としてはこれからの計画のために「本庄努」本人に幾つか伝えたいこともあった為助かってはいた。


 そんな何事もない日々が続いていく中、異変が起きる。子百合澤女子校の校内である噂が広まる。


 それは……此処、子百合澤女子校の東堂理事長の娘である「東堂姫乃」のが今月の土曜日、6月27日(土)に急遽で行う事になったからだ。この事に驚く生徒や先生達で持ちっきりだった。それはそうだ。在籍する生徒が、それもこの子百合澤女子校の理事長の娘がいきなりをすると言う話なのだから。


 今までそんな素振りも見せなかったことと本人の姫乃が否定をしないことから尚、噂は真実味を増し人から人へと伝播していく。ただ、姫乃の母親である東堂麗奈理事長に抗議する生徒達もいた。その中には「愛沢琴音」や「本庄努」の姿もあった。だが、東堂理事長は何も言わない。「東堂姫乃」も決心をしてしまっているのか口を閉ざす。


 ただ、一人、ある男は。



「……安心しろよ。ハッピーエンドしか俺は。バットエンド?……馬鹿言うな。俺が、全てを知っている俺が既に場は整えているのに悪い未来になるわけがないだろぅ?」



 『ルサイヤの雫』というゲームの事を全て知り尽くす男はこれから起こる確定事項な"ハッピーエンド"への未来を思い描きながらある人物達に最後の連絡を入れる。


 連絡を入れるとそのまま普段通り作業に入り、開ける日の土曜日を増田は待つ。


 









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