第72話 催眠アプリ
いや、催眠アプリって。姫花ちゃんは友達に教えて貰った……って言っていたから所詮は子供騙しだと思うが……それを俺に使うと?
「……」
内心でどうしようかと思いながらも近くにいる椎名と田中の様子を伺う。
「……」
「(ニコニコ)」
椎名は澄ました顔で。田中はニコニコと笑みを絶やすだけ。
二人は黙認、と。俺に任せるってわけね。100%催眠なんて眉唾モノだろうし、かからないと思うが……かかるフリをしろってことか?……ハァ、いいよ。のってやる。
「うん。わかった。じゃあ、姫花ちゃんにその催眠アプリ?を使ってもらおうかな〜?」
「やったーー!!」
増田が自分と遊んでくれるとわかった姫花は大喜びで万歳する。
ようやく怒っていた表情もいつもの可愛らしい幼女(少女)の顔に戻る。
「ただ、そのー催眠アプリでどんなことして遊ぶのかなぁ〜?」
「うん。あのね。姫花のお友達のお父さんが遊んでくれないって言ってたの。そこで催眠アプリを使ったらお父さんは言うことを聞いてくれたの!」
「ヘェ〜そうなのか。その催眠アプリって凄いんだね〜」
「うん!」
辿々しく話す姫花だが、しっかりと言いたいことを増田に伝える。そんな姫花の話を聞いていた増田は姫花の元に近付くとついつい頭を撫でてしまう。
多分その姫花ちゃんの友達のお父さんは本当に忙しくて遊べなかったんだろうな。そこで大事な娘が自分と遊んで貰うためにこの「催眠アプリ」なるモノを使って遊ぶ口実を作った、と。そこまでする娘にお父さんも折れたんだろう。
姫花ちゃんも同じ思いだったのかな。この数日は姫花ちゃんのこととか結構蔑ろにしていたし。前なんてマンガ雑誌を見せなかったことで「いじわる!」って言われたもんな。
「じゃあ、さっそく姫花ちゃんに催眠かけてもらおうかなぁ〜? 姫花ちゃんがどんな催眠をかけるのか楽しみだなぁ〜!!」
だから楽しそうに。そして姫花ちゃんに楽しんでもらえるように俺はあえてはしゃぐ。
「ふふん! 催眠の内容は純一が催眠にかかったあと! だから今から催眠かける!」
「わかったよ。じゃあ、俺はどうすればいいかな?」
「うん! 純一はそこに座って!」
増田は姫花の要望通りその場で腰を下ろす。今いる場所は玄関の前だが室内が綺麗なので何も問題はない。問題なのはただ一つ。今置かれている状況だけ。
「じゃあ、姫花の携帯の画面を見て?」
「わかったよ」
まあ見たところで所詮何も起こんないんだろうけど、遊びだからな。野暮なことは言わないさ。大人だからね。
そう思いながらも増田は姫花の言う通りに暗転としている画面を見る。増田がしっかりと画面を見ていることを確認した姫花は目を瞑って何やら唱える。
「あなたは〜だんだんと〜姫花の言うことを聞きたく〜なーる〜」
「……」
聞いてるこっちが眠たくなるようなゆっくりとした音声で語りかけてくる。その間も姫花が見せてくる携帯端末の画面は特に何も変化はない。
やっぱりなんも変わんないか。知っていたけどね。たださっきから「純一が〜姫花のどれいになる〜」とか「純一は〜姫花のペット〜」とか言う恐ろしい言葉の数々は恐らく空耳だろう(現実逃避)。さあ、ここからが俺の見せ所だな。かかったフリを完璧に真っ向しよう。
「──るーるーる〜♪……どう? 純一は催眠かかった?」
「……」
ここは何も答えないのが吉だろう。ただ、なんだよ「るーるーる」って、可愛わ。
姫花の可愛らしい言葉に行動に身悶えしたい本能に駆られながらも支持を待つ。
今の俺はただの指示待ち人間。
「うーん? 本当にかかってるのかなぁ〜?」
増田が本当に催眠にかかったのか疑心暗鬼な姫花は増田の周りを歩いたり増田の頰をツンツンと突いている。
「……」
それでも増田は不動のように動かない。
別にもっと触ってとか変(態)なことは考えていない。なんせ俺は指示待ち人間。
増田が何も出来ない中椎名がそっと姫花の耳元に忍び寄る。
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