第8話 増田純一vs東堂姫乃
少女、一ノ瀬から話を聞いた結果。
やはり増田に非はなく、真犯人は間違いなく琴音が見た黒猫であり、たまたま近くで作業していた増田の姿を見た一ノ瀬が叫んでしまった。それを何を疑うこともなく勘違いしてしまった姫乃……となった。
間違いを起こしてしまった姫乃は未だに理事長の机に身体を預けるだけで言い訳も謝罪も特になく。
「──そ、その、それで。間違いを直ぐに私が正せばよかったのですが……怖くて、言えなくて……ごめんなさい」
目尻に涙を溜め頭を下げてこの場にいる全員に向けて謝る一ノ瀬。
そんな一ノ瀬に歩み寄る増田は自分のポケットから藍色のハンカチを取り出し手渡す。
「一ノ瀬さん、でいいんだよね? 間違いは誰にでもある。年上の俺でもたまにある。そんな思い詰めることはなく、これから気をつければ良いんだ」
「──はぃ」
「よかったら使って」
蚊の鳴くような小さな声だった。そんな一ノ瀬は増田から渡されたハンカチを拒むことなく受け取ると涙を拭く。
「あまり気にしちゃダメだよ。それに不安にさせてしまったみたいだね」
優しく声をかけることを心掛け一ノ瀬の頭を子供をあやすように軽く撫でる。
「──ッ!?……えへへっ」
頭をいきなり撫でられたことに一瞬「ビクッ」とする一ノ瀬だったが、自分に危害を加える行為ではなく、ただ慰めるために頭を撫でてくれていることがわかり目を細める。気持ちよさそうに身体を増田に預ける一ノ瀬。
小動物感が出てて可愛いな……勘違いはするなよ。俺は決して
と、変態は申しております。
そんな裏山けしからん行為を目前にして許すわけがない番人が近くにいるわけで。
「──純ちゃん? 女性の頭をそれも知り合いでもない人の頭を簡単に撫でて良いと思ったの? 舐めてるの?
「なんて??」
「──はうっ!?」
能面の様に無表情を貼り付けた琴音が増田と一ノ瀬の間に無理矢理入り、二人の行為(頭撫で撫で)を辞めさせるべく動く。
琴音が何を口にしたのか理解できなかった増田は聞き返し、一ノ瀬は怖かったのか増田の腰にコアラの様に抱きつく。
そんな一連の一ノ瀬の行動がさらに琴音をイラつかせたのか。
「純ちゃん!!! 私の! 頭も! 撫でなさいよ!!!?」
キレる琴音。怒るところは「そこじゃないだろ」と感じるも、琴音は激おこだ。
宥めるべく事情を聞こうにも「頭を撫でろ!」「私以外と触れ合うな!」と暴れ。
増田達が騒いでいる一方で静観していた理事長、麗奈が手を叩き注目を集め、話を纏めることに。一旦動きを止める増田達。
「はいはい。誤解が解けて蟠りが解消出来たことは良いことよ。だけど騒がないの。それにまだ一人だけ増田さんに謝っていない人がいるのだから」
「──ッ!!」
麗奈はそう言うと自分の娘である姫乃に向けて視線を向ける。その視線に姫乃は気付いたのか肩を震わせ。
「姫乃ちゃん? 悪いことをしたらまずは謝る。今回は貴女の勘違いで何も非の無い増田さんを疑ったわけなのだから。このまま話が進んでいたら大事になっていたわよ?」
「……」
麗奈の言い分を理解している姫乃は無言で仏頂面を顔に貼り付けな増田の近くに寄る。
未だに自身の腰近くに
そんな中、増田は姫乃に顔だけでもと思いなんとか向ける。
「そ、その、貴方……増田、さんに今回は悪いことをしてしまいました。
謝罪の言葉を伝えた姫乃はそのまま頭を下げる。謝罪を受けた増田は。
「その謝罪、受け入れます。私もそんなに気にしていないです。東堂理事長の言う通り大事にならなかったのでもうこの件は終わりましょう。だから東堂さんも頭を上げてください」
姫乃の謝罪を大人の対応で軽く受け入れ。今までの行為を許した。増田は良い人にも見えるが実はそうではない。ちゃんと増田にも穏便に済ます
正直に言ってしまうとこれ以上の東堂親子との関わりは避けたい。物語の"ヒロイン達"と自分が長い時間絡むと後々に何が待っているかわからないから。
それに「東堂姫乃」の性格を良く知っている増田からするとやはり、敵対をするのは得策ではないだろうと思う。
理事長を親に持ち、校内でもかなりの発言力を持っている。そんな人物と敵対するのはバカのやること。
今は仲良くするのが吉だが、増田には出来るだけ関わりを持ちたくないと思う気持ちがあった為、後腐れのない様に終止符を打つ。
「──ありがとうございます」
許しを得た姫乃は頭を上げる。その言葉を聞き、やっと今回の件は終わりだと思った増田はどっと疲れがやってきた様に感じた。
「ただ、勘違いはしないで下さいまし。
「……」
冷たく伝えてくる。増田が何も言えない中、麗奈の許しを得ずにそのままお胸様を揺らしながら理事長室から退出する。
そんな姫乃の態度を見て琴音は「姫乃ちゃんはなんで純ちゃんにそんなに強く当たるかなぁ〜? ちょっと注意してくる!」。そう言うと琴音もそのまま理事長室を後にする。
二人の態度を見た理事長の麗奈は「青春してるわね〜」などとのほほんと呟く。
一ノ瀬に関しては未だに増田の腰に抱きついて何がなんなのかわからないと言った様に呆然としている。
増田は内心で少し苦笑気味に。
──ま、「東堂姫乃」が俺を敵対するのもわかる。彼女も彼女で色々と抱えているからな。彼女のエピソードも中々と鬱展開が続き、難しいものが多い。主人公の「本庄努」とまだ会っていないなら早いところ出会ってその心を救って欲しいものだな。
増田はそんなことを考える。
「東堂姫乃」には色々と闇が深いものがある。姫乃自身は親が理事長であり、東堂財閥というお金持ちの令嬢にして本人も容姿鍛錬、文武両道、才色兼備となんでも一人で熟てしまう超人。
今のまだ幼い身の
父親の名は「
麗奈は三つの会社を経営して、当時から小百合澤女子校の理事長だったことからお金の問題はなく。だが、娘達のケアが疎かになってしまった。それが原因で長女、姫乃は父親──男性への不信が上がってしまい軽い「男性不信」となってしまったのだ。
姫乃の妹である「姫花」は当時は小さかったので自分には「お父さんはいない」と言う気持ちしかないかもしれないが、物事が理解できていた姫乃からすると男性のことが信用できなくなり、強く当たってしまう性格になるのも当然だったのかもしれない。
「東堂姫乃」に関わる問題は他にも沢山あるけどそんな
「東堂姫乃」に関してのことを考えていた増田は「自分は関わらないからどうでも良いか」と、思うのだった。
そのまま一ノ瀬と一緒に自分も理事長室を退出する旨を麗奈に伝える。
「──では、私も退出さ──」
「一ノ瀬さんは先に戻って良いですよ。私は増田さんと少しお話がありますので」
「……」
「は、はぃ!!」
増田の言葉を遮る麗奈に言葉を挟まれてしまい最後まで伝えられなかった。無言となり微妙な表情を作る。
理事長の麗奈から直接退去願いを伝えられた一ノ瀬は先程までの怯えようが嘘の様になくなり。増田から離れる際、少し名残惜しそうにしながら離れ理事長室を後にする。
「……」
「……」
残されたのは増田ただ一人だった。そんな増田に対して何がそんなに楽しいのか満面の笑顔を向けてくる。
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