第53話 催しを終えて①
◆
「──師匠、増田師匠。本当に、私で、良かったのですか?」
おもてなしバトルで増田から選ばれた人物は一ノ瀬だった。
そんな一ノ瀬は今も和服のメイド服姿で少し不安そうな表情で近くに座る増田に質問する。
「良いも何も俺が決めた。選んだことだからな。祈が心配することはないよ」
一ノ瀬の質問に適当に答える増田。
「それはそうなの、ですが。その、あの、うぅ」
「ん? どうかしたのか?」
「あ、いえ。なんでも、ありません」
姫乃と琴音の雰囲気に気付いていない増田にどう答えたらいいかわからなかった一ノ瀬は黙認をする。
「そっか。それにしても……」
一ノ瀬との話をやめた増田は自分達が今いる場所を見渡す。
今、増田達がいる場所は東堂家の敷地内にある「
因みに他の生徒達も増田達とは違う部屋にいる。
「……こんな場所があったとはなぁ。選んだ人物と帰りの時間まで二人だけの部屋でまったりと過ごす、か。あれかね、優勝した人物への労いの言葉をかける場所とか?」
「さ、さあ? 私も何も聞いていなかったのでわかりません。ですが、こうして師匠と話せる機会が作れたこと、よかったです」
「俺も同じだ。修行の成果とは言わないが、祈の話を聞きたかったからな」
そんな増田の言葉を聞いた一ノ瀬は嬉しそうに自分の成長した勇姿を話す……ではなく、暗い表情を作ると俯いてしまう。
「……」
「えっと、祈? どうかしたのか? 体調でも悪くなったか?」
一ノ瀬から今回の「遠足」でのお話を聞けると思っていた増田は思っていた展開とは違かったので戸惑ってしまう。
本来なら「話したかった友達が出来ました」や「師匠のおかげです」など言われると思っていた。
もしかしたら「本庄君のこと、気になっているんです」などと言われて次は恋愛について聞かれると思っていたから色々と考えていた。でもなんだか違うようだな。今は一ノ瀬ちゃんが、伝えてくるのを待つしかないか。
そう思った増田は一ノ瀬をジッと見つめながら話を振られるまで待つことにした。
そんなことを増田が思ってから少し経ってからだろうか。一ノ瀬がおもむろに立ち上がったと思うと増田の元にゆっくりと近付いて来る。今も顔を俯かせている為表情は伺えない。それでも近付いてくる一ノ瀬に対応する為増田は言葉を待つ。
「……ごめんなさい!!」
「え?」
待っていた増田に一ノ瀬からかけられた言葉は「感謝の言葉」でも「嬉しかったことの話」でもなく、謝罪の言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます