第5話 小春からの刺激。
静かな職員室で仕事に専念している二人。
ぼーっとしてノートパソコンを見るさくらの口角が上がっていた。隣席でプリントを用意している「
「どうした…?なんかいいことでもあった?」
「うん?別に…?」
「さくら、今日はなんかテンション高いね…」
「へへへーそう?」
やっぱり何かあったと直感した小春がさくらに近づく。
「話しなさい!なんだ!彼氏でもできた?」
「え…?そんな…ことないよ。」
「本当…?」
小春から目を逸らしたさくらは一人で顔を赤めていた。後ろからさくらの背中を見つめている小春は「パッ!」と何かを思い出して、さくらの肩に手を乗せた。
「あれかー?へえー」
「な、何が…?」
自分の気持ちをバレちゃったようなリアクションをするさくらを見て口角をあげる小春は確信を持つ、それは女の直感であった。
一か八か、小春は自分のあて感に全てを任せた。
「さくら、彼氏できたよね?」
「え…!」
びっくとするさくら。
———1週間前。
「全く…さくらは恋愛とかしないの?友達として心配だよ…」
生ビールを一気飲みした小春がテーブルに頭を置いてさくらに話した。
「いきなり、恋愛…?」
「そうだよ!」
これは仕事が終わった夜。近所の居酒屋でお酒を飲む時の話、この流れになったきっかけはある男たちのナンパから始まる。
「あの…スタイルがいいですね!」
「うん…?」
と、隣席の男性がさくらに声をかけてきた。
長い茶色の髪に酔ってとろんとした目でお酒を飲むさくら、その姿に気づいた男たちが寄ってくる。ますます近づいてくる男たちはさくらに話をかけたり、自分のスマホを出して電話番号とL○NEを聞いていた。
「いらない…!」
と、小春がさくらの代わりにナンパをする男たちに答えた。
「小春…」
「あの…私はこちらの方に…」
再びさくらにL○NEを聞く男たち、そしてその男たちから背を向けるさくらは酔っ払った小春の背中を撫でてあげた。すると、後ろから聞こえる男たちの声にムカついたさくらが振り向いてため息をつく。
「あの…」
「あーしつこい、いらないって言ったでしょう?」
「…は、はい。」
「…」
しつこくナンパをしていた男たちは舌打ちをして店を出た。
「小春飲み過ぎー」
「さくら…羨ましいよ…」
そろそろ家に帰るつもりだったさくらに声をかける小春。
「何が…」
「おっぱいも大きいし、体細いし、美人だし…毎日ナンパされるし!」
「…小春、彼氏いるじゃん。」
「それとこれと!ちがーう!」
「どこが…?」
「知らん!あんな男たちはやりたいからナンパをするんだけど、私たちもう25だよ!さくらも早く恋愛しないと!」
「ごめん…何言ってるのかさっぱりわからない…」
大体…こんな流れだった。
「どうせ、今年のバレンタインデーもチョコとか作ってないよね?」
「…え、そうかも。」
「私は彼氏にあげたけどーさくらはいつ彼氏作るの?その前に好きな人はいる…?」
「好きな人…」
「いる。」と素直に話したいさくらは生ビールと共にあの言葉を飲み込んだ。好きな人が17歳の高校生ってことは死んでも言えないさくらだった。そのままぼーっとしてビールの飲む時、つい蓮の顔を思い出してしまったさくらは恥ずかしくてテーブルに頭をぶつける。
「さくら…?大丈夫?顔が真っ赤だよ。」
「あっ…!私も飲み過ぎ…」
お酒のおかげで自分の顔が赤くなったことにはぐらかすさくら。そして一度思い出すと頭の中からなかなか消えない蓮の顔に、我慢して前に置いているビアジョッキをいじるだけだった。
「いるし…」
小さい声で呟くさくら。
「うん?何?」
「な、なんでもない!」
———そして現在。
「さくらもエッチしたでしょう?」
「エッチ?何それ…?」
「本気で言ってるの?じゃあ、なんでそんなに嬉しそうな顔をしたの?」
「うん…?別に…」
職員室の中を見回した後、ブラウスのボタンを一つ外してさくらの方にちらっと見せる小春。
「…何それ?」
小春が見せてくれた鎖骨の下には何かに噛まれたような赤い痕が残っていた。キスマークを見ても動揺せず、首を傾げるさくらに小春は彼女の耳元でこう囁いた。
「彼氏につけてもらった…これがエッチだよ…」
「へっ…!」
小春が言った話の意味を少しは理解できたみたいで、変な声を出してしまうさくら。
———彼女はまだ未経験だった。
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