第36話 眠れない夜。
「酔いが覚めましたか…?雪原さん。」
「ううん…まだ頭が痛い…もうちょっと…」
寄り添って床に座ってる二人、穏やかな顔をしているさくらが蓮に抱かれていた。
昨日の夜、家に入ろうとする俺の手を掴んだ先生が話した。いつもの通り先生を連れてきた後、今はこうやって一緒に布団をかけている状況になった。心を癒すって言っても先生は強い人だった…あんなことがあったのに平気で会話ができるなんて、俺なら絶対無理だ。
「水でも飲みます?」
「うん…」
台所から持ってきた水を飲む先生がぼんやりしてこっちを見ていた。目を閉じたのか開けたのか…先生はすぐ倒れそうな顔をして、グラスを床に置いた。その前に座ってうとうとしている顔を見つめていたら、びくっとした先生が話をかけてきた。
「蓮くん。今何時…?」
「1時42分ですね。」
「時間速いね…こっち来て。」
「はい。」
再び、先の体勢に戻ってきた。ゆっくり息を吐いた先生が俺を強く抱きしめた後に目を合わせてこう話した。
「蓮くん…私治るかな…」
「うん…私にはよく分かりません…ただ…」
「ただ…?」
「何度も癒してあげるだけです。」
「そう…?私も蓮くんに抱かれるのが好き…」
「もう…雪原さんは寝ないんですか?今2時ですよ。」
ジャケットを脱いだ先生が前髪を後ろに流してその場から立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ寝よう。」
「はい。」
———そしてなぜか二人は同じベッドに寝ることになってしまった。
「はい…?」
今の状況はなんだろう…?でもまだ寝てないからチャンスはある、先生を家に…
「私、今日は帰らないからね。」
うん、あっさり断られた。
「ところで蓮くん。」
「はい?」
「なんでそっち向いてる?」
なんでって…てか、その前に先生が見える状況で楽に寝られると思ってるんですか…?本当に…?後ろに先生がいるのも緊張しすぎて、心臓が爆発しそうだけど…
「なんでしょう…」
「ね…蓮くん。私…やっぱり怖いよ…だから今日は一人にさせないで…」
「あっ…」
そう言えば、先生が俺の手を掴む時に見えた赤い痕…木村にそんなことをされたから、怖いのが当然だろう…なんで俺は勝手に強いと考えてたんだ。
バックハグするために後ろから手を伸ばした先生の手首にはまだしっかりその痕が残っていた。心配になって、その手を離した俺は先生の方に向いて目を合わせる。すると、こっちを見て笑う先生が手を握ってくれた。
「こっち見てくれたー」
「心配になるから…その手首。」
「うん…」
「寝ましょう…私がそばについています。」
それで何かを思い出した先生が自分の服に気づいた。
「あっ…でもごめん、着替えるの忘れちゃった…」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。」
「スカートとブラウスくらいは脱いでも平気!」
「な、何が平気ですか…それじゃ…下着だけでしょう…?」
この先生には我慢って言葉が通じないかもしれない…
「冗談よー」
「全然冗談ではなさそうです。」
「何その真剣な顔ー!」
「でも…」
繋いだ手を自分の太ももに乗せる先生、これ以上はダメですって言わないと…いけないのに言葉が出ない。こっちを見つめる先生の目と肌触りに頭が回らない…どうしよう…我慢できなくなる。
「こっち…蓮くんが触ってくれない…?」
「な、な、な、なんで…?」
「あの人に触れたところだから…」
「あっ…」
「蓮くんがこうやって優しく撫でさするのよ…」
蓮の手を動かすさくら。
「…」
「ほら…こうやって…」
手を重ねて自分の太ももを触らせる先生、ストッキングの感触もあるけど…女性の太ももって、なんか暖かくて柔らかい感じがした。あ、人の体は大体そうだよね…
頭がおかしくなってしまう…!あ…!どうしよう…!
「あっ…!」
「へ、変な声出さないでください!」
さらにくっつく先生との距離が近すぎ、すぐ前に顔がいてお互いの鼻が触れそうになる…
でもそんなことは気にしない先生だった。体を触る俺の手が震えていることにニヤニヤして耳元からこう囁いた。
「こう撫でて…先生を満足させて、蓮くん。」
「…変なことは禁止です!禁止!」
「え…」
「もう…教師ってことを自覚してください!」
「ここまできて説教なの…?静かにしないとキスしちゃうよ…?」
あ…もう…先生のことは知らない…!
「…」
さくらもそれなりに考えがあった。蓮に心配をかけたくないから、強いてテンションを上げている。壊れた心は蓮が癒してくれるから…その代わりさくらは少しだけでもいいから明るい女の子でいたかったのだ。
「実は怖いよ…蓮くん…」
———その夜、4時まで寝られなかったさくらは蓮に抱かれた後にぐっすり寝入る。
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