第15話 お花見をしよう。−3

「わー!綺麗!」


 さすがに桜名所、人も多いけど桜も満開だった。吹いてくる風に舞い散る桜を見つめて、俺たちは空いている桜木のところに座る。去年まで一人で見ていた桜を今年は先生と一緒に見るのが嬉しくて、さりげなく考えた言葉を口に出してしまった。


「桜…綺麗…」

「えっ…?」


 変なことを言い出してびっくとした俺はお茶が入っているペットボトルを落としてしまった。


「あっ…!」

「蓮くん…!」


 情けないことを…やっちゃった。

 すぐハンカチで濡れたところを拭いてくれる先生に何か言われそうだ。俺はなんって不器用な人間だ…カッコいいところを見せるのは無理だよな。このままじゃ…


「バカ…自分で言ってびっくりしないでよ。」

「…はい。」

「じゃあ、お昼食べよう!今日はお弁当を作ったからね!後でデザートもあるよー」

「わー!」


 先生が作ったお弁当、その中が輝いてる。


「美味い…美味い…」


 おにぎりと唐揚げを食べた俺は先生の料理に感動しちゃって涙を流していた。夢中に食べていた俺は弁当のおかずに気づいてしまった。その中にはなぜか俺の大好物ばかりで、少しは不思議だった。


「美味しい?よかった。」

「はい…」

「蓮くん、あーん。」


 ミニトマトを食べさせようとする先生の姿にすぐ口を開けて「あーん」した。その後、先生からいろいろ食べさせてもらって、もぐもぐ食べながらお花見をしていた。そばでゆっくりコーヒーを飲んでいる先生は大人しくて、すごく余裕がありそうな顔をしていた。


「なんか…すごくいいですね。ここは…」

「うん…そうね。」


 そう言ったさくらが蓮の方に体を近づいていた。


「次はデザートだよ。友達にもらったけど…私甘いもの食べられないから…」

「はい、大丈夫です。」


 こっちを見て笑って、お昼の後も先生にケーキを食べさせてもらった。先生は甘いものを食べられない、その事実は先生と俺二人しか知らないことだった。周りの人や一番親しい人にも言ってなかったから、先生はプレゼントとして甘いものをいっぱいもらっていた。


「はい、蓮くん。あーん。」


 フォークで切ったケーキの上に桜の花が落ちたけど、気にせずケーキを食べた。甘いものを食べる度、先生のその嬉しそうな顔が見られるから俺も好きだった。そしてこうやってこっそり手を重ねて、お花見を続けるのもなかなか楽しいし。


「ケーキ美味しい?」

「はい。美味しいです。」


 少しでも動いたら、すぐ触れる距離に先生がいた。

 そして二人で眺める桜、でも俺には今他の危機が迫っていた。お昼いっぱい食べたせいかな…なんか食後の眠気が…それより今日もあまり眠れなかったし、いけない本当にくるぞ。


「桜は本当に綺麗だよね…蓮くん。来年…も…」


 さくらの肩に頭を乗せて目を閉じる蓮、そしてびくっとしていたさくらはしばらくそのままじっとしてお花見をする。けど、そばで寝ている蓮に気を取られてしまったさくらは蓮の頭を撫でながらその寝相を見ていた。


 今の彼女には桜より蓮の方がもっと見たかったかもしれない。


「あ、そうだ…失礼します。」


 何かを思い出したようなさくらは蓮のジャケットからスマホを探した。蓮の体に手を出すのは少し恥ずかしかったけど、スマホをすぐ見つけても顔を染めるさくらだった。


「あった!えっと…パスワード…パスワードは。」


 ———もちろん、彼女は知っている。


「パスワード…私の誕生日…まだ変えてない…」


 そして蓮のスマホで写真を撮った後、写真を確認してからすぐポケットに入れておいた。そのまま蓮に膝枕をしてあげて黙々と蓮が起きるまで時間を過ごしていた。


「まつ毛も長い、顔も可愛い…蓮くん…」


 寝ている彼の顔を触って、彼女なりに欲を満たしていた。


「あ…寝落ちしちゃった…」

「よく眠れた?」


 目を覚めた時にすぐ先生の顔が見えてなんとなく目を閉じてしまった。


「もう帰ろうかな…?」

「あっ…時間が…すみません。途中に寝落ちして…」

「ううん…いい思い出ができたから大丈夫だよ。」

「え…」


 そして俺たちは初めてのデートを終わらせて家に帰ってきた。でも、俺のせいでせっかくのお花見が無駄になってしまったから、それだけは先生に謝りたかった。


 スマホを出してL○NEアプリを開こうとした時、背景画面がちょっとおかしいと思った俺はアプリを閉じてすぐホームに戻る。


 すると、そこにはなぜか俺と先生のツーショットがあった。


「何これ…?え?いつの間に…?」


 写真には寝ている俺の頬に口づけをする先生の横顔が写っていた。そしてカメラを持っていない手を首の後ろに回してあごを掴む、写真はまるで先生の所有物ってことを主張するように見えていた。


 ———その時、頬に口づけをするさくらの鋭い目がカメラを向いていた。

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