第53話 悩みは。−2

 夕食を食ベている時も一人で浮いているようなこの雰囲気。黙々と食べる朝陽と今田は何を考えているんだろう…朝陽の話によると今この場にあの子がいるってわけだ。俺がその事実を知ったとしても何一つ変わらないのに、あの子はその場で告白でもするつもりかな。


「分からない…」

「うん?何か言った?」

「いや…プリントのこと。」

「なんって書いてたの?」

「集団活動をする時に一番大事なこと…?って書いていた。」

「へえ…頑張ってー蓮くん。」

「うん…ありがとう。」


 優しく話をかける結菜を見つめる香奈とみゆき、焦っているみゆきと違って香奈は結菜と話す時を待っていた。まずはこの発表が終わった後、部屋でゆっくり話をしたかった彼女は黙々と時間を過ごしていた。


 そして夜の7時。全員集まった会議室の中から先もらったプリントの主題に対して、委員長たちはそれぞれの考えを発表していた。もちろん、この人たちのせいで頭が複雑になったから俺のプリントには何も書いていない白紙だった。


「はい、7組はいいです。えーと、次は4組が発表してください。」


 先生に呼ばれた。


「4組の主題はなんですか?」


 先生がこっちを見ている、いや…少し緊張してきた。


「集団活動をする時に一番大事な要素はなんですか?です。」

「それでなんだと思います?」


 正直言うと俺にも分からない、集団活動みたいなことは今日が初めてだし…

 集団活動じゃなく、俺に足りないものがあるとしたら…それは多分「コミュニケーション」じゃないかと思っていた。今まで悩みとかを一人で抱えてきた俺には、多分それが一番大事なことじゃないかな、それは個人としても集団としてもだ。


「秋泉さん…?」

「それはコミュニケーションだと思います。」

「へえ…なぜそう思いますか?」

「個人と個人の間でできた問題、それぞれの足りない部分を話し合ってからこそ一つに合わせるのかできると思っています。」

「そうですね。コミュニケーションは…うんうん。」

「そして…」


 なぜこんな話をしたのか、その時の俺にもよく分からなかった。


「うん?」

「そして…人に伝えなかった気持ちと言えなかった事実などがあったとしても、その隠していた気持ちと悩みをなくす唯一な方法だと思います。だから、私はコミュニケーションが大事だよ思います。」

「うん、いいです。」


 なんか変なことを言っちゃった気がする。てか、白紙だからなんでも言わないと…いけない状況だ。理解してくれ、みんな…


「はい、これで今日の日程は終わりです。今からは自由に行動してもいいですー」

「はーい!」


 やっと今日の日程が終わった。少し時間もあるし、一人で施設の外を見回ってみようか…暇だから。


 ———人けがない、施設の外。


 もう寝る時間になったけど、一人でけっこう遠いところまで来ちゃった気がして隣のベンチに座っていた。夜9時を映し出したスマホの時計、俺が寝るにはまだ早い時間だった。ちょっとだけ、こうやってぼーっとしたい…


「夜の風は気持ちいいな…」


 吹いてくる風を感じながら目を閉じた時、静まり返る世界…


「みんなは寝てるのに蓮くんは寝ないの…?」

「先生…?」


 ジャージを着て俺のところにくる先生は少し息を切らしていた。俺を探してたのか…


「先に出るのを見たから。」

「あ、座ってください。」


 ジャージを着た先生もすごく綺麗でその横顔から目を逸らさなかった。これもこれなりに可愛いから、ベンチに置いていた先生の手をこっそり繋いだ。


「ジャージだからジロジロ見ないでよ…」

「何を着ても可愛いからいいですよー」

「バカ…」


 外で手をこっそり繋いでも先生は嫌がらなかった。むしろ先生の方からぎゅっと握ってくれて、急に恥ずかしくなってきた。俺から繋いだのになんで…こっちが照れてるんだ。少しの静寂が流れた後、先生から話をかけてくれた。


「蓮くんはコミュニケーションが大事だと言ったよね?」

「はい。」

「それ…口で言うことだけなの…?」


 ちょっと照れてる先生の声が聞こえてこっちも顔を赤めていた。先生が言いたいのがなんとなく分かる気がした俺はその場で少しためらっていた。すると、返事をせきたてるように強く握る先生の手、俺はその横顔を見つめて答えた。


「いいえ…」


 足を地面にバタバタする先生がそばからさりげなく話した。


「あ…ギューしてほしいな…」


 何、この可愛い言い方は…?

 お…ちょっと心臓が勝手にドキドキしている。


「ほしいな…」


 これはやってもいいってこと…?やってもいい?本当にいい…?心の中で決めた俺は周りを見回して人がいないのを確認した後、繋いだ先生の手を引っ張ってすぐ抱きしめる大胆なことをやらかした。


「あっ…」

「…先生が…先生が欲しがっていたからですよ。」


 外で先生を抱きしめるなんて…本当にいいのか、ふと思い出したその不安さえ消えてしまうほど、先生に癒されていたんだ。そしていつもそうだけどこの抱き心地がすごくいいから、このまま世界が止まってほしかった。


「あ…蓮くんの匂いがして…安心する。」


 匂いを嗅ぐ先生が鎖骨の辺りを軽く噛んだ。


「…はっ。」

「えへっ…なんで恥ずかしい声を出すの?この変態…」


 にやつく先生が胸の中で恥ずかしいことをしている。そして背中を掴んでギューと、くっついて離れようとしない先生と俺は深まる夜の中で密かに二人の秘密を増やしていた。


「蓮は私の前で照れてるのが一番可愛いからその顔をもっと見して…」

「変なことを言わないでください…」


 ———これは誰でも言えない、二人の時間だ。

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