第49話 お昼を作る。

 今日のスケジュールによると各学級委員はそれぞれの昼飯を作ってから施設の掃除をすることになっている。初めてだからよく分からないけど…どこがリーダーズ研修だ。「みんなで何かをする。」それからチームとしての集団活動や意思決定、コミュニケーションが大事だと言いたいんだろう。


 大体それくらい…かな。

 荷物を部屋に置いてから俺たちは先の場所に集まる、まずは施設の後ろにある炊事場で先生から料理に使う材料をもらってきた。


「さて、今から昼食を作ります!材料は各クラスに与えられた分だけ、4人分は作られると思う。頑張ってね!」

「はーい!!」

「そしてデザートもあるから、はい!スタート!」


 と、言った先生が監督するために椅子に座る。

 でも、それよりこっちを睨んでる気がした。とにかくなんでも作らないと、お腹も空いたし…一応話してみよう。


「何を作る?」

「肉だ!肉を焼こう!」

「…」

「朝陽はいい、今田と白川はどう?何か作りたいことはある?」


 黙々とこっちを見つめる二人、これはまずいな…二人とも何も考えていないのか。仕方ないか…


「分かった。なら一応俺が適当に作る、ご飯を炊いた後は3人が適当になんでも作ってくれる?」

「おう!任せろ!」

「ちなみに、俺は料理下手だから味は保証しないぞ。」

「任せた!蓮ー!」

「蓮くん…!私が手伝うから!」

「うん。」


 朝陽と今田がご飯を炊いている時、用意された材料の中から今日作る料理に必要なものを取ってきた。


「野菜いっぱいだね?何を作る?蓮くん。」

「ぎせ焼きと、豚肉があるから豚汁かな…」

「ぎせ焼きって…何…?」

「よく分からない、前にいとこが見ていたアニメに出た料理。作るのは初めて。」

「へえ…そうなんだ。私は何をすればいい?」

「豚汁に入る野菜、切ってもらえるか?」

「オッケー」


 そしてすぐぎせ焼きを作り始めた。豆腐の水分をとりながらほうれん草とにんじんを細く切る、フライパンごま油をひいて先に切った野菜を入れた。その上、砂糖と醤油そして料理酒を加えて炒める。


 しばらく料理に集中していたら、隣で野菜を切っていた白川の不自然な動きを気づいた。


「あっ!」

「どうした?」

「包丁で指を切っちゃった…」

「まじ…?手を出せ。」


 白川の指先から出る血を吸う蓮が朝陽に声をかけた。


「朝陽、先生から絆創膏をもらってくれない?」

「どうした?」

「白川が指を切っちゃったって…」

「わ、分かった!」


 朝陽が絆創膏を持ってくるまでしばらくそのままじっとしていた。口の中から血の味がする、この馬鹿…野菜を頼んだのに自分の指を切ってどうすんのよ。


「ごめん…」


 その時、向こうでご飯を炊いていたみゆきが結菜の指を咥えている蓮に気づいた。下から目を閉じて自分の血を吸っている蓮を見つめる。すると、向こうから睨まれていた結菜はみゆきに向いてにやつく。


 みゆきは何かに気づいたような顔をして拳を握る。


「蓮!」


 そのうち、先生から絆創膏をもらってきた朝陽が俺に渡した。


「ありがとう。はい、白川これあげるから手を洗って絆創膏を貼って。」

「う、うん…」

「大胆だよなー蓮!」


 隣に来て背中を叩く朝陽が俺を見てにやついていた。


「何がだ。」

「白川の指を咥えるなんて…ロマンチックだな。」

「はっ?お前、暇だったら白川が切っていた野菜を切ってくれ。」

「はいはい…」


 そして水分を取った豆腐に卵、先の調味料を入れてよくかき混ぜる。後はごま油をひいたフライパンに黒胡麻を軽く炒めてフライパンの中に広げる。そしてその上に残りを全部入れるだけ、卵焼きみたいな感じで作る。これで簡単に作られると思うけど、味は保証できない…今日初めて作ったから…


「おいーそっちはどー?」


 意外と豚汁を作っている今田と朝陽にびっくりした。


「できるならさっさとやった方がいいだろう…」

「豚汁くらいはできるからー!蓮!任せろー!」

「ご飯は炊いたし、白川とサラダを作ってきたよ。」

「二人ともありがとう。」


 一人で全部やろうとしたけど、やればできるじゃんお前ら。

 そして俺たち4人は「ぎせ焼き」「豚汁」「サラダ」追加で白川が作った「卵焼き」までなかなかいい絵になっていた。これが一緒で何かをするってことか…ちょっとだけ楽しかったかも…


「そろそろ食べようか?」

「いただきまーす!」

「これ!蓮が作ったぎせ焼き?これ美味いよ!」

「あ、本当だ!」

「お?それはよかったな。」

「蓮くん、美味しいよー」


 こうやって4人でお昼を食べるのか、炊き立てのご飯も美味いけど…やはりみんなで作ったからもっと美味くなってるんじゃないかと思う。たまにはこんなことも悪くないな…


「あーん。」


 いつの間にか隣にきた先生は俺が作ったぎせ焼きを食べていた。


「へえ、美味しい。本当だ。」

「先生…」

「よくできたじゃん。」

「は、はい。」

「フフッ、頑張ったよね。」


 俺が作ったぎせ焼きを褒めてくれた。頭を撫でてくれた先生がこっちを見て笑う、近い距離で先生の顔を見た俺は照れるその気持ちを抑えていた。そして静かにお昼を食べていた俺は数秒間、ぼーっとして豚汁を見つめていた。


 ——————

 

 星野ゆいと、

 昨日、氷菓を見てぎせ焼きを作ってみましたが…黒い化け物を召喚してしまいました。小説の中でもいいから、よくできて欲しかったんです…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る