第50話 お昼を作る。−2

「ケーキを配るよー!」


 お昼を食べた後、先生と次いで施設に到着した小春先生がデザートを配っていた。先に先生から4人分をもらってみんなのところに戻ると、すごく我慢したような今田がケーキを持っていく。


「わー!ショートケーキ!」

「可愛いな…香奈ちゃん。」

「そんなに好きなのか…」


 幸せそうな顔をしてケーキを食べる今田の姿から先生を思い出した。先生にも今田みたいに甘いものを食べられる日が来るかな…

 てか、今は先生の心配をする時か…先の話は冗談じゃなかった。白川もあいつらと友達だったのか、わざと親しげに声をかけたのはなんのためだ。てか、今更昔の話を口に出す白川の本意が知りたかった。


 お父さん、やはり俺はまだ慣れていないかも…


「白川。」

「うん?」

「ショートケーキは好きか…?」

「うん…そうなんだけど…?」

「俺の分もあげる。」

「え?いいの?」


 ケーキを白川の前に置いて席を離れる。まだ施設の掃除まで時間があるからちょっとだけ気晴らしに施設を見回ることにした。


「れ、蓮くん!」

「蓮のやつどこに行くんだ…」


 席を離れる蓮に気づいたさくらがショートケーキを持ったまま、蓮について行く。


「けっこういい施設だな…このままぼーっとして何もしたくない。」

「それはダーメ!」


 施設の後ろにあるベンチに座って独り言を言ってる時、後ろから先生の声が聞こえてそこを振り向いたら先生の人差し指が俺の頬を刺した。なんか指先が冷たい、先までケーキを配ったせいかな…


「あー!大成功!」

「なんですか…子供でもあるまいし。」

「たまにはこんないたずらもしたくなるよ。」

「大人気ない…」

「と、言っても心は可愛いと思ってるんでしょう?」

「全然…」


 いきなり変なことを言い出す先生に照れて目を逸らしたら、隣に座る先生がこっちを見て声をかけてくれた。


「蓮、今日は可愛い女の子とくっついて気持ちよかった?」

「えっ…?いいえ…別に。」

「やっぱり、何かあったんでしょう…?」


 あれ、普段通りに責められると思ったけど…なんで分かるんだ。


「なんで分かります?って顔をしてるね。蓮の顔、見れば分かるよー」

「そうですか…」

「私は蓮のことを信じるって言ったから。でも、浮気とかじゃないよね…?」


 と、言っている先生の顔が怖いんですけど…いや、普通に顔で悪口をされる感じだこれは。でも、今まで一緒に過ごした時間があるから先生も俺のことを少しずつ知っていたんだ。


「へっ…?俺はそんなクズじゃないんですよ。」

「分かる。蓮は私が好きでしょう?」


 蓮の気持ちを確かめるさくら。


 俺の顔が落ち込んでいるように見えたのか、こっちから見える先生はちょっと悲しい表情をしていた。そう言った先生は俺の手に手を重ねて目を合わせた。この顔を見ていると、癒される…嫌なことが消えてしまうような気がする。先生が一番好きだ…


「はい…」

「何かあったら私に言って。」

「はい。」

「それと、あーん!」


 隣に置いたケーキを切って俺に食べさせる先生。


「なんで、いきなりケーキ…?」

「先、白川ちゃんにあげたんでしょう?蓮くんの分。」

「もう…いいですよ。この状況を他人に見られたら危険です…」

「だから早く食べて、あーん。」

「あ…ん。」


 やっぱり甘いじゃん…


「どー?甘い?」

「はい。」

「可愛い、落ち込まないで…蓮くん、何かあったらすぐ私に言ってね。」

「はい…」


 なんだ…俺は先生に気遣われてたんだ。

 もう言わなくても大体のことは分かるってことか…先生も俺も、もう半年だ。


「蓮くん!」


 そろそろみんなのところに戻ろうとした時、曲がり角から俺の名前を呼んだ先生があっかんべーをする。ぼーっとしてる俺の顔を見て、にこりと笑みを浮かべた先生は手を振って先に足を運ぶ。


 本当に可愛い人…


「そろそろ、集まってくださーい!」


 少しは気晴らしになったかも…

 各クラスの人たちが揃って先生の話を聞いていた。説明が終わった後、各クラスの委員長は先生からプリントを一枚もらう。そして今晩寝る前にプリントに書いている主題に対して発表があるらしい…


「また…めんどくさいことが増えた。」


 さりげなく先生の方を睨んだけど、笑顔で返す先生には敵わなかった。


「反則…」

「うん?どうしたの?蓮くん。」

「な、なんでもない…」

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