第51話 動き出す。

「うあああー!掃除やりたくねぇー!」

「ちょっと、朝陽!」


 ほうきで地面の落ち葉を掃いていた朝陽がその場で座り込む、20分しか経ってないのにぶつぶつと言う朝陽の背中を叩いた今田が朝陽に抱きつく。顔を合わせて笑っている二人を見ていると、なんか泣きそう…掃除をしてる俺は見えないのかよ。

 この馬鹿たち、ここに来てもイチャイチャするのか…だからカップルって…


「お前ら…仲良いな…」

「わーい!」

「白川…?」


 仲良い二人の姿。朝陽に抱きつく今田を見て、二人の真似をする白川が後ろから俺に抱きついた。背中から感じられる白川の感触にびっくりして体が固まる、ここまでするとは思わなかったから小さい声で白川に話した。


「白川、誤解を招く振る舞いはやめた方がいいと思う。」

「ちょっと抱きついただけじゃん。」

「分かったからもう離れて。」


 後ろから抱きついた結菜は向こうで掃除をしているみゆきの方を見て、彼女に見せつけるように蓮を抱きしめた。嬉しそうな顔と恋に落ちた乙女みたいな行動、みゆきのことを意識していた。


 くっついている二人に気づいた朝陽と香奈、そしてみゆきもその二人を見ていた。


「フフフッ、びくっとした?」

「あのさ、白川。ちょっと話があるから…」

「うん?いいよー」


 みゆきの方をちらっと見た結菜が蓮について行く。そして向こうの掃除をしに行く二人を見つめる朝陽と香奈は遠くからみゆきに手招きして呼び寄せた。


 一方、結菜を人けがないところに連れてきた蓮が話を始めた。


「どうするつもりだ…なんで抱きついたりするんだ。白川…」

「嫌だったの?」


 首を傾げて聞く結菜。


「話したいのはそれじゃない、何が欲しいんだ。それが知りたい。」

「別に蓮くんに欲しいことはないんだけど…?」

「手を繋ぐことまでは我慢できるけど、それ以上は困るからやめてほしい…それだけ、それだけだ。」

「へえ…私が嫌って言ったらどうするつもり?」


 白川が欲しがっているものはなんだろう。分からない、俺に何も欲しがってないけど、自分に従ってほしいのか…なら欲しいのは俺じゃなくて俺を通して達成できる何かにあるんだ。


 そのために俺が必要とするんだ…今、推測できるのはこれくらいだった。そして悩んでいる俺に目を合わせた白川は俺の頭を撫でてこう話した。


「蓮くん、あの子…まだ怖いでしょう?」


 名前を口に出さないで…

 嫌だ…


「…」


 名前すら言ってないのに、結菜の一言を聞いた蓮がその場で怯えていた。それで心配になったのか、蓮の頭を撫でてあげる彼女は彼を安心させるためにこう言った。


「私も蓮くんと同じだからね。」

「…」


 その話の意味はなんだろう…頭が真っ白になって何も思い出せない。


「私によく従ってくれれば、早いうちに蓮くんの前から消えてあげる。」

「消えてあげるってどう言う意味だ。」

「それは後で教えてあげる。」


 人の話し声に気づいた結菜が蓮の肩に両手を乗せてこう言った。


「どうする?私に従う?あるいは…」

「白川、一つだけ聞いていいか?」

「何…?早く言って、時間がないから。」

「お前、俺のこと好きじゃないんだろう?」

「…」


 これだけ、確かめたかった。白川が何を考えているのかはもういい、最悪よりマシな次善を選ぶ必要があった。自分の口で早いうちに消えてあげるって言ったから、聞きたいのは事態が丸く収まった後に聞いてみよう。


「うん、そうだよ。」

「分かった。その話に乗ってあげるから、後で聞かせてくれ。」

「うん。話が終わったら私を抱きしめて…蓮くん。」

「…分かった。」


 全く理解できない状況の中で俺は両腕を広げる白川を抱きしめた。すると、曲がり角から人の話し声が聞こえる。それに気づいて白川と離れようとしたら、なぜか力を入れてもっと強く抱きしめる白川だった。


 今の状況が誰かにバレるかもしれない時、白川は耳元からこう囁いた。


「これは蓮くんと私のためのことよ…じっとして。」

「…」


 一か八かだ。もう、分からない…


「一体、どこに行ったんだ…二人とも…」


 朝陽の声が聞こえた。


「蓮くん…大好き!」

「っ…!」


 さりげなく声をあげる結菜。


「なんか、聞こえたんじゃない?白川ちゃんの声?」


 朝陽、香奈そしてみゆきがそれに気づいた。急いで曲がり角から出た3人は抱きしめている二人を見つけて、その場で立ち止まる。ショックを受けた香奈とみゆき、そしてこの状況に慌てる朝陽が両方を交互に見ていた。


「二人…」


 蓮の胸に顔を埋めて向こうをちらっと見た結菜がにやつく。

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