第48話 リーダーズ研修。−2
人数チェックが終わった後、一人ずつバスに乗って俺たちは目的地に向かっていた。真ん中の席、窓側の席に座って外を眺めていたら隣席に座る白川がまた親しげに話をかけてきた。でも、どうやってこの状況を先生に説明するのか…外を眺めながらそれだけを考えていた。
「ねね、蓮くん!」
「うん…?あ、うん。」
「外に何かあるの?」
「いや、ちょっとぼーっとしていた。どうした?白川。」
白川の方を見た。すごく嬉しそうなその顔の意味をよく分からない、教えてほしい白川は何が言いたいんだ…?
「ね、蓮くん。」
「何…」
再び、蓮を呼ぶ結菜は彼の腕に抱きついた。かなりのショックを受けた前席のさくらと後ろに座っているみゆき、二人は静かにその怒りを抑えていた。そもそも、自分の気持ちを話す立場ではなかったから黙々と二人の話に耳を傾く。
「嫌じゃないよね…?私から抱きついても?」
「はっ…?いきなり、何を…」
「蓮くん、耳を貸して…」
笑う結菜が蓮の耳元でこそこそ何かを話した。
「…どうして、俺にそんなことを話すんだ。白川。」
「フフッ、私は蓮くんの味方だからね。」
「そんなこと、俺には関係ない…」
「蓮くんは逞しくてカッコいいね、ちょっと肩を貸してくれる?」
「断る…」
「本当…?」
「…あ、もう。分かったよ。」
「へへ…蓮くんが嫌だったら私は黙ってあげる、その代わりに私に従って…それくらいはいいでしょう?」
何も言えなかった。怖かった…耳元で聞こえるあの名前が、白川はあの時にあったことを知っている人だった。だからこうやって親しげに話をかけるのができたんだ…もう、そんなことはどうでもいいけど…やはり思い出せるのは嫌だった。この話は誰にも言えない…
このまま白川に従えば、いいんだろう…それでいいんだろう…?
「へへ…朝早く起きたから急に眠くなってきちゃった。ちょっとだけ、寝てもいい…?」
「うん…目的地に着いたら起こしてあげる。」
「うん!ありがとー」
そうやって白川が俺の肩に寄りかかって目を閉じた。もう、これは先生に100%嫌われるよな…ちゃんと説明しないといけないのは分かっている、でも…話したくないんだ。俺はそれを忘れたまま、普通に生きていきたかった…クッソ。
蓮と結菜の方を見つめていたのはさくらとみゆきだけではなかった。お互いの顔を合わせた朝陽と香奈カップルもこの状況を後ろから見ている、むしろすごく意識していた。この研修でみゆきを手伝うつもりだった二人の計画が水の泡になるところで、慌てる香奈が朝陽にこそこそ話をかけた。
「朝陽…あれ、何…?」
「分からん…二人はそんな関係…?」
「私にも分からないよ…」
「…どうする?白川と話してみる?」
「そんなことできるわけないじゃん…」
「まずは…着いてから山口と話し合おう。」
「うん。」
白川結菜、黒いセミロングで明るい女の子…こうして見ていると山口と似ているようなスタイルだった。その大きい目で俺を見つめると、相手の心中をちゃんと見抜いているような気がした。
これは先生とは違うプレッシャーだった…
「そろそろ、目的地に着きますよー」
車内の放送で流れる声を聞いて、すぐ白川を起こした。
「着いたぞ。起きて、白川。」
「うん…ちょっと疲れたかも…」
「そうか。じゃ、起こしたから先に降りる。」
カバンを取って白川の方を通って行く時、白川は後ろから俺の手首を掴んだ。すると、振り向いたところに座っていた白川が掴んだ手首を自分の方に引っ張ってこう話した。
「一緒に。」
「…あ、うん。」
「今は降りる人が多いから少しだけ待ってみよ。」
「うん…」
後ろから蓮と結菜がいる席を通って行くみゆきがちらっと二人を見る、次いで朝陽と香奈も仲良く見える二人をちらっと見てからバスを降りた。
「香奈ちゃん…」
先に降りたみゆきが香奈を見て悲しそうな顔をする。慌てる3人はまだ何も始まっていない研修の中で、すでに大事件が起きたような顔をしていた。
「へえ…ここはいい場所だよね。蓮くん。」
「そうかもな。てか、もう離してくれてもいいじゃないのか…?」
なぜかバスを降りても白川は俺の手首を離してくれなかった。
身も心も疲れる研修が始まる気がした。まだ何も始まっていないのに、さっさと終わらせて帰りたいと思っていた。そして目的地に着いた俺たちは先生から二日間のスケジュールを聞いた後、それぞれの部屋を割り当てられた。
「じゃ…荷物を置いてからここで会おう。」
「了解!委員長!」
「その言い方はやめろ…」
委員長って…恥ずかしい呼び方だ。
「委員長、分かった!」
「…」
「蓮くん、委員長!」
「おい…二人とも…」
———始まる、リーダーズ研修。
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