第18話 お別れ。−2
すごく虚しい日々を過ごしていた。
成績はますます上がるけど、どこから人生の楽しさを見つければいいのか分からなかった。先生の手紙を読んで枕を濡らした俺は毎晩ベランダに出て、先生と過ごした日々を思い出していた。
「…さくら。」
電話も繋がらない、ぼーっとしてスマホの壁紙に写っている先生の姿を見つめた。
「会いたいよ…」
すぐここに、
先生がいたのに、
どうして連絡もくれないんですか…?
なんで、何も言ってくれないんですか…手が届かない場所で先生は何を考えていますか。
日が暮れるたび、弱々しい声で俺は先生の名前を歌う。
……
「え…学年一位か…あの30点の蓮が…?」
「…そうか。」
試験など、どうせ無意味だから…大学に入れるだけで十分だった。と、言っても勉強以外に何もできないのが原因なんだけどな。少なくとも何かを覚えれば先生のことを忘れる気がして、一生懸命に勉強をした。
気づいたらもう3年が終わっていく、そんなことすら気にしないほど…俺の心は空っぽだった。
「蓮!ちょっといいか。」
「うん。」
自販機でジュースを買ってくれた朝陽と一緒に屋上に上がる。
「お前が雪原先生を好きだったのは知らなかった。」
「急に?」
「聞け、別に責めたいわけじゃないけど…ただ俺に言ってくれなかったことにちょっとだけ寂しかったかもしれない。」
「そうか…でもあの頃は…」
「そうさ、俺は目の前の目的に囚われて大事なことを忘れていた。」
朝陽らしくないことを言い出した。
普段はこんなことを言うやつじゃないのに、今日はなぜかいつもと雰囲気が違う。
「お前と友達になってからずっと思っていたのは、こいつの高校生活がこのままでいいのかと思ったぞ。だからお前と一緒に楽しい高校生活を送りたかった。」
「まぁ…そうだろう。」
「だから香奈ちゃんと付き合って、お前も山口と付き合って、そうやって俺たちの薔薇色の高校生活を送りたかった…でも、それは間違っていた。」
「何が…?」
空き缶を手すりに叩く朝陽がこっちを見る、その顔が少し悲しく見えていた。
「俺、振られた。香奈ちゃんに…」
「あ、そうか…だから初詣は一緒じゃなかったんだ。」
「あ、そうさ。その理由がさ…」
「うん?」
「もう…飽きたって、こんなことに意味なんかないって…」
「それを今田が直接お前に言ったのか…?」
「思い返せば香奈ちゃんは俺より…何かに囚われているように見えた。」
今田のことか、確かになんかしつこく…
「一緒に別荘に行った時、覚えてるのか?」
「あ、うん。」
「あの時、二人だけの時間があったけど…俺は仲直りしたと思っていたのに、香奈ちゃんの目は全然俺を見ていない。違和感がしたのは…しつこく蓮にこだわる時だった。」
「そう…俺もそれがちょっとおかしいと思っていた。嫌って言ってもお前らは俺の話を全然聞いてくれなかった。」
「そう、お前知ってるか?もうやめようって言った時に俺、怒られたぞー」
「まじか…」
「まぁ…今の蓮は山口と結ばれないから、もう興味がないって言うか…飽きたような顔をした。確かにあの噂が流行った時に振られたよな。」
「もともと、何しに付き合ったんだ…」
「分からん。」
床に座って壁に寄りかかる朝陽がすすり泣いていた。手のひらで目を隠しても、頬を伝う涙は床に流れ落ちている。朝陽もいろいろ我慢してきたんだよな…ただ今田と自分の幸せを最優先にしただけなのに、恋って難しいもんだ。
俺は静かに空を眺めていた。
「はあ…スッキリした。」
「そうか…」
「これで一緒だ。」
「何が…?」
「あの日、雪原先生の手紙を読んでいる蓮が可哀想に見えたから…」
「そうか…恥ずかしいな。」
「てか、もうちょっとで卒業だ。大学に行くつもり?」
「あ、そう。大学に行く。」
「そうか…俺たちもここまでかー」
「何変なこと言ってるんだ。卒業しても友達だから…」
「そうだろう?」
もうちょっとだけ、俺たちの卒業が待っている。何もなかった3年は思い出を作る暇もなく勉強ばかりしていた。心の底に残されたものが消える時まで、ずっとずっと何かを求めていた俺はそれでも先生に会いたかった。
ただそれしか思い出せないんだ。
「おいー今日どっかに行かない?」
「どこ?」
「山口と白川と映画でも見よう。」
「分かった。」
そう誘ってくれる朝陽の背中を叩く。
「行こう。」
本当、久しぶりに友達と遊ぶんだよな…
朝陽は楽しそうな言い方をしてるけど、その気持ちが分かるような気がした。
「それで、何を見る?」
「最近流行ってる洋画はどーだ!」
「いいじゃん。」
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