第17話 お別れ。
「あ…」
「起きた?蓮!」
目が覚めた時、朝陽の声が響いた。
白い天井が見えるのは…今病室の中ってことか、俺は硬い何かにぶつかってそれから意識を失ったよな。まだ頭が痛い…重い体を起こして病室のベッドに座ると、お見舞いに来た朝陽と山口が俺を見つめていた。
「大丈夫…?」
「あ…もしかして、丸一日気絶していたのか…?」
「…うん?」
「いや…蓮くん、一週間だよ。」
「はっ…?」
嘘だろ…一週間気絶したって…
そんなに長く気絶したのか、だから体が上手く動かないんだ。
「そうか…確かに一宮が何かを投げたことまでは覚えている。」
何かをためらっている山口が俺の顔をジロジロ見ていた。
「…」
隣にいる朝陽がみゆきの合図に気づいて病室を出た。
それを確認したみゆきは二人で残された病室の中である手紙を蓮に見せる。ちらっと見える白い手紙には「蓮くんへ」とさくらの字が書いていた。
「蓮くん。」
「うん?」
「これ…あの、雪原先生が蓮くんに渡してほしいと言われたから。」
「何?」
山口が俺に渡した手紙は先生が残したもの、嫌な予感がした。
「ちょっと読んでみる。」
「うん…」
———『さくらからの手紙』
蓮くん、多分この手紙を読んでいる時はもう私が学校をやめた後かもしれない。
大事な時にそばにいてあげられなくてごめんね。早く治って元気になってまたその笑顔も見たいけど、もう私は蓮のそばにいられない。
蓮くんが私に何一つ間違っていないって言ってくれた時、すごく悲しかった。私も蓮くんのことが好きだったから私がその責任を取るべきだったのに、むしろそれを蓮くんに言わせたような気がして、ずっと涙が止まらなくて…三日間眠れなかったよ。
転校届を出した時にこれはダメだと思ってね。だから私が蓮くんの代わりに行く、蓮くんが私のためにそれを背負う必要はないから、私はどこに行っても上手く行ける!心配しないでー!
(ところどころ、涙を落とした跡が残っていた。)
でもせっかく一緒になったのに、蓮くんと離れるなんてちょっとずるいかも。これが凶を引いたせいかな?新年の運勢など…信じたくないのに、ちょっと嫌だよね。
私はそれでも信じている。
(涙に消された部分)だよね!
私のことなら本当に心配しなくてもいいから、蓮くんは頑張っていい大学に行って!先生はずっと蓮くんのことを応援しているからー!
本当にありがとう。
また蓮くんと一緒に甘いものをいっぱい食べたいなー
あの時が来たら、二度と離れないからね。だから頑張って。
今まであったことは絶対、忘れない。愛してるよ。
蓮くん。
(涙に消された部分)。
「…」
涙が頬を伝って手紙に落ちている。
「…っ。」
「れ、蓮くん…」
「山口…」
「うん?」
「俺のスマホ…どこ?」
「あ、引き出しの中にあるよ!待って取ってあげるから。」
「ありがとう…」
俺はすぐ先生に電話をかけた。
「…蓮くん。」
こんなことを認めるわけ…
そして心が崩れる音が聞こえた。
『この電話はお繋ぎできません…』
「繋がらない…つ、ながらない…」
繋がらない、先生ともう話せないんだ。
なんだ…今の気持ちは俺は泣きたくないけど、勝手に泣いてる。ダメだ。感情のコントロールができない、人の前でこんなに涙を流すなんて…少なくとも一人にさせて欲しかった。格好悪いから…
「ありがとう…山口、手紙…を渡してくれてありがとう。」
思いっきり泣いた。
「うん…」
「なんで山口が泣きそうな顔をしてるんだ。大丈夫…」
「うん…ううん…」
初めてだったかも、山口の頭を撫でてあげた。多分その泣き顔が先生と似ていたから、あるいは一瞬だけ…先生に見えたかもしれない。
いつか、また会えるよね…先生。
家に帰ってきた時はもう先生は引っ越しを終えた後だった。
空っぽの部屋と空っぽの心がこの場に残されている。全てがなかったように、最初から夢だったように…現実からそして俺の中から消えていく。
二人で暮らした時はそんなに賑やかだったのに、一人になるとすぐ寂しくなるなんて…そんな生活に慣れていたからか。テーブルに置いていた花瓶の花が枯れてその色が褪せていく。静かに落ちる花びらを見つめながら俺はベッドで目を閉じた。
「会いたい…」
ちょっとだけでもいいから先生の温もりに触れたかった。
「また…どこかで会えますように。」
———私も先生のことを愛しています。
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