第23話 先生は俺のことが好き。
「あーん。」
「もう一人で食べるから…」
「ダメ!1年ぶりだから…私が食べさせたいの。」
「…」
雪原さんが用意してくれた夕食。一緒に食べるのも苦手なんだけど、そんな目で見られたらもっと緊張してしまいますよ。雪原さん…
空気が重い、どうかしてください先生…
こんな蓮の気持ちなんか気にしていない霧絵はにっこりと笑っていた。
「さくらちゃんはそんな風に笑うんだ…」
びくっとするさくらが霧絵の方を睨む。
「なんで…」
「前には話しかけないでって顔に出ていたから、心配してたよー」
「それは…変な人と会ってからだよ!今は大丈夫!」
「そう?いい人を見つけたよね?」
「うん!」
「あの…すみません。ちょっと…恥ずかしいんですけど…」
隣に座ってるのに、何を言ってるんだ…
「じゃあ、もう先生はやめた?さくらちゃん。」
「うん…」
そうか、先生は先生を辞めたんだ。俺は先生でいる方がもっと似合うと思ってたのに。実際先生からその話を聞くと、なんか俺のせいじゃないのかって思ってしまう。
先生は…本当にそれでいいのかな。
「よかった…」
「全然…」
手のひらを合わせた雪原さんが笑顔を作って先生に話した。よかったって、なんだろう。仕事をやめたのに、雪原さんはなぜか嬉しそうな顔をしていた。そばで拗ねる顔をしていた先生が雪原さんから目を逸らして、俺の口にお肉を押し付ける。
「家業を継いで欲しかったのー」
「知らないよ…」
「でも、さくらちゃんは去年言ったじゃん。そろそろ実家に帰るって。」
「知らない…」
「どうやら秋泉さんのおかげかもね。」
「…」
「幸せの顔が見えてよかった。」
そして茶碗を下ろした雪原さんが席を外した。
そばにいる先生が腕を抱きしめ、俺の肩に頭を乗せた。一年くらい離れていたから、先生もすごく寂しかったんだろうな。じっとして俺に抱きついた先生の頭を撫でてあげた。俺も先生とすごく会いたかったから…その気持ち…
「ハクショー!」
…分かる。
「大丈夫…?」
「ねえ…蓮くん。」
「うん?」
「鼻水出ちゃった…」
「うん、鼻かもう。」
…本当にこんな人が25歳なんて、信じられないよ。
可愛くてよく甘える先生が俺のそばにいてすごく嬉しい、食事を終えた後は風呂に入った。これも雪原さんが用意してくれて、なんか急に迷惑をかけてるんじゃないかなと思ってしまう。少しだけ、雪原さんに気遣われていることに負担を感じていた。
「はあ…」
先生の家で、風呂まで借りるなんて…
目の前のシャンプーもリンスも先生が使っていたものだ。先もくっついている時に先生の匂いがしたよな…ぼーっとして先生のことを想像したら思わず顔を赤めてしまった。
「なにをドキドキしてるんだ…」
風呂から上がって部屋に戻ってくると、先に寝床を用意してくれた先生が「ポンポン」と布団を叩いた。浴衣に着替えた先生がちょっとエロく見えた俺は、赤くなった顔を隠してしまう。いつの間にか先生に染まって、その小さい体が抱きたくなった。
「こっち!」
「えーと、なんで二つ?」
「一緒に寝よう!1年ぶりだから…そ、そばで蓮くんの温もりを感じたい…そして、そして…あんなこともこんなことも…」
「先生…いやらしい想像はやめてください。」
「…」
落ち込むさくら。
「冗談だよ。」
電気を消して先生のそばに座ると、待ち焦がれた先生が俺を倒した。薄暗い部屋の中から微かに見える先生の姿がとてもエロくて、つい顔を逸らしてしまった。久しぶりに触れるのが恥ずかしくて、ドキドキする気持ちとともに緊張感が高まっている。
すると、少しずつ俺に近づいた先生が首筋を噛む。
「あっ…」
「うん…」
我慢できない喘ぎ声が部屋の中に響く。
「似合う…その歯形、私のものにだけつけてあげる証だよ。」
「…ちょっと痛いかも、でも気持ちいいよ。」
「ねえ…蓮くん。ずっと…待っていたよ。この時を…私のものになる時を…」
「うん…さくらのものだよ。」
「ずっと…?」
俺の体に乗って敏感なところを触る先生が小さい声で囁いた。そして髪を結んだヘアゴムを外してキスをする。口の中で絡み合う舌に何も思い出せない…今の俺は先生を感じている、先生に触れるのがとても気持ちいい。
「答えは…?」
「うん…ずっとだよ。」
浴衣を脱いだ先生が下着を投げ出した。
「じゃあ…もっと気持ちいいことをしようね。」
「うん。」
「大好き…蓮くん。」
「同じだよ。大好き、さくら。」
……
二人ともすごく馬鹿だけど、二人がいて幸せになるんだ。
人と縁を結ぶのも、他人の薔薇色の人生も、その全てから目を逸らしていた。もう何もいらないって言った俺が今こうやって先生と一つになっている。とても気持ちよくて、再び薔薇色を求めてもいいのか…と思っていた。
俺が…
この馬鹿みたいな俺を…
好きになってくれる先生がとても好きだ。
とても熱い一時を過ごした。
先生との距離が縮む、あの冬から出会った俺たちは今こんな風に変わってしまった。一人だけで十分だと思っていた時間が、先生と出会って一緒の意味を覚える。
だから、先生と一生共にします。
……
「あ、そうだ。」
「うん?」
「俺、大学に受かった。」
「へえ…?本当?」
「うん。」
「どこ?A大学。」
「すごい!けっこう知られている大学じゃん。頑張ったよね!」
「うん。」
これは俺の物語。
大切な人と出会って新しい生き方を描く。
ありがとう…
——————『完』
先生は甘いものが嫌い。 星野結斗 @hosinoyuito
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