第9話 たまには先生に。−2
「はい…」
今すぐにでも爆発しそうな心臓、俺は落ち着いて先生の話に答えた。てか、自分から言っておいてすごく照れている。俺から目を逸らして頬を染めた先生は太ももと胸の間に枕を挟んだ後、自分の足を抱えて映画を見た。
そんな先生が好きで、ずっと隣にいたい…そして俺も先生に何かをしてあげたかった。
手が…手を…繋ぎたい…
「何…その顔、蓮くん顔が真っ赤じゃん…」
恥ずかしい考えが先生にバレちゃった。てか、そう言う先生の顔もすごく真っ赤なんだけど…ここは言わない方がいいかもな。
「暑くて…」
「そう…?」
と、言った先生がこっちに近づいてきた。
「…」
何も言わずに、ただ映画を見ていた。不思議だ…もう12時を越えたはずなのに寝たくない。それは多分緊張しすぎたせいかもしれない、でも先生の隣でドキドキしているこの時間が好きだ。
ちらっと先生の横顔を見て、再び映画を見る。
映画は主人公と別れた彼女が再会するシーンを演じていた。悲しい音楽と演技に見とれて、いつの間にか俺も映画の主人公たちと一緒に涙を流していた。
「蓮くん…」
映画は決して結ばれない男女二人が世間に抗う内容で、家族との喧嘩と周りのいやらしい視線にもかかわらず、どうしても愛し合う気持ちを捨てられなかった二人が最後の最後まで抗う話だ。
「…っ。」
こんなところで泣いてしまうのは情けないって分かっているけど、その内容が俺と先生みたいで涙が止まらなかった。
「蓮くん…!」
隣で蓮の泣き顔を見ていたさくらもその悲しそうな顔に涙ぐんでいた。それに気づいた蓮が床に置いているさくらの手に自分の手を重ねた。蓮の手にびっくとしたさくらは重ねた二人の手を見て、すぐ蓮の横顔を見つめる。
「あ…恥ずっ…見ないでください…」
「うん?なんで…?」
そして映画が終わるまで二人の手もそのまま…
主人公たちは結局結ばれるパッピーエンディングになって、映画は二人が幸せな日々を過ごすところまで見せてくれた。
「面白かったー!でしょう!」
「はい…!」
映画のおかげでなんとなく先生の手を触ることになったけど、このままで大丈夫かな…女性と手を繋ぐのは今日が初めてだから恥ずかしくて先生の方を見られない。先生は今、どんな顔をしているんだろう…もしかして嫌がっているのかな。
映画の後に続くエンディングクレジットが終わる時まで、二人はそのままでじっとしているだけだった。
「あの…映画…ありがとうございます。」
「う、うん!」
嫌がってない…
だって先生、先からずっとこうしていたから俺のことが嫌いじゃないんだ。俺は先生と手を繋ぐだけでとても嬉しかったから、後のことは全然考えていなかった。これでどうする…?これから何をすればいいんだ…分からない。
確かに恋人でもないし…
その一言に俺は映画の字幕「結ばれない二人。」を思い出した。確かに俺は先生の恋人になるわけがないから…それを思い出す度、俺がただの妄想をしていたことに気づいてしまうんだ。
ただの不安だった。
「どうしたの?真剣な顔をしてー」
「え…?」
「どうしたのー?」
「なんでもないです。」
「蓮くん、手…ぎゅっと握ってもいいよ…?」
「へっ…?」
本当に妄想…かな、これは。
手を重ねていた俺はそのまま先生の手をぎゅっと握った。暖かくてなんか…すごくドキドキする。これが人と繋がるって感じか…変だ…この温もりに笑いが出てしまう。
「あ、笑った!」
「え?」
「先まで落ち込んでいたからね。真剣な顔をして…どうしたの?本当に。」
「いいえ…ただ…」
「変なことを考えたよね?どうせ俺みたいな人は先生と釣り合わないとか、この映画を見てやはりこれはただの遊びとか、これは全部俺一人の妄想とか、そんなことでしょう?」
先生に俺の心を読まれたような話だった。
「だって…先生は…」
話しづらくてうじうじしている時、俺は近づく先生の顔にびっくりしてそのまま先生にデコピンされた。
「あっ…」
「何それ…不安なの?」
「ただ…好きでもない人とこんなことするのがちょっと。先生は誰にも優しいから…えっと…男はですね。あの…勘違いするから…」
映画のせいで変なことを口に出してしまった。そんなこと、知っていたけど…前から心の中に残っていた不安ってやつが言葉で出てしまったのだ。
「…勘違い?」
そう呟いた先生が俺を床に倒した後、上に乗って見下していた。
「蓮…女は好きでもない男とこんな時間に映画を見たり手を繋いだりしないよ…」
「…」
「そして好きでもない相手にこうやってキスマークをつけることもだよ…」
指先で自分が付けたキスマークを触りながら、蓮の耳元でこう囁く。
「私には蓮しかいないから…他の男はいらない…」
先生の長い髪に周りの音が遮断されたような気がした。しっかり聞こえた先生の話に息ができないほど嬉しかった。心臓が激しく動いていることに気づいて、ただ先生を見つめるだけの俺だった。
「答えは?」
「はい…」
「はいだけ…?」
「わ…たしも…先生だけです。」
「フンーもっと言ってみてー」
「…もういいじゃないですか!」
「ダーメ!もっと言ってみて。」
先生はすごく嬉しそうな顔をして俺を見ていた。
「す、好きです…!」
「ちょっと足りないけど…うん。合格だよ。」
「…も、もう。寝ます!」
「うん、分かった。私も帰るねーおやすみ。蓮くん。」
「おやすみなさい…」
そして俺の頭を撫でた後、先生は自分の家に帰った。
———俺もたまには先生にカッコいいところを見せたかったけど、手を繋ぐのが精一杯だった。
そうやって、二人とも明日の午後2時まで幸せな寝坊をした。
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