第62話 心を静める一時。−3
「はあ…ゆっくり風呂に入ってもいいのか…」
先まで先生が入っていた風呂、先生が使ったシャンプーとボディーソープで洗うことになるとは思わなかった。湯気で霞んだ鏡を拭いた俺は、そこに映った自分の姿がすごく動揺していることに気づいた。顔色も…ちょっと変だ。真っ赤だし…
「ここに着替えを置いておくねー」
「あ、ありがとうございます。」
外から先生の声が聞こえて風呂から上がる。湯気が立つ体をタオルで拭いている時、俺の体から先生と同じ匂いがした。それと同時、今からどうなるのか…心配になってきた。
「あ!蓮くん、コーヒーを淹れたから、よかったら飲んで。」
「ありがとうございます…」
「ドライヤーで髪を乾かしてあげるからこっちに座って。」
「い、いいです。自分でやります。」
「いいから…早く。」
なんか…なんか…変だ。先生の家で今先生が俺の髪を乾かしている、これは恋人じゃなくてあれじゃない…?まるで夫婦見たいじゃん。じっとしてテレビを見ていたらいつの間にか、髪がサラサラしていた。
「はい、終わりー」
「ありがとうございます…雪原さん。」
何を言えばいいのか、俺はその場で黙々と先生からもらったコーヒーを飲むだけだった。
時間は夜11時になっていた。
そろそろ寝る時間だけど、どうやら今日は大変そうになるかもしれない。それと後ろに座っている先生がにやついて、何を考えているのかよく分からない…
「そろそろ寝ようー蓮くん!」
きたー!
「じゃあ、私は居間で寝ます。」
「…」
なんですか…あの「空気も読めないバカ」って言ってるような表情は…すごい怒りを込めてこっちを睨みつける先生に尻尾を巻いて部屋に入った。
「蓮くん、蓮くん!これ要る?」
さっきの首輪を見せてくれた先生がニヤニヤしている。
「いいえ、それは要らないんです!」
「え…可愛いのに。」
「そして!雪原さん…家に他の男がいるんですよ。そのパジャマはちょっとNGだと思いますけど…?」
「別に…?何いやらしいことを考えてんのーこの変態。」
「短いから!下も上も!」
「食べないから心配しないでね。」
「…」
そしてさくらのベッドで横たわる二人。
「…」
すぐそばに先生がいるから余計に気になる…眠れない、それとコーヒーの飲んだせいでさらに眠気がなくなっちゃった。こんな状況でよくも抱きついたりするんだ…先生は。
くんくん…
「何…嗅いでるんですか…」
「蓮くんから私と同じ匂いがするから…」
「雪原さんのシャンプーだから…」
「ね、蓮くん。私たち恋人みたい!でしょうー?」
俺の胸で匂いを嗅いでいる先生が服の中に手を入れて背中を撫でさする。
「返事!」
「そ、そうかも…です。」
「蓮くんが私を慰めた時もこうやってくっついてくれたじゃん…一緒に寝たり、スキンシップしたり、そうだよね。」
「は…い。」
一方的にやられただけなんです。先生…俺は抱きしめただけで他の行為は何一つもしていません。
「大丈夫…大丈夫…私がいるから心配しないで…蓮くんのつらい思いは私で上書きししようね…?」
「はい…」
先生との距離が近すぎ…パジャマも短すぎて手が届くところには先生の肌に触れている。こっそり手を繋ぐ先生が俺を見て笑ってくれた。重ねた手から指を絡ませる先生に気づいて俺もその小さい手をぎゅっと握る、慣れないことに照れる二人はお互いの顔を見つめながら深まる夜を過ごす。
「なんか…ドキドキしてきたよね。蓮くん、心の音がうるさい…」
胸に手を当てた先生が話し続けた。
「ね、蓮くん…」
「はい?」
真っ赤になるさくらが繋いだ手に力を入れて覚悟をしていた。
「どうしました…?」
「私のこと、さくらって呼んでみて…」
「…」
「いやなの…?」
月明かりが差し込む先生の部屋で俺は今…先生に下の名前で呼ぶのを求められていた。目をキラキラしてこっちを見つめる先生、そんなに欲しがる顔をしていると、言うしかないじゃん…
「さ…くら…」
「もう一回…」
「さくら…」
「はあ…好き…蓮くんが私の彼氏になってほしいな…」
「…もう、恋人以上だと思いますけど…それより、最近の雪原さん…プラネタリウムに見た後から…なんか積極的です。」
びくっとするさくら。
「別に意識してないよ…!ちょっと…だけ、気持ちよかっただけなの。」
「やはりそれですよね。それ…私も同じです。先生とスキンシップ、したかったんですよ。我慢していただけ、その日もすごく我慢しました。気づいたら先生にキスされましたけど…」
あの時を思い出すさくらがもっと蓮に寄り添って口を開ける。
「じゃあ…もう一回しよう…!気持ちよかったらもう一回しよう!」
「部屋からするのはちょっと…明るいし…」
「いや…?いやだったら辞めてもいいよ。」
「や…やります。」
そう言ってから息が止まる数秒間、俺は先生とキスをした。いけない、先生と生徒の関係なのに…本当はやってはいけないことなのに。湧き上がるこの感情が止まらない、とても気持ちよくて先生の唇から離れたくない…そうやって壊した禁忌の壁。
その感触と温もりに触れていた二人はお互いを見つめながら息を切らす。そして目を見ただけで本能的に「足りない」と思った二人がもう一回、キスをする。それは欲しい、愛されたい、好きとあらゆる感情が込めていた一時だった。
「はあ…」
「蓮くん、もう後戻りはできないよ…」
「どうせ…大人になっても雪原さんしかいないから関係ないし…」
人差し指で俺の唇を軽く押した先生が笑みを浮かべてこう話した。
「二人の時はタメ口でさくらにしようね…」
「うん…さ、さくら。」
胸に顔を埋めてギューと抱きしめるさくらが小さい声で話した。
「誰よりも私は蓮くんがそばにいてくれるのが好き…私のワーンちゃん。次も首輪をして散歩しようね。」
「それは遠慮する…」
「へへ…ゆっくりでもいいから…早く大人になって…」
「どっち…?」
———そして、心の中に新たな一歩を踏み出す。
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