第63話 邪魔。

 ———結菜とみゆきが口喧嘩をしていたあの日。


 私は黙々と白川ちゃんの話を聞いていた。私のせいで蓮んが崖下に落ちたから、言えることはなかった。でも、それは事故だったから…別に助けを求めたわけじゃないのに、白川ちゃんに憎まれていた。


「ごめん…ごめんなさい。」

「白川…もう、いいだろう。」

「なんか変わったよね?山口さん、中学時代の山口みゆきはどうしましたー?高校デビューってこと…?」

「白川ちゃん…もう昔の話は…」


 ムカつく、なんでこの女が蓮くんと同じクラスなの…?わざとらしいその言い方も、蓮くんにくっついたりするのも…全部ムカつく。私の邪魔をしないで…この女。


「もう…二人ともやめて!」

「ねえ、ねえ!どうした…?あの頃の山口みゆきはもういないの?今の私の前に立ってるのは誰…?人に傷つけた後は自分が可哀想な人になるの…?」


 ……


「事故、事故だから…仕方がない、どうしようもない…だったら蓮くんのことはもう諦めてよ!それも仕方ないから!」


 ひどいことを言われても黙々とその場に立っていた。隣にいる香奈ちゃんが私を庇ってくれたけどね、正直…誰か殴ってほしいの。白川結菜、まだあの頃を忘れていないの…?邪魔、邪魔よ。ねえ、そんな関係が認められるわけないでしょう…?


「白川!!」


 そう、香奈ちゃん!


「何をしてるんだ…今田。お前…そんな人だったのか…」


 蓮くん…元気そうでよかった。私、蓮くんの心配をして…このクラスに来たの。分かってくれるよね…?だよね?


「秋泉くん…わたし…」

「なんでそっちを庇ってる?」


 あれ…?


「庇ってるよりお前が手を出すからだろう…朝陽、ここに立って何をしてるんだ。」


 あれれ…?


「いや、俺は…」


 なんか…逆になってる気がする…こっちじゃなくてそっちなの…?


「行こう、白川。」

「…」


 白川結菜、研修の時からずっと私に見せつけるようなそのやり方…気に入らなかった。蓮くんに抱きついたり、手を握ったり…今はこうやって私から蓮くんを奪うの…?そうさせるわけないでしょう。私はもっと見たいんだよ…蓮くんの顔が…


 そして涙を流した。


「うう…ごめんね…私が悪かった。」

「泣かないで…みゆきちゃん。」

「香奈ちゃん、俺…蓮と話してみるから…」

「いや、今はほっておいて。」

「教室まで連れて行くから、朝陽はそのままじっとしてて。」

「わ、分かった…」


 香奈ちゃんは優しい、こんな子が私と友達になってくれてすごく嬉しかった。こうやって積極的に手伝ってくれるから…私の目は間違っていない、蓮くんからあの女を引き裂くためには香奈ちゃんが必要だから。


「白川ちゃん…いい人だと思ったのに、がっかりした。」

「いいよ、香奈ちゃん。私が悪いから…」

「それは事故だよ!そしてこれと関係ない話まで持ち込んで…何が言いたいのかさっぱり分からないよ。」

「もういい…香奈ちゃん、私を庇ってくれてありがとう。」

「ううん。みゆきちゃんは私の親友だから。」


 そう、親友だから…本当にありがとう…香奈ちゃん、今からよろしくね。その前に私は確かめなきゃいけないことがある。それは香奈ちゃんの心、彼女がどう思っているのか…それを確かめるために探りを入れた。


「ね、香奈ちゃんは私と蓮くんを結んでくれるよね…?」

「うん?もちろんだよ!任せて!」

「本当…?」


 みゆきの落ち込んだ表情を見て、可哀想と思った香奈が彼女の頭を撫でてあげた。


「うん!任せて!私が全力でサポートするから!」

「ありがとう…」


 その話を聞いて安心したよ…香奈ちゃん。

 とても優しくてすぐ香奈ちゃんに抱きついた私は笑みを浮かべて香奈ちゃんを見上げた。


「可愛い…みゆきちゃん…」

「香奈ちゃん…好き…」

「任せて!」


 そしてチャイムが鳴いた。すぐ隣クラスだから香奈ちゃんに挨拶をした後、席に着く。やはり今はあの子を呼ばない方がいいかもしれない、まだ君の出番じゃないからね…もう少し、香奈ちゃんに頼ってみよう。


 授業が始まる前にスマホを出してどこかにL○NEを送るみゆき。


 送信、ミナちゃん

『予定変更よ、もうちょっと待ってみよう。』


 友達の美那は綺麗な女の子なんだけど、ちょっと怖いって言うか…性格が悪いのは今も同じだと思う。白川の件で美那に連絡をしたけど、今はちょっと引き下がる時だからこっちに呼ぶのはまた今度にしよう。


 返信、ミナ

『へえ…?どうしたの?蓮くんと付き合いたいって本当だったの?」

 送信、ミナちゃん

『うん…』

 返信、ミナ

『私なら、今日のうちにみゆきちゃんの前に連れて行くけど?どこにいる?蓮くんは?』

 送信、ミナちゃん

『余計なことはしないで、今がちょうどいい時だから。私はミナちゃんのように、傷つけたりしないよ。』

 返信、ミナ

『はいはい。まぁ…あの子がカッコいいのは事実だから、あのね、みゆきちゃんと付き合う前に私が先に食べてもいい?いいでしょう?』


 何を言ってんの…?


『急に思い出したら、やりたくなっちゃうー!連絡先とかある?』

『ねね!みゆきちゃん、返事遅ーい!』

 送信、ミナちゃん

『そんなことできるわけないでしょう?私のものだよ。』

 返信、ミナ

『冗談だよーでも、どうなるかな。ちょっと興味あるかも…』

 送信、ミナちゃん

『余計なことをしたら、ただではすまないよ?』

 返信、ミナ

『はいはい。』


 白川が変なことさえ言わなければ今がちょうどいい時だよ。

 蓮くんに会いたい…好きだよ…


 机に突っ伏して目を閉じるみゆき、授業が始まる前まで蓮のことを想像していた。

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